教養としてのギリシア神話➀:世界文学の中のギリシア神話

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ギリシア神話:ホメロスやヘシオドスらによる古代ギリシア及び周辺地域の伝承の集大成であり、アイスキュロス、ソポクレス、エウリピデスの「三大悲劇作家」に代表されるギリシア悲劇の詩人達によって奥行と人間的な深みがもたらされ、ヘレニズム期のアレクサンドリア図書館での整理を経て、1世紀頃にアポロドーロスの『ビブリオテーケー』(ギリシア神話)によって今日のような形となりました。ヨーロッパの教養の源泉にして、今なお造語・造話の源泉として人々にインスピレーションを与え続けています。

ホメロス:叙事詩『イリアス』『オデュッセイア』。「世界文学」において、古代を代表する詩人です。トロイア戦争を中心に描いた『イリアス』『オデュッセイア』は北欧神話の「エッダ」「サガ」、ペルシア(イラン)神話の叙事詩『シャー・ナーメ(王書)』、インド神話の叙事詩『マハーバーラタ』『ラーマーヤナ』、日本の『古事記』などと共に世界を代表する神話ですが、考古学者ハインリヒ・シュリーマンの発掘によって、史実を反映したものであることが実証されました。現代でもギリシアの中高生は日本の古文のごとく、ギリシアの古典文学として『イリアス』『オデュッセイア』を学んでいます。

世界文学:時代精神を代表し、世界的歴史的に多大な影響を与えた文学を指します。以下の人物・作品以外にも優れた古典はありますが、これらの人物・作品抜きに世界文学を語ることはできないと言えます。

(1)古代:ホメロス(ギリシア)。これに匹敵するのはギリシア語で書かれた『聖書』です。ヨーロッパの精神的伝統は人本主義的・思想的なヘレニズムと神本主義的・宗教的なヘブライズムの二本柱ですが、ギリシア神話とギリシア哲学がヘレニズムの原点であるとすると、『聖書』がヘブライズムの原点でしょう。ローマ最大のラテン詩人ウェルギリウスのローマ建国を描いた叙事詩『アエネーイス』もホメロスの『イリアス』を下敷きにしています。『オデュッセイア』の主人公オデュッセウスの英語名はユリシーズで、20世紀のアイルランドを代表する作家ジェイムズ・ジョイスの長編小説『ユリシーズ』は『オデュッセイア』を下敷きにしています。

(2)中世:ダンテ(イタリア)。地獄・煉獄・天国を巡る壮大な世界観を展開した『神曲』は西洋において最大級の賛辞を受けており、「世界文学」を語る際にはほぼ筆頭の位置に置かれ、明治以降の日本の文学者にも多大な影響を及ぼしました。アウグスティヌス(イタリア)の『告白』もその後、中世の1000年にわたってキリスト教徒の作家に強い影響を及ぼしたのみならず、近代哲学や人生論にも影響を与え続けました。

(3)近世:シェークスピア(イギリス)。『ハムレット』『オセロー』『マクベス』『リア王』の四大悲劇などが有名ですが、イギリスでは「世界最大の詩人」とされるのみならず、近代英語の半分はシェークスピアが作ったとまで言われます。実際、ロンドンで初めて『ハムレット』を観劇したある老婦人が、「シェークスピアの作品は、私のよく知っている名言・名句ばかりで成り立っているのね」と言ったというエピソードが伝えられるほど、シェークスピアの造語・造句・造文が英語表現の基層の一部となっています。また、ホメロス・ウェルギリウスらの叙事詩の伝統を受け継ぐ「第三の叙事詩人」ミルトン(イギリス)の叙事詩『失楽園』(Paradise Lost)も、『フランケンシュタイン』を始めとする様々な物語の原型となり、今でもよく英語メディアの見出しに使われます。

(4)近代:ゲーテ(ドイツ)。「世界市民」「世界文学」などの視点を持った近代型万能人で、『ファウスト』『若きウェルテルの悩み』などで近代的理想主義を描き、フランス革命の風雲児ナポレオンもゲーテに会って興奮したとされ、共産主義革命の理想を追求したマルクスやレーニンらもゲーテを愛読しています。また、グリムが作成した『ドイツ語辞典』にはゲーテの作品から多くの引用がなされており、現代ドイツ語の形成にも大きな影響を及ぼしました。また、シラー(ドイツ)はゲーテの友人で、共に疾風怒濤時代(シュトルム・ウント・ドラング)を形成し、この言葉は青年期の様相を表す言葉として転用されています。シラーはドイツのみならずイタリアやフランス、ロシアなどでも「自由の詩人」「市民の代表としての反抗者」として熱烈に歓迎され、現代ドイツでも「ドイツ詩の手本」として教科書に掲載され、生徒らによって暗誦されています。

(5)現代:ドストエフスキー(ロシア)。『罪と罰』『白痴』『悪霊』『カラマーゾフの兄弟』。近代人の理性の行き着いた果てにして、現代人の実存的苦悩を描いています。「ドストエフスキーの弟子」を自認したカミュをはじめ、ジイド、プルースト、ヘルマン・ヘッセ、ニーチェ、フロイト、ハイデッガー、サルトル、アインシュタイン、タルコフスキーなど、多くの作家、思想家、芸術家等にインスピレーションを与え続け、日本を代表する現代作家でもドストエフスキーに影響を受けなかった作家は皆無と言われます。『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』『復活』などを書いたトルストイ(ロシア)も、文学のみならず政治・社会にも大きな影響を与えており、その人道主義・非暴力主義・反戦主義は日本の白樺派や与謝野晶子らのロマン主義、さらには社会主義などにも多大な影響を与えました。

ヘシオドス:古代ギリシアの詩人、『神統記』『仕事と日々』。『神統記』に見られるギリシア神話の系統的記述は、「神々の誕生の物語」(テオゴニア)であると同時に「宇宙誕生の物語」(コスモゴニア)でもあり、これが「宇宙論」(コスモロギア)に発展して、1世紀後に現れるミレトスの「自然哲学」を準備することになります。
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