【学部・学科ごとに特化せよ】小論文の書き方・考え方①

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(1)市販の参考書を読むだけでは力はつかない


これから書く文章は、いまから小論文の勉強を始めようという受験生を対象とするものです。

巷(ちまた)では、小論文の参考書が多く発売されていますが、私から言わせればそれらの多くは、原稿用紙の使いかたなどの基礎を学ぶにはよいですが、いざ実際に小論文の過去問を書いてみようというときに、ほとんど使い物にならないものが多い、というのが正直な感想です。

なぜか。

入試小論文では、学部・学科ごとに考え方が異なるからです。

市販の小論文参考書は多くの読者に買ってもらいたいために、裾野を広げて学部学科ごとの書き方の要点という肝心かなめのポイントを抜きに解説をしているので、こうした本を読むだけでは実践力はほとんど身につかないということになります。

(医歯薬看護系の参考書は除く)

今回の結論を先に書くと

「学部・学科ごとに書く答案の内容を変えて書く」

という当たり前だけれども、従来はあまり語られてこなかったことを指摘して、その実践例を実際の過去問に即して解説してみたいと思います。

(2)課題文型の小論文の読み方


入試小論文の問題形式には大きく分けて次の3つのタイプがあります。

①テーマ型

②課題文型

③図表・グラフ問題

①のテーマ型は、いきなり設問を出すタイプです。たとえば、次のような問題がこの型になります。

「あなたの身の回りで起こっている環境問題をひとつ挙げ,原因や対策などあなたが知っていることを述べなさい.(600字以 内)」立正大学地球環境科学部公募制推薦入学試験問題 2019年度

これに対して、入試小論文の大半は②の課題文型で、参考文がついていて、これを読んだうえで文章の内容を踏まえて自分の意見を書くものです。

この課題文型の解き方を簡単に解説します。

1.課題文は最低2回読む。

2.一度目は線を引かずに集中して読む。全体の要旨を捉えながら一気に読む。

3.二度目は要約する場合に重要なところに線を引いたり、キーワードにまるをつけたり、接続詞に注意したりして、細部まで丁寧に読む。

4.二度目に読んだときに、思いついたアイデアをメモ書きしたり、本文の具体表現を抽象表現に言い換えたりしながら読む方法もあります。

それでは、以下に実際の入試問題をもとに考えてゆきましょう。

(3)問題


「『文化』と『文明』の違い」高知大学人文社会科学学部国際社会学科前期2023年

次の文章を読み,あとの設問に答えなさい。(100点)

では,そもそも「文化」とは何でしょうか?

① 「文化」はあまりにも広く深い概念ですが,ここでは,ごくかんたんにおさえておきます。

② 日本語の「文化」の語源は,中国由来の「文治教化」。すなわち,刑罰威力を用いずに文によって民を教化することを意味します。ほかにも,あらゆる物事や眼にみえない事柄を言語化していくこと,「文」章「化」していくことなど,「文化」という言葉の意味するところは幅広いものがあります。

③ 年号としての「文化」は,江戸時代後期,西暦では一八○四年から一八年にあたる時期で,のちの「文政」と合わせて,文化・文政時代と呼ばれます。

④ 近代以降は,英語の「カルチャー」に相当する翻訳語としての「文化」がふつう用いられますが、これは,大正時代に,ドイツ語の「Kultur」から日本に導入されたもので,西欧語の「カルチャー」は「耕す」「培養」などの意味を持つ言葉です。「文化」が「耕す」という言葉からきているというのは,「未来に花を咲かせるために種をまくこと」「未来のために耕すこと」を現代における文化の目的と考えると,わかりやすいかもしれません。

⑤ 文化を「耕すこと」とするならば,すべての出発点は「土」にあります。ぼくたち陸に生息するすべての生命は,忘れられがちですが,土がなければ生きられません。

では,土_とは何か?

⑥ 作家の星野智幸は著書『植物忌』のなかで「土は,生きている微生物や虫と,枯れた植物の体や虫の死骸,排泄物,それに鉱物などの無機物からできている。
生死が渾然こんぜん一体いったいに混ざって区別のつかない,生きていることと死んでいることのトワイライトゾーンだ」と,いかにも作家らしい表現をしています。

⑦ 土は,生命を育むだけでなく,あらゆる文明の寿命を決定するほどの役割を担っていると主張するのは『土の文明史』の著者デイビッド・モントゴメリーです。「ざっとみれば文明は束の間である――発生し,しばらくは栄え,衰える」「かつて繁栄した文化が終末を迎えた原因として,歴史学者は多彩な容疑者を挙げる。例えば病気,森林破壊,気候変動などだ。(略)しかし社会と土地との関係(略)も,文字通り基礎的なものである。土地が支えられる以上に養うべき人間が増えたとき,社会的政治的紛争がくり返され,社会を衰退させた。この泥の歴史は,土壌の扱いが文明の寿命を定めうることを暗示している」と彼は書いています。つまり軽視されがちな「土地」こそが,じつは文明の寿命を決めているというのです。

土(humus)から人間(homo)は生まれ,そして,死ねば土に還る。

⑧ すべての生物は「死んで土に還る」といいますが,ラテン語の「人間(homo)」が「土(humus)」と同じ語源を持つ言葉であるように,命の生死が渾然一体となったものが土だとすれば,人間にとって哲学上の最大の謎である「生と死」の問いの答えは,文化としての「土」のなかにあるのかもしれません。土は人類の文明の寿命を支配し,生死の世界を包み込む,まさにすべての文化の根源であり,文化の土台でもあるのです。

⑨ ところで,ぼくは「ブラタモリ」というNHKの番組が好きでよく観ますが,主役のタモリがさまざまな土地をめぐり歩くなかで,彼がよく口にする「土地には記憶がある」という言葉がとても印象に残っています。たとえ時代が変わり建物が変わろうとも,土地には記憶があり,それをとどめている。

土地に記憶があるように,文化にも記憶がある。

⑩ 日本には「俳句」という優れた文化があります。わずかな文字数のなかに独自の世界観・宇宙観の広がりを表現する俳句が,いま世界で注目されているのはなぜか? 『芭蕉の風景文化の記憶』の著者ハルオ・シラネによれば,それは「俳諧の、風景は(略)文化的記憶(cu1tural memory)の貯蔵庫」であるから。土地に記憶が残るように,言葉にも記憶が残る。それが,文化なのです。

⑪ 人は土から離れては生きていけない。この言葉が「文化とは何か」をもっとも的確にあらわしているように思えます。

⑫ ここからは,あえて「文化」と「文明」を対比させてみたいと思います。どこか似たような意味で用いられているこのふたつの言葉を比べてみることで,文化とは何か? がより鮮明に浮かびあがってくると思えるからです。

「文化」とは,土に向かおうとすること。
「文明」とは,土から離れようとすること。

⑬ ぼくは「文化」と「文明」について,このような考えを持っています。陸に生きるすべての生命の営みの基盤が「土」「大地」であり,文化はそれを「耕す」ことから起こるのであれば,土から離れては文化そのものも成立しないといえるのです。

⑭ 人はとかく,美しく咲く花そのものに目を奪われがちです。けれども,その美しい花は,茎がそれを支え,その茎がしっかりと土に根を下ろしているからこそ咲けるのだということを忘れてはならない。「文化」とはそのように「土に根を下ろし」て「花咲く」ものであり,土とともに生きることだと,ぼくは思います。

⑮ けれども自然や土は,人間や生命を育み,養ってくれるだけではありません。自然の力はあまりにも強大で,ときに暴力的であり,台風,地震,津波など,牙をむいた自然の脅威のまえに人間など無力であることを,ぼくたちはいやというほど知っています。

⑯ 緑の美しい草むらでさえ,肌を傷つけられ,虫に刺される。これも自然なのです。自然の脅威からいかに身を守るか。かつて人類は,_土で住む家をつくりました。それが木になり,コンクリートとなり,鉄になっていった。このようにしてどんどん土から離れていくことが,文明の進化でもあった。大地を疾走し,土から離れて大空を飛び,ついには地球からも離れて宇宙空間を漂う。テクノロジーと結びついた「文明」は「土から離れて生きる」ことを意味する言葉でもあったのです。「文明が土から離れる」とはいっても,古代文明の時代は,まだコンクリートも鉄もなく,土や木だけだったではないかと思われるかもしれませんが,それでも人類の文明は「バベルの塔」や「ノアの方舟」など,より高く,より遠くへを目指しました。それも土から離れるということです。それに,より速く,より多くが加わって,近代文明になっていく。

⑰ 人間が快適に暮らすために,あえて「土」から離れて生きることを必要をとした。自然から生きるための糧を得て,自然や環境をたとえ破壊するものであっても,人類は「土とともに生きる文化」と「土から離れて生きる文明」というふたつを必要としたのです。

⑱ 宮崎駿はやお監督の長編アニメ映画『天空の城ラピュタ』に,「文化」と「文明」を対比させた象徴的なシーンがあります。高度な文明とテクノロジーによって,かつて天空から地上を支配した空に浮かぶ要塞都市ラピュタは,なぜ滅亡したのか? その理由を,主人公である少女シータが,このように訴えるシーンです。

⑲ 「今はラピュタがなぜ亡びたのか,私,よくわかる。ゴンドアの谷(少女が生まれ育った故郷)の歌にあるもの。土に根をおろし,風とともに生きよう。種とともに冬を越え,鳥とともに春を歌おう。どんなに恐ろしい武器を持っても,たくさんのかわいそうなロボットを操っても,土から離れては生きられないのよ。」(映画『天空の城ラピュタ』)

⑳ シータは,ラピュタを支配した王族の末裔まつえいでした。彼女の祖先は文明だけを発展させても土から離れては人は幸せに生きられないことを悟り,テクノロジーの要塞であった天空の城を捨てて,王族である証を封印してまで土とともに生きることを選び,その教訓を歌にして子孫に伝えていたのでした。

21 この天空の城ラピュタを「文明の象徴」とし,土に根を下ろし,風とともに生きることを選んだラピュタの一族を「文化の象徴」としてみれば,あらためて「文化」の重要性が浮かびあがってくるのではないでしょうか。

22 「文化」と「文明」のどちらもが人類に必要であることはいうまでもありませんが,現代社会の諸問題は,人類があまりにも「文明化に走り,それを経済活動に結びつけて加速させてしまったために,「文化」とのバランスを忘れてしまったことにあるのではないか。文明は生活を便利にするが,文化は人を豊かにする。それを忘れてはならないと思います。

(出典:浦久俊彦『リベラルアーツ「遊び」を極めて賢者になる』集英社,二〇三二年,ただし,出題にあたり,全体の趣旨を損なわない範囲で一部省略し,変更を加えた。)

設問
文章の内容を踏まえて,「文化」と「文明」の違いについて,あなたの考えを1000字以内で述べなさい。
……………………………………………………………………………………………
文章の太字は、文化と文明について触れているところを引用者(朝田隆)が太字にした。

実際に二度目に読むときに、線を引く個所を太字で示している。

小論文.png

 (4)小論文の考え方


小論文の解き方は人それぞれだと思うが、私が普段行っているやり方をここでは紹介したい。

私は参考文を二度読んだときに、頭の中で自由に連想して、さまざまな意見や感想を思い浮かべる。

それは初めは断片的な形で現われる。

ここでは、頭の中の断片を実際に文字に起こしてみる。

①「文化を「耕すこと」とするならば,すべての出発点は「土」にあります」⑤段落
⇒土を耕す農業の重要性。第一次産業である農業は就業人口や所得が年々減少し、衰退の一途を辿っている。新農業基本法では、農業の多面的機能の重要性を謳(うた)っているが、そのなかに「文化の伝承」がある。また、現代の農業は農薬の大量使用により、土壌を汚染して自然環境の生物多様性を損ない、消費者や農業従事者の健康被害を引き起こしている。

②「土地に記憶が残るように,言葉にも記憶が残る。それが,文化なのです。」⑩段落

⇒参考文は文化の語源の「カルチャー」から考察している。土地の記憶の議論もあいまって、地名はその土地の歴史を刻む重要な文化資源であり、町村合併で古い地名が失われていくことは文化資源の喪失である。

③「陸に生きるすべての生命の営みの基盤が「土」「大地」であり,文化はそれを「耕す」ことから起こる。土から離れては文化そのものも成立しない」
⑬段落
⇒SDGsの15番目の目標「陸の豊かさも守ろう」が結論のまとめで使えそう。砂漠化、干ばつ、洪水などと関連付けて書けるのでは?

④「かつて人類は,土で住む家をつくりました。それが木になり,コンクリートとなり,鉄になっていった。このようにしてどんどん土から離れていくことが,文明の進化でもあった。」⑯段落
⇒土=文化に対して鉄=文明。この対立の図式は宮崎駿の「もののけ姫」のテーマにもつながる。鉄をつくるには、鉄鉱石を溶かすために火をおこし、大量の木が必要となる。こうして森林伐採が進んだ結果、土砂崩れ等のさまざまな自然災害が発生した。鉄は開発の象徴である。無計画の都市開発はスプロール現象と呼ばれ、これは広島県でかつて二度発生した大規模な土砂災害の背景でもある。

⑤「人類の文明は「バベルの塔」や「ノアの方舟」など,より高く,より遠くへを目指しました。それも土から離れるということです。それに,より速く,より多くが加わって,近代文明になっていく。」⑯段落
「文明は生活を便利にするが,文化は人を豊かにする。それを忘れてはならないと思います。」㉒段落
⇒交通機関の発達や家電製品の技術革新などにより私たちの生活は効率的で快適になった。がしかし、これによって失われたものも多い。その失われたものが文化的な豊かさにあたる。それは何か、具体的に考えてみよう。
私が小論文の解答例を書くときには、上記の断片を手がかりに文章をまとめていく。

(5)学部学科による書き方考え方の違い


以上5点を挙げた。

①の論点は農業系などの学部学科や経済・経営学部学科で書くべき内容になる。

②の論点は文学部(特に地理・歴史学科または専攻)、社会学部などのアプローチ。

③の論点は学部学科を特定せず、多くの学部学科で使えそうな話題。
特にSDGsは国際系で好まれる。

④この話題は建築学部がぴったりくる。もちろん経済・経営学部学科や地域振興系の学部学科でもよい。

⑤この論点も学部学科を問わず、広く使える。オーソドックスな論点で、この過去問は人文社会科学学部なので、大学の出題意図としてはこの方向を期待しているのだろう。

このように、学部学科によって問題の捉え方は異なる。

皆さんが実際に入試にあたって、上に挙げたメモ書きのような内容を思いつくことは、いまの段階では難しいだろう。

「新農業基本法」「農業の多面的機能」「町村合併」「SDGs」「スプロール現象」など、かなり専門的なワードや知識が必要になる。

これらの知識はいずれも政治経済の科目で習うものになる。

したがって、3年生に進級したら、社会科は必ず政治経済を選択することをお勧めします。

今回の過去問の解答例は、ココナラのOK小論文の授業を受講された希望者に配布しています。


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