共通テスト過去問詳説 2022年度 大問1 問2

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このシリーズでは、共通テスト過去問について詳細な説明をしていきます。
共通テスト過去問の理解は、特に高校3年生、浪人生の皆さんにとっては必修事項。そして、各問題を解く際には
・どのような地理的事項に基づいて考えるべき問題なのか
・正解以外の選択肢は何故誤りなのか
などについてもしっかり考えていく必要があります。

では、問題を解いていきましょう。
今回は大学入試共通テスト 2022年度 第1問の問2です。

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さて、この問題を解く前に、ヨーロッパの河口部に関する話を押さえておきましょう。

ヨーロッパ河口部に関する基礎知識

北海沿岸
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ほとんどエスチュアリ―(三角江)です(黒と白の〇)。
ちなみに問題のAの川はセーヌ川(フランス)で、河口はエスチュアリーになります(白の〇)。
これは、ヨーロッパの地形の定番事項なので、是非頭に入れておきましょう。
ただし、ライン川河口(黄色の〇)だけは例外で、ここはデルタ(三角州)を形成しています。

ここで、河川関係の小地形「エスチュアリー(三角江)」と「デルタ(三角州)」について押さえておきましょう。

三角江と三角州

まず、エスチュアリー(三角江)から。
定義は、「河口付近の土地に海水が侵入して、土地が沈水し、ラッパ状に開いた入江のこと」です。
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Wikipediaより引用

上の地図はセーヌ川(フランス)の河口ですが、非常にわかりやすいですね。

ところで、エスチュアリーは何故形成されるのでしょうか。
まず、エスチュアリーは「沈水海岸」です。
沈水海岸とは、土地の沈降あるいは海面上昇により、土地が海面下に沈んで形成された海岸地形。

そして、エスチュアリーはデルタ(三角州)が沈水したものという理解がありますが、これは正しくないと言えます。
なぜなら、エスチュアリーの成因は
・最終氷期(海岸線が今よりもかなり後退していた)に
・河口部が、蛇行により幅広く侵食され
・氷期がが終わって海面が上昇し、侵食された谷部に海水が入り込んだ
からです。

仮に、「デルタが沈水した」のであれば、その水深はかなり浅くなるはず。
大型の外洋船が利用できる港にはならないのではないでしょうか。

では、なぜライン川だけがデルタなのか。
それは、堆積力の差です。

デルタが形成される前提として、土砂が供給され、積もっていく堆積力が、沿岸流などによる侵食力を上回っていることが挙げられます。
そのバランスによって、三角州の形状は異なります。大別すると3種類あり、

円弧状三角州
侵食力と堆積力が程よく釣り合っている場合に形成される。
ナイル・デルタ、ニジェール・デルタなど
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Wikipediaより

鳥趾状三角州
堆積力が強く、侵食力が弱い遠浅の海で形成される。
ミシシッピ川デルタが代表例。
Mississippi_delta_from_space (1).jpg
Wikipediaより

カスプ状(尖状)三角州
堆積力も侵食力も強い場合に形成される。
河口付近で多量の土砂が堆積するが、その周りは潮流で激しく削られるため、尖った形の三角州が形成される。
テヴェレ川のデルタが代表例。
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では、ライン川の河口はどうなっているかというと
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こんな感じ。円弧状ともカスプ状とも言えませんが、デルタではありますね。

さて、では何故ライン川だけが三角州なのかを考えてみます。
今までの話から考えられることはひとつ。
「エスチュアリーを埋めるだけの堆積力があった」
これではないでしょうか。
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Wikipediaより

これはライン川の流域地図ですが、その源流を見るとアルプスに達しています。
一方、他の河川はそこまで源流が達していないか、流域面積や長さの値が圧倒的に小さいのです。
つまり、新期造山帯の急峻な地形と、広大な流域面積から供給される大量の土砂が、ライン川の堆積力を支えているということになります。
もちろん、土砂の供給が多い=新期造山帯が源流とは断言できませんが(ナイルデルタなど)、同一エリアでの比較において一つの判断材料にはなります。
また、この地域は全体としてCfb(西岸海洋性気候)に属していて、降水量が多くはないことも考慮すると良いでしょう。
降水量が少ないということは、それだけ侵食・運搬・堆積の力が小さくなることを意味します。

B(ポー川)を見てみよう


さて、一方のBの河川であるポー川(イタリア)ですが、こちらについて考えてみます。
(実際の試験では、消去法でこちらがデルタだ、と判断して構いませんが、演習ではこちらが三角州である理由も考えましょう)
Po_bacino_idrografico.jpg
Wikipediaより

ポー川は、アルプス山脈を源流としてイタリア半島の根元を西から東に向かって流れ、アドリア海にそそぐ河川です。
比較的全長は短く、山地を駆け下る河川ですので河川の勾配はかなり大きいのではないでしょうか。そして、アルプス山脈の山麓を水源とすることから、流量も多いはず。
ということは、新期造山帯であるアルプス山脈から、激しい侵食で大量の土砂が供給されていると思われます。
何となく、日本の河川をほうふつとさせますね。
実際、ポー川の流域では
・ヨーロッパ式の混合農業が行われ、栽培されている穀物に「稲」が入っています。
・水力発電は、イタリア北部の工業地帯を支えてきました。
※イタリアの発電割合は、火力6割、水力2割、太陽光1.5割、風力1割、地熱0.5割ほど。再生可能エネルギーが多い。

というわけで、ポー側の河口にデルタがありそう…というのは想像がつくと思います。

以上の事から、
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この部分については、xがA(セーヌ川)、yがB(ポー川)と言えます。

河道の標高の割合は簡単!

さて、ここまでの話で、
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これはもう余裕でわかってしまうのではないでしょうか。

統計資料の見方の基本は、「大きな差がある場所を見る」ことです。
数字の大きさではなく、割合です。ここで言えば、「500~1,000m」「1,000m以上」の項目。

ここを見ると、カは1.7と1.5、キは0です。
ということは、キは間違いなく「新期造山帯を通っていない」ことになります。

前の話と突き合わせてみると…
カ=ポー川、キ=セーヌ川
になるのではないでしょうか。

では最後に、
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B(ポー川)を表しているのは、記号がカで文章がyですので、正解は②ということになります。

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