教養としての日本思想・文化➀:日本の風土と自然観

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モンスーン型:和辻哲郎『風土』によれば、豊かな恵みをもたらしたり、巨大な暴威をふるう気まぐれな自然の前に、アジア世界は受容的、忍従的になるとしました。

「日本の自然は、残忍な破壊力と慈母の優しさを兼ね備えた、鬼子母神(きしぼじん)である。」:和辻哲郎は、日本はモンスーン型の中でも特殊で、四季の変化が著しく、突発的な台風や大雪があり、熱帯的かつ寒帯的な二重構造を持つと指摘しました。

「しめやかな激情、戦闘的な恬淡(てんたん)」:和辻哲郎は、二重構造を持つ自然の中で育まれた日本人は、激情的・戦闘的だが、あきらめがよく、あっさりと融和する性格であるとしました。

「天災は忘れた頃にやってくる」:夏目漱石の弟子にして、関東大震災を経験した科学者である寺田寅彦の言葉です。寺田寅彦は「文明が進めば進むほど、災害は激烈さを増す」と警告する一方、「災害文化」として、「わが国のようにこういう災禍の頻繁であるということは一面から見ればわが国の国民性の上に良い影響を及ぼしていることも否定し難いことであって、数千年来の災禍の試練によって日本国民特有のいろいろな国民性のすぐれた諸相が作り上げられたことも事実である」と指摘しています。

ハレとケ:伝統的な稲作社会で生まれた、人々の生活文化を日常のケと非日常のハレに分ける考え方。ハレは祭りや年中行事が行われる、特別で神聖な日であり、この時に着る服を晴れ着と言います。

四季と旬(しゅん):季節感を行事と食事を通して大切にすること。
(1)春:花見(梅、桜、桃)、桃の節句、端午の節句、春の七草、春キャベツなど。
(2)夏:七夕、海開き、土用の丑の日、お盆、初ガツオ、新茶など。
(3)秋:仲秋の名月、月見、紅葉、新米など。
(4)冬:初雪、大晦日、正月、書き初め、節分、鍋 など。

雪月花・花鳥風月:日本人の伝統的代表的美意識。これらはとりわけ和歌に詠み込まれて継承・発展させられてきており、自然と共に生き、自然を大切にし、自然を愛してきた精神の現れとされます。

ますらをぶり:賀茂真淵が指摘した、奈良時代までの和歌の集大成である『万葉集』の男性的で力強く、大らかな歌風。

たをやめぶり:賀茂真淵が指摘した、平安時代を代表する最初の勅撰和歌集『古今和歌集』の女性的で優美・繊細な歌風。真淵はこれを批判しますが、弟子の本居宣長はこれを評価しました。

もののあはれ:本居宣長が指摘した、平安時代を代表する世界最古の小説『源氏物語』に見られるような、しみじみとした情趣。

をかし:平安時代を代表する随筆『枕草子』に見られるような、知的なおもしろみ、風情。

無常感:仏教の諸行無常思想が末法思想と共に浸透し、情緒的・詠嘆的に育まれてきた感性。平安時代末期から鎌倉時代以降、顕著に表れてきた意識で、四季の恒常的変化が毎年繰り返される自然環境と有為転変が激しい人間社会が対照的にとらえられました。

幽玄:藤原俊成が指摘した、鎌倉時代を代表する『新古今和歌集』の神秘的で奥深い美。もののあはれから派生し、無常感の影響を受けた美だとされ、能楽を大成した世阿弥も『風姿花伝』などで継承・発展させました。

有心(うしん):俊成の幽玄を継承した理念で、やはり余情を重んじますが、より技巧的で妖艶な美が主調となっています。俊成の子で、共に『新古今和歌集』を編纂した藤原定家は、有心を和歌の最高理念としました。

わび:室町時代の禅僧による五山文学、茶道、水墨画などに見られ、無常感を背景に持ち、幽玄を継承した閑寂で枯淡の味わいを示す理念。

さび:松尾芭蕉の俳諧の根本理念で、わびと同様、閑寂で枯淡の境地であり、自然と一体化して世俗を超越した精神の現れとされます。

粋(すい):浮世草子や浄瑠璃で描かれている、元禄期の上方で理想とされた遊びの哲学。決して官能に溺れず、人情の機微を察知し、適切に物事に対処していくことを言います。対義語は無粋(ぶすい))です。これが江戸に移り、知的な要素がより加わったものが意気(いき)で、身なりや振る舞いが洗練されていることを言います。

通(つう):意気と同じく、上方の粋が江戸に移ったもので、黄表紙・洒落本・人情本などの理想的理念です。旬のものを好むことも通です。逆に通の境地にまで至らず、外面のみ真似るものを半可通、通や意気を全く介さないものを野暮(やぼ)と言います。

島国根性:他国と交流の少ない島国に住む国民にありがちな、視野が狭く、閉鎖的でこせこせした性質や考え方。鎖国意識などと共に否定的にとらえられますが、その一方で大陸・半島から一定の距離を隔てた島国であるがゆえに、大陸・半島で失われた伝統や文化が保存されたり、独自の発展を遂げたりするプラス要因になった面もあります。

ムラ社会:地縁・血縁などの所縁からなる生活共同体+協働共同体。共同体の成員がムラ意識を持つことに特徴があります。日本では「人に迷惑をかけるな」ということが子どもの頃から第一義的に教え込まれますが、これはムラ社会の掟のようなものです。また、会社も協働共同体なので、「ウチの会社」という身内意識が働きます。

模倣性と独創性:日本文化には自然をそのまま愛でる伝統を持ちつつ、切り取って生け花にしたり、枯山水(かれさんすい)のように自然を庭園に凝縮表現したりするような二重性があります。また、華道、茶道、書道、柔道、剣道、武道などのように本来は単なる技術だったものが、道徳性を帯びてきて、人格形成を目的とした「道」と化していくことは日本文化の独創性かもしれません。「道」にまで至らなくても、どの職業分野でも「職人気質(かたぎ)」は容易に生じてきます。あるいは、先進文化地帯であった中国から何でも模倣しているように見えますが、科挙、宦官(かんがん)、纏足(てんそく)などは入れていませんし、犬や猫を食べる風習も無いので、何らかのフィルタリングがかかっているようです。法律や制度でもアレンジをどんどん行っています。

雑種(ハイブリッド)文化:日本列島は南北に長く連なり、亜寒帯(冷帯)気候・温帯気候・亜熱帯気候といった多様な気候帯があり、山地・平野・河川・海洋から豊富な産物を得る農林水産業が古来発達し、北方アイヌ人と南方琉球人に代表されるような縄文文化と半島渡来の弥生文化が融合するなど、多様性・多重性・多層性が日本文化の大きな特徴となっています。また、文字も漢字をベースにひらがな・カタカナが創造されて、世界でも珍しい3文字言語となっています。さらに、古来の神道にすら外来性があり、そこへ儒教・仏教・道教(陰陽道)やキリスト教も入ってきて、独自の折衷的雑教である日本教が形成されているという指摘もあります。
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