【歴史エンタメ記事】中国史上の宦官と中華ファンタジーの宦官

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宦官とは、中国の王朝において、皇帝の身辺に仕えていた者たちです。
見た目は男ですが、幼い時に、去勢手術をしているため、男でも女でもない状態にあります。
なぜ、去勢手術をするのかと言うと、皇帝の妃や女官と密通して、懐妊させてしまう事態を防ぐためです。
その他に、こうした宦官を従わせることで、皇帝の支配欲を満たすという意味合いもあったようです。

いずれにしても、宦官は、去勢手術(自宮とも言います)したことにより、性欲を失うか、満たすことができない状態になります。
その分、欲望が出世欲とか、金銭欲と言ったものに振り向けられるようになり、政治において、大きな権限を振るうようになるわけですね。

宦官と言えば、日本でもよく知られているのが、三国志の十常侍でしょう。張譲らの宦官が権力を握って、腐敗した政治を行ったために、黄巾の乱が起き、三国時代の幕開けとなるわけです。

三国志では、張譲らの宦官が、徹底的に悪役として描かれています。その後の時代でも、宦官は、政治の腐敗の原因となることが多く、良いイメージはあまりありません。

特に、明の時代に、永楽帝によって創設された宦官を中心とした秘密警察的な組織である東廠は、当時の人々を畏怖させる存在でした。

宦官は、中華小説、華流小説やドラマでも、よく出て来ます。

大抵は、皇帝の腰巾着、虎の威を借りる狐として、描かれていますが、宦官の役得をテーマにした小説やドラマもあります。
宦官は後宮と言う皇帝の私生活の場で暮らすことができる特権階級の人々です。
後宮には、宦官以外にも、妃や女官がたくさんいました。その多くは選りすぐりの美女です。
中国の後宮は、とてつもない広さがありますから、男がこうした美女と密通しようとすれば、いくらでもチャンスはあります。
しかし、自宮している宦官は、そんな美女たちと密通して性欲を満たすことはできません。

そこで、こう考える小説家もいたのでしょう。
「もしも、宦官が自宮していなかったとしたら? 」
宦官は、採用される際に、自宮した証である宝を見せることになっていました。その宝を自分の物ではなくて他人のをもらっていた。自分の物はちゃんとついている状態だったら……。
いわゆる偽宦官を主人公とした小説は、中国でもよく描かれています。

代表的な例として知られているのが、金庸の「鹿鼎記」です。
清の時代、主人公の少年韋小宝が、後宮に潜り込んで、少年宦官と入れ替わってしまう。そして、時の少年皇帝である康熙帝と仲良くなって、立身出世し、最終的には、7人もの美女を奥さんにしてしまうというハーレム小説です。
もちろん、韋小宝は自分の物がちゃんとついていますから、やりたい放題です。
鹿鼎記では、その場面はあまり濃厚に描かれていませんが、偽宦官が美女ばかりの後宮でハーレム生活を送るというプロットは、その後の中華ファンタジーでもよく取り入れられています。


また、宦官は、「恐ろしいほどの武術の天才」であるという設定で描かれることもあります。

中国の武術の思想として、「童子功」があります。武術家が童貞を守って、修練に励めば、一流の武術家になれるという発想です。
童子功を積んできた男の主人公が、美女のヒロインと出会ってしまい、童貞を捨てるか、つまり、童子功に基づく武術を捨てるか、悶々とするというのが華流ファンタジーあるあるの設定です。
物がついている男は悩むことになりますが、宦官はそんなことで悩む必要はありません。
それだけに、武術の修行に専念することができ、その結果、化け物のような天才武術家になってしまうわけですね。

その様な宦官が描かれる代表的な作品として、金庸の「笑傲江湖」が知られています。
この小説はある宦官が極めた武術の秘伝書「葵花宝典」をめぐる争いを描いています。
葵花宝典の冒頭には、「この武功を極めたければ、まず自宮しなさい」と書かれています。葵花宝典を手にした武術家たちが、自宮してまで、武術を極めようとする。最初に実行した東方不敗は、日月神教の教主として世間を震え上がらせる存在になりました。
東方不敗に対して、主人公の華山派の若き剣術家令狐冲が、戦いを挑む。令狐冲を取り巻く人々は、行方が知れなくなった葵花宝典を手に入れようとして暗躍する。裏切りや陰謀も繰り広げられる。そんな物語です。

宦官に武術の天才が多かったのかどうかは分かりません。
去勢してしまうと、身体的には女性のようになるとも言われているので、むしろ、普通の男よりも弱くなるイメージもあります。
しかし、宦官は、皇帝の身辺警護も担っていましたから、それなりに武術ができる人もいたのでしょう。
実際に、実在する中国武術の一つ八卦掌は、清の時代に宦官だった董海川によって生み出されたとも言われています。

このように、宦官は、特異な存在なだけに、中国史においてはもちろん、中華ファンタジーでも、様々な形で描かれています。

宦官は日本では悪役というイメージしかないかもしれませんが、掘り下げれば面白い人物も出て来ますし、中華ファンタジーなどのネタとしても使えます。

中国史、中華ファンタジーについて、掘り下げた記事を書きたいとお考えでしたら、お問い合わせください。

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