151 「母親はよくても子には影響あるはず」との声も…「未婚の母」

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「母親はよくても子には影響あるはず」との声も…「未婚の母」に法的なメリットはある? 弁護士が解説



 結婚をせずに子どもを産み育てる、いわゆる「未婚の母」。
芸能界では、歌手の浜崎あゆみさんやタレントの最上もがさんなど、未婚での出産・育児を選択するケースは少なくありませんが、
「いろんな家族の形があっていい」
「未婚だからこそのメリットもあるのでは」といった肯定的な意見がある一方で、
「母親はよくても、子どもには影響があるはず」
「デメリットの方が大きいと思うけど…」など、この選択に疑問を抱く人もおり、ネット上では常に賛否が分かれています。



「未婚の母」という選択を法的に見たとき、どのようなメリットとデメリットが考えられるのでしょうか。
佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
「認知」がない限り、法的な父親は不在に




Q.法的に、結婚後に妊娠・出産する場合と、そうでない場合の違いは何でしょうか。

佐藤さん「最も大きく違うのは法的な父子関係です。結婚していようがいまいが、出産することにより、母子関係は明らかです。
しかし、父親が誰であるかは必ずしも明らかではありません。
そこで、法は『婚姻中に妊娠した子は夫の子と推定する』(民法772条1項)というルールを定めています。
これにより、結婚後に妊娠・出産した場合、『夫が父親』と推定され、戸籍の父親欄には夫の氏名が記載されます。


父子関係を争うには、夫が『嫡出否認の訴え』を起こさなければならず(同775条)、この訴えは夫が子の出生を知ったときから1年以内に提起しなければなりません(同777条)。
従って、結婚してから妊娠・出産すると法的な父子関係は早期に安定します。
妊娠してから結婚する、いわゆる『授かり婚』の場合、いつ結婚し、いつ出産したのかにもよりますが、基本的に『婚姻中に妊娠した』とは推定されず、『夫の子である』という推定も働きません(同772条2項)。
それでも、この場合も戸籍の父親欄には夫の氏名が記載され、婚姻中に妊娠したケースとそれほど大きな違いはありません。
ただし、後に父子関係が問題となった場合、出生から何年たった後でも争い得るといった違いは生じます。



以上が現在の制度なのですが、2022年10月14日、民法改正案が閣議決定されました。
そのため、今後は『授かり婚』の場合も『夫の子である』と推定されるようになったり、嫡出否認制度が拡充され、原則出生から3年以内であれば、父親だけでなく母親や子どもも『嫡出否認の訴え』を提起できるようになったりする可能性があります。
これに対し、結婚しないまま出産した場合、戸籍の父親欄は空欄になり、父親による『認知』がない限り、法的な父親は不在となります。認知がなければ、父親には法的な扶養義務がないため、養育費の支払いを法律上の権利に基づいて請求することができず、子どもは父親の法定相続人にもなれません」




Q.では、結婚せずに出産した場合、「父親」は法的にどう決まるのですか。
佐藤さん「先述したことと関連しますが、父親による認知があれば、法的な父子関係が成立します。
認知は父親が自らの意思で認知届を提出すれば効力を生じますが、父親が認知しない場合、裁判所の手続きにより、強制的に認知を求めなければなりません。
なお、父が死亡して3年経過すると認知の訴えを提起できなくなります(民法787条ただし書き)。このように、結婚しないまま出産すると父子関係が不安定になります」




Q.もし、母親や子どもが認知を求めなかったり、父親が死亡して3年経過するまでの間に認知の訴えを起こさなかったりした場合、法的な父親はずっと決まらないことになるのでしょうか。
佐藤さん「父親が自らの意思で認知せず、母親や子どもも認知を求めなければ、法的な父親はずっと決まらず、戸籍の父親欄も空欄のままです。
そして、父親が亡くなり、3年たってしまえば、法的な父親は不在ということになります。
ただし、養子縁組によって、実父以外の男性と法的な父子関係を結ぶことは可能です」
法律上の明らかなデメリットは「ない」?



Q.出産・育児をする上での、結婚をする/しない、それぞれの選択による法的なメリットとデメリットは。
佐藤さん「結婚する選択をする人、しない選択をする人にはそれぞれの理由があると考えられるので、メリット/デメリットの捉え方は人によって異なるでしょう。
例えば、夫婦別姓を貫きたい場合、母親・父親には結婚しないメリットがあると思います。
先述の父子関係の安定性に関する考え方もさまざまです。
早期に父子関係を安定させることを重視する母親・父親にとっては、結婚してから妊娠・出産するメリットが大きいですし、一般的には、父子関係の安定は子の福祉にかなうと考えられるため、子どもにとってもメリットになると思います。




一方、法的な父子関係を生じさせることによって、逆に、子も父親に対して扶養義務を負うことになりますし、法定相続人になることで、父親の借金を相続してしまうことも考えられます。
こうした父子関係をデメリットと受け止める人にとっては『結婚も認知もしない』という選択がメリットに感じられるでしょう。



また、『認知さえすれば、法律上の父子関係は認められるのだから、結婚はしなくてよい』と考える母親、父親もいるでしょう。
2013年12月より、相続分について、結婚している親から生まれた子と結婚していない親から生まれた子との間にあった不平等が解消され、子にとっても、親が結婚しないことによる法律上の明らかなデメリットはなくなっています」




Q.未婚の母として子どもを育てていく場合、養育義務や金銭面(養育費や生活費など)に関する取り決めはどのように行われることが多いのでしょうか。
佐藤さん「この場合、認知して、法的父親を確定するケースが多いのではないかと思います。
認知があれば、父親は扶養義務(子が父親自身の生活と同程度の生活を送れるようにする義務、民法877条1項)を負うことになります。
その上で、父母で養育費の金額について協議します。双方が合意すれば、金額はいくらでも構いませんが、協議が調わない場合、家庭裁判所で決めてもらうことになります。




家庭裁判所は父母の収入に応じた養育費の相場表を作っており、この表から大きく外れない金額に決まることが多いです。
父母の収入にもよりますが、月額4万~6万円程度に決まるケースが多いのではないかと思います。
なお、認知しないままでも、父母で話し合い、『血縁上の父親が任意に養育費を支払う』という合意もできます」




Q.仮に、女性側が未婚の母として育児をすることを希望しているものの、(子の父親である)男性側が結婚や親権を望んだ場合、どうするのがよいのでしょうか。
佐藤さん「父親である男性が結婚を望むならば、まずは女性とよく話し合い、結婚に同意してもらうよう働き掛けることが大切です。
しかし、結婚は双方の合意がなければ成立しないため、妊娠・出産という事実があったとしても女性側が応じない限り、結婚することはできません。
結婚できない場合、まず、男性は子どもを認知し、法的な父親になります。
その後、親権者を父親と定められないか母親と話し合うことになります(民法819条4項)。
話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所に親権者の変更を認めてもらう手続きをします。
家庭裁判所は子どもの福祉の観点から、親権者としてふさわしいのは誰かを考えるため、父親としては子どもとたくさん交流し、のびのび育てていける環境を整えることなどに努めるとよいでしょう」




Q.近年、芸能界では、未婚の母を選択するケースが増えており、ネット上でも「経済的に何とかなるなら私もそうしたい」という声がある一方で、「子どものことを考えると、カジュアルに未婚を選択すべきではないと思う」との声も少なくないようです。
佐藤さん「結婚や妊娠、出産、家族の在り方についてはさまざまな価値観が存在します。
また、それぞれが置かれている状況もさまざまで、母親・父親にとっても、子どもにとっても、どのような選択がよいのかはそれぞれ異なるものだろうと思います。
私自身は父子関係の安定は子どもにとって大切なものだろうと考えており、結婚してから、妊娠・出産しました。
母親、父親となる人は自身の価値観や生まれてくる子どもの幸せと真剣に向き合い、それぞれが自由に選択することが大切だと思います」

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