改正親族法を確認しよう 『その出生の直近の婚姻における夫の子』とは誰か?

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法律・税務・士業全般
今回は、改正親族法の話です。
改正親族法とは、2024年(令和6年)4月1日から施行される、いわゆる嫡出推定規定の改正のことです。

通常、改正法と言うのは、旧法の曖昧な規定を明確にしようということで制定されるわけです。
改正後は、旧法に比べて、すっきり、明快になることが多いですね。
債権法改正なんかは、その典型例で、旧民法のごちゃごちゃした瑕疵担保責任の規定が、契約不適合責任に統合されて、すっきり明快になりました。
受験生にとっても勉強しやすくなったと思いますし、実務家としても、仕事がしやすくなったと言えるわけですね。
でも、今回の改正親族法は……。
ちょっとややこしい表現が出てくるので、注意が必要です。

今日のテーマの嫡出推定規定と言うのは、次の条文ですね。

現民法
(嫡出の推定)
第七百七十二条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

この嫡出推定があるために、婚姻関係にあっても別居している女性が夫以外の男性との間に子を産んだとしても、夫の子と推定されてしまう。離婚したとしても、離婚後300日以内に生まれた子は、離婚した夫の子と推定されてしまう。
それを避けるために、生まれた子について、出生の届出をしないという事例がありました。いわゆる「無戸籍者問題」が生じていたわけです。
これを解消しようというのが、今回の改正の一つの目的です。

では、どのように改正されているのか見てみましょう。

改正民法
(嫡出の推定)抜粋
第七百七十二条 妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。
3 第一項の場合において、女が子を懐胎した時から子の出生の時までの間に二以上の婚姻をしていたときは、その子は、その出生の直近の婚姻における夫の子と推定する。

まず、1項に、「妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。」と規定されています。
つまり、婚姻中に妊娠したなら、その婚姻中の夫の子と推定していいということですね。この点に変わりはありません。

この改正で重要なのは、1項後段の部分です。
「女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。」
女が婚姻前に懐胎したならば、1項前段の規定によれば、当該婚姻における夫の子と推定されないはずなんですね。でも、「婚姻が成立した後に生まれた」のであれば、当該婚姻における夫の子と推定してよいということになりました。

併せて、女性の再婚禁止期間の規定が撤廃されました。
現民法では、女性は、離婚後100日経過しないと再婚できないことになっていましたが、改正後は撤廃されたので、女性も離婚して、即再婚できるようになりました。

すると、前婚中に妊娠して、後婚で出産した場合どうすればいいのかと言う問題が生じます。
例えば、女性が離婚する前から後婚の夫と付き合っていて、妊娠した。離婚前から前婚の夫とは完全に絶交していた。としましょう。
でも、妊娠した時期は、前婚の夫と結婚している時ですから、「妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。」と言う規定が適用されます。つまり、前婚の夫の子と推定されるわけですね。
一方で、後婚してから出産した場合は、「女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。」と言う規定が適用される。つまり、後婚の夫の子と推定されるわけですね。
どちらも適用できてしまうため、どちらを適用すべきか考えなければならないわけですね。

そこで、3項の規定が置かれました。
 女が子を懐胎した時から子の出生の時までの間に二以上の婚姻をしていたときは、その子は、『その出生の直近の婚姻における夫の子と推定する。』とあります。

『その出生の直近の婚姻における夫の子と推定する。』

この意味わかりますか?

私は、この表現を初めて見た時は、
「一体、どっちの夫を指しているんだ? 」
と混乱しました。
そして、法務省の法制審議会の資料とか専門書を漁って、「後婚の夫の子と推定される」と言う意味だと分かるまで、小一時間はかかりましたね。

「その出生時の婚姻」における夫の子と推定する。と書いておけばいいのに、なぜ、「その出生の直近の婚姻」というややこしい表現にしたのか謎でした。

「その出生時の婚姻」における夫の子と推定する。と書かなかったのは、後婚の夫とも離婚した後で、出産した場合に、どちらの子と推定されるのかの問題がやはり生じてしまうからですね。

つまり、女性が、前婚の夫との婚姻期間中に、後婚の夫と付き合って妊娠。前婚の夫と離婚した後で、後婚の夫と再婚。しかし、再婚後、すぐに離婚。その後で出産した。
こういうふうに妊娠中の女性が短期間で、離婚、再婚、離婚を繰り返した場合も想定しての規定のようですね。
この場合は、その出生の直近の婚姻における夫の子と推定するわけですから、後婚の夫の子と推定することになるわけですね。

今日の話は、『その出生の直近の婚姻における夫の子』とは、『後婚の夫の子』と言う意味だという話でした。

『その出生の直近の婚姻における夫の子』の意味は、実務家の方は、クライアントから聞かれますし、試験でも、事例問題で、どちらの夫の子と推定するのかと言う問題が出されると思います。
今日の話を理解して説明できるようにしておいてくださいね。

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