許可を求める表現 「サセテモラッテモイイカ」と「シテモイイカ」

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 自分がしようとする行為に対して他者に許可を求める表現として、「~させていただいてもいいですか」などの「使役形+モラウ」を使うタイプ(「サセテモラッテモイイカ」系と総称)と「~してもいいですか」などのテ形を使うタイプ(「シテモイイカ」系と総称)の二種類があります。日本語学習者が前者のタイプの表現を使おうとする際に、使役形が欠如した「テ形+モラウ」の形になってしまう誤用がよく見かけられます。下の(1)のような場面で「休んでいただけませんか」と言ってしまうと、相手に休むことをお願いすることになってしまい、許可を求める意味になりません。

(1) 【休暇を1日とる場面】
学習者:どうか。あのう、1日だけ、ど、休んでいただけませんでしょうか
母語話者:あ、それは張さんが休みが欲しいってことよね。
学習者:あー、はい。そうですね。
母語話者:あー、わかったわかった。
                      (蒙・中井2020、p.116)

 「休んでもいいですか」なら許可を求める意味にはなりますが、丁寧さが足りないように感じられるので、学習者は丁寧な依頼表現を使おうとして「~ていただけませんでしょうか」を使ったのだと思われます。ただ、学習者にとっては動詞を使役形にすることがなぜ丁寧さと結びつくのか理解しにくいでしょう。なぜ日本語では「使役形+モラウ」の形を使うと丁寧に許可を求める表現になるのでしょうか。
 「サセテモラウ」という形にすることで、相手の許可によって自分が利益・恩恵を受けることを強調することになるからです。つまり、相手が自分の行動を決定する権利を持っていて、相手が許可してくれることによって自分が希望した行動ができるため恩恵を受ける、そういう構造を作り出す表現であるということです。
 近年、「させていただきます」が実際には他人の許可が必要ない行為を表すのにも使われる過剰使用も指摘されています(李譞珍2017、椎名美智2021、他)。たとえば、(2)の「同じクラスで過ごす」ことは許可を必要とする行為ではないし、(3)の「司会進行を務める」ことも会場にいる人にその場で許可を得るわけではないでしょう。単に「共に過ごしました」や「司会進行を務めます」と言えばよいところを、新郎や聞き手など他者に敬意を表そうと意識するあまり「させていただく」が使われていると考えられます。

  (2) 【結婚式のスピーチで】
    新郎の和夫君とは高校時代の3年間、同じクラスで共に過ごさせて
    いただきました。
  (3) 【会議の司会をする人が】
    本日の司会進行を務めさせていただきます。

 このように「させていただく」は公式の場面や目上の人と話す場面で使われる丁寧な表現と理解されていますが、相手が目上の人かどうかだけで「サセテモラッテモイイカ」系が使われるわけではない点に注意が必要です。すなわち、目上の人に許可を求める場面であっても「シテモイイカ」系が使われる場合もありますし、友だち同士の会話でも「サセテモラッテモイイカ」系が使われる場合もあります。
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