命がけの恋の結末

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太宰治と同郷の寺山修司は玉川上水で心中した太宰を確信犯のように書いています。これまで通り逃げようとしたに違いない。確かに彼は4度も自殺や心中未遂を繰り返している常習犯だし、そうとらえるのが自然です。しかし太宰の死に顔は安らかだったといいます。寺山の考察とは矛盾が生じるのです。玉川上水で何があったのか。その真相について考察してみようと思います。当時は無頼派、特に太宰の絶頂期でした。死にたがりの道化の太宰は心中相手の女性に命がけの恋をしてみないかといって口説きます。何とも太宰には似つかわしくないセリフです。もちろん彼にそんな恋愛体験はありません。太宰の念頭にあったのは七里ヶ浜で心中し、亡くなった女性だと思います。太宰がまだ学生の頃、カフェーで女給と意気投合し、起こしてしまった心中事件。相手の女性は太宰と気が合うくらいだから相当な感性と教養の持ち主であったのは確実で、もちろん美人です。ただ、この心中は奇妙な事件でした。太宰に死ぬ気は毛頭なく、相手の女性は太宰に惚れたふりをしていましたが、死の間際に叫んだ名前は太宰ではなく、彼の全く知らない人だったのです。それが誰だったのかはわかりませんが、太宰が本命でなかったのは確かです。彼女が命がけの恋をしていたのは確実で、その相手が内縁の夫だったのか、他に好きな人がいたのかは不明ですが、太宰が衝撃を受けたのは確かでしょう。いつかは俺も命がけの恋をしてみたいという気持ちが芽生えたのかもしれません。玉川上水での太宰はこれまでの太宰とは何かが違っていました。道化を演じるのをやめたのです。死にたがりが死ぬ気になった理由がきっとあるはずです。それは税金だと思います。売れすぎた太宰は税金が払えなくなったのです。実際に太宰の知人が税金があまりにも高すぎて払えないとため息をつく太宰夫婦を目撃しています。裏を返せば、それ以外に死ぬ要因が見つからないのです。誰が自分の絶頂期に死にたいと願うでしょうか。周囲の嫉妬やバッシングも相当強かったようですが、無頼派の面々は案外タフでしぶといものです。そう簡単には死にません。太宰が描いたシナリオは相手の女性を本気にさせて自分を滅ぼすというものでした。こうすれば世間は納得するだろうし誰も怪しまないだろう。彼のシナリオ通りにことは運びましたが、いざとなるとやっぱり怖い。相手の女性の死に顔が苦悶の表情だったのも女性が馬乗りになっていたのも一度は太宰が逃げようとしたことを物語っています。ここまでは寺山の考察通りです。しかし、ここからが違いました。太宰は死を受け入れたのです。七里ヶ浜の清算も済ませることができたし、最後に打った大芝居は大成功に終わりました。
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