ちいさな小説 「くもりじゃない」

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土曜日の昼下がり。一週間のなかでいちばん好きな時間。
でも、天気はあいにくの曇り。別に外へ出るわけじゃないけど、なぜか気分もちょっと曇り模様だ。そんなはっきりしない気持ちのまま、ぼーっと空を眺めていると、遠くの方にほんのすこしだけの晴れ間を見つけた。

くもりのなかで負けることなく、「私はここにいる」とアピールするかのように。強く、どこか儚い光を放っていた。その光にすっかり魅了されてしまった私は、棚の奥に眠っていた一眼レフを引っ張り出して、気の赴くまま写真を撮り続けていた。レンズ越しに見る光もどこか儚く、美しいものだった。

撮影に満足した頃、私の気分は曇りなんかじゃなく、晴天へと変わっていた。
あの晴れ間は、もしかしたら「今日は曇りだ」と思ってもらいたくなかったのだろうか。そんな気がした。確かに今日は曇りだけれど、あの場所は曇りじゃなかった。晴れ間を見つける前の私は、たくさんの雲にしか目を向けていなかったんだ。小さいけれど晴れ間はある。ちいさな光を見逃しちゃいけない、きっとそうなんだ。

「今日はくもりじゃない」

心の中で何かが変わった気がした。

END
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