ちいさな小説「おにぎりの味、」

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朝起きてからの行動は大体決まっている。顔を洗ったり、着替えたり。毎日変わることのないルーティンのなかで、唯一変わるものがある。
朝ごはんの「おにぎりの味」だ。ただただ塩をかけただけの何の変哲もない普通のおにぎり。味を変えているわけではないけれど、その日によってなぜか味が違う。今日は、いつもよりなぜか苦く感じた。


ぼーっとしているうちに、6限の終わりを告げるチャイムが鳴り、廊下や階段は帰る人たちでいっぱいになっている。そんな中に紛れて部活へと向かった。学校の雰囲気とはかけ離れた昔ながらの横引きの戸。その横に立てかけてある「茶道部」と書かれたおんぼろな板。クラスメイトは薄気味悪いと言うが、自分はこの独特な雰囲気が結構好きだったりする。
がらっと戸を引くと、大好きな茶道部の先輩と、しつこくマネージャーに勧誘してくる大っ嫌いなサッカー部の先輩がいた。「今日こそは決める」と自分に言い聞かせ、大きく息を吸った。


「マネジャーなんてやるか!二度とここにくんなぁぁぁ!」


ありったけの力で叫んだ。突然のことに茶道部の先輩は驚いていたが、先輩も立ち上がり大きく息を吸った。

「茶道部の邪魔すんなぁぁ!」

二人分の叫び声が響き終わる頃には、サッカー部の先輩はいなくっていた。
やっと茶道ができる。誰にも邪魔されずに茶道ができる。そのうれしさに、先輩と私の顔には笑みが溢れた。


次の日の朝。いつもとなにも変わらない朝。
けれど、今日のおにぎりの味はなぜかとても美味しかった。


END


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