「あなたが嘘だという日まで」No.1〜不倫プロのチー牛、最難関の恋に遭遇〜#連載

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私は実のところ。美人にはめっぽう弱い。

美人を前にすると、言葉に窮してしまう。
本来言葉というものは、自分の描いていくゴールに向かって、戦略的に働くサッカーのプレーヤーのようなもので、恋愛において「恋心」はプレーヤーに右往左往される「ボール」そのものだ。

美人との戦いは、間違いなくブラジル戦、オランダ戦だ。

格下相手に対してはすんなりと、

言葉は戦局をなぞるように、

ボールはゴールネットに運ばれていく。


しかし美人との戦いはそうは行かない。

言葉(プレーヤー)はフェイントにフェイントを重ね。

重層的に、時には陣を後退させながら試合を進めていく。

とりわけ私は「戦略的裏切り」や「こまめなフェイント」を多用してしまう。

とても苦しいハーフ&ハーフだ。

僕は数々のゴールを決めるだろう、そして決められもするだろう。

しかし試合終了のホイッスルは僕らを待ってくれない。


必ず試合は、終了を迎えることになる。


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私の名はシンヤ。年齢は30歳。
都内のベンチャーで中間管理職を務める。theブラック企業に染まった悲しき男である。

朝は副都心線に揺られて渋谷の勤務先を目指す。

この街の朝は陰気な活力とでも言うべきか、「やらなきゃ死ぬ」ような差し迫った熱を帯びている。

私はボサボサの頭をかきながら、高級レザーのバッグを持った若いビジネスマンを尻目にメガネのズレを直す。

わかっている。
キラキラした渋谷のビジネスマンなんて、みんな大層なパフォーマンスで、大層な実績を出して、
大層な顔して夜は飲みに出かけ、大層な態度でクラブに通い、女を侍らす。

私にそんなことができたらなぁ。
といつも考える。

スマホのYOUTUBE画面が暗転する瞬間に、自分の顔が映し出される。

ボサボサの頭、フレームの太い眼鏡、口角は下がっていて、目は人を睨むようだ。

次に自分の身体に目をやる。
スーツも革靴も、人並みのものを揃えているはずだ。
カバンだって恥ずかしくないものに、新調した。

それなのに、、

ずんぐりと出張ったお腹とだらしない体型がそのすべてを無に帰すようだった。



それでも構わなかった。
私は世間一般で言う、誰がどう見ても「チー牛」そのものな見た目だった。

にもかかわらず、身の丈に合わない美しい妻と、娘をひとり抱える一家の主でもある。

さらに言えば、
私は一つだけ、超人的な特性を持っていた。



このチー牛、実はまもなく女性300人と真剣交際をした過去を持つ男なのであった。

これはその丁度300人目に出会った女性とのリアルタイムな報告である。

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その日も私は終電間際に部下の報告書に目を通して、いちいちつまらない、嫌がらせのようなコメントを返していた。

「なぜA社はわざわざ競合に見積もりを依頼したの?うちでクローズ仕切らなかった理由を教えて。」

こんな、言葉の暴力でしかチームマネジメントできない自分に嫌気が差すこともある。
それでも人を動かすために、根本的な弱みを追求することはビジネスの基本だ。

今日も帰路につく、駅までの道は渋谷の喧騒を外れた裏道から。
ゆっくり坂を下っていく。

この日、なんのことなしにいつも女性と出会う「ツール」を開いていた。
最近は忙しいこともあって、定期的に合う女性以外とは関係を持っていない。

そして、たまたまメッセージを交換した女性と私は、壮絶なマッチメイキングを果たすことになるのであった。


彼女はマキと言った。
年は私の3つ上、身長170cmもある。

マキさんとは実際にあう日まで写真の類いは交換しなかった。

お互いの生い立ちだったり、仕事のつまらない愚痴、そんな会話のテンポが噛み合いすぎてもう写真なんてどうでもよかった。

彼女に初めてあったのは上野駅だった。

彼女の職場の近くまで出てきたのだが、少し家からは遠い。

不倫プロの私からすると、
もうこの時点で今後のつきあい方を考えてしまう。

よくない癖だ。
マキさんとすごく相性がよかったら、僕らはそれからお付き合いをするかもしれない。

そうなったらば、僕は毎回横浜にアクセスの悪いこの上野駅まで彼女と会いに来るのだろうか。

マキさんとうまくやっていくためにも、僕はちょうどよい距離を保たなくてはいけない。


出会う前からそんなことばかり考えている。
私は何を持ってして、そこまで偉そうに女性を品評するようになったのだろう。

約束の時間に少し遅れた私は、急ぐこともなく彼女に電話をかけた。


「マキさん、そう言えば顔、知らなかったんだった」


二人は電波越しに笑った。

人混みの少し外れた場所に、白い手がヒラリと上がった。

僕が人生の岐路に立たされる命がけの試合が始まったときだった。

彼女は女性と比べると頭ひとつ抜けて長身だった。しなやかで細いその身体は、強かさすら漂わせ、

深いパープルのワンピースは、妖艶さを僕に示すのだった。

そこにちょこんと、乗るようにおかれている顔は驚くほど小さく白く。

そして私には眩しいくらいの美人。

まるで置物のような女性だと、その時思った。



彼女と僕は上野の駅前でほぼ同時に目があった。

僕はゆっくりと歩みを進める。

彼女は言った。



「シンヤには絶対会えると思ってたんだ。」

「そんな大層な人間じゃないよ。。笑」


そんなことないよー。 ね、ごはんいく?」


「私はー。。。 ホテルに行きたいかな。」



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第一話 【不倫プロのチー牛、最難関の恋に遭遇】
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