教養としてのギリシア神話②:オリュンポス12神以前の神々

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カオス(混沌):空隙とも言われ、宇宙の原初状態を指します。道家思想における「無」に相当します。カオスの対義語がコスモス(秩序、宇宙)ですから、儒教の宋学で言えば、「無極」がカオスで、それ以降の「太極→両儀(陰陽)→四象→八卦」がコスモス、宇宙論で言えばビッグバン以前のインフレーション期までの宇宙がカオスで、ビッグバン以降の宇宙がコスモスと言ってもいいかもしれません。カオスに続いて、ガイア(大地)、タルタロス(奈落、冥界よりさらに下の世界)、エロース(原愛)が生じます。タルタロスはプラトンによって地獄とされ、『新約聖書』ペテロ第二の手紙にも出てきます。エロースはプラトンによって実在界のイデアを思慕する精神作用とされますが、ローマ神話で擬人化・幼児化され、軍神アレスと愛と美の女神アプロディテとの間の子「アモール」「クピードー(英語のキューピッド)」とされます。本来は宇宙の根本的動力のようなエロースでしたが、次第に人間の性的衝動(エロス)に矮小化され、フロイトの精神分析学ではリビドー(欲動)論となりました。

ガイア(大地):あらゆるものの母であり、ガイアからエレボス(暗黒、地下世界)とニュクス(夜)の兄妹が生まれ、この2人が夫婦となってからヘーメラー(昼の光)とアイテール(上天の気)とカロン(冥界に至る川の渡し守)が生まれたとされます。『旧約聖書』創世記では、「はじめに神は天と地とを創造された。地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。神は「光あれ」と言われた。すると光があった。神はその光を見て、良しとされた。神はその光とやみとを分けられた。神は光を昼と名づけ、やみを夜と名づけられた。夕となり、また朝となった。第一日である」とありますので、ここに相当する部分かもしれません。アイテールはエーテルのことで、アリストテレスがエンペドクレスの四元素説を拡張して天体を構成する第五元素とし、これがスコラ神学にも受け継がれて、中世のキリスト教的宇宙観において天界を構成する物質とされました。カロンはダンテの『神曲』にも登場します。さらにガイアは息子ウラノス(天空)を生んで夫婦となりますが、空と大地を原初的な二柱の神と考えることは全てのインド=ヨーロッパ民族に共通しており、インドの『リグ・ヴェーダ』でも空と大地は「不滅の夫婦」と呼ばれています。

ウラノス(天空):ガイアとの間にクロノスとレアらティターン12神やキュクロープス、ヘカトンケイルなどの巨人を生みます。ウラノスは天王星(ウラノス)の語源であり、ティターン(英語のタイタン)はチタン(元素)、タイタン(土星の衛星)、タイタニック号など様々な名称に使われています。イオニア人・アカイア人・ドーリア人ら第3派ギリシア人がペロポネソス半島に南下した時、ミュケナイ、ティリュンス、アルゴスなどに代表されるミケーネ(ミュケナイ)文明の巨石建造物の数々を巨人キュクロープスの手になるものと考え、「キュクロープスの石造物」と呼びました。これはイギリスのストーンヘンジに代表されるストーンサークルやヨーロッパ各地のメンヒル、ドルメンといった巨石記念物を巨人の遺物と考えられたことと同様です。

クロノス(農耕):「時計」(クロック)の語源となった「クロノス」(時間)は別存在ですが、よく混同されます。万物を切り裂くアダマスの鎌でウラノスの性器を切り取って追放した後、レアと夫婦になり、炉の女神ヘスティア、豊穣の女神デメテル、結婚と出産の女神ヘラ、冥界の王ハデス、海の王ポセイドン、神々の王ゼウスらを生みます。ローマ神話では農耕神サートゥルヌス(英語のサターン)となり、土星(サターン)の語源となりました。また、ヘシオドスの『仕事と日々』によれば、クロノスの治世が「黄金時代」と呼ばれ、「黄金時代」の語源となります。その後、レアによって密かにクレタ島にかくまって育てられたゼウス率いるオリュンポスの神々との戦争(ティタノマキア)が起こり、クロノスはティターン神族を率いて10年間戦いますが、ガイアの助言でウラノスがタルタロスに閉じ込めたキュクロープス、ヘカトンケイルを味方につけたオリュンポス神軍に敗れ、逆にティターン神族がタルタロスに閉じ込められます。
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