初級文法クラスで反転授業を取り入れる方法 ~説明動画に含めるべき内容とその理由~

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 「反転授業(Flipped Classroom)」とは、従来の対面授業で行われていたことを授業前に自宅で学習し、授業後に宿題として行われていたものを授業で行うというもので、文法クラスであれば、文法説明の講義を学生が動画視聴で予習し、授業の大部分の時間を使って穴埋め問題、文型作文問題などの練習問題をさせながら学生の理解を確認するといったやり方で行われる(古川・手塚2019)。もともと米国で高校の化学教師が自分の授業を欠席した生徒のためにビデオを収録して生徒に自宅で見させたことで始まった授業方法だが、講義ビデオがオンラインに掲載されたことで世界中の教員や生徒から反響があり、その後欠席した生徒の補講としてだけでなく、生徒全員に事前にビデオ視聴をさせ授業内で理解できなかった部分をフォローする教育形態として提唱された(Bergmann & Sams, 2014)。日本国内でも2010年代から大学などの高等教育機関をはじめ、初等・中等教育でも実践例が報告され始めた(中川・平良2016)。
 日本語教育でも反転授業への関心が高まっており、日本語教育能力検定試験でも令和3年に記述式問題で出題された。
日本語教育能力検定試験.JPG

 日本語教育における反転授業実戦を報告した古川・手塚(2019)によると、当該実践において学習者から「講義動画によって文法の理解度が高まり、授業に入りやすくなった」という意見が多数聞かれ、反転授業が有効に機能したとされている。ただ古川・手塚(2019)は、上級学習者を対象とした文法教育の取り組みであり、初級や中級レベルでも同様の授業方法が可能かどうかはまだ確かめられていない。また古川・手塚(2019)の実践において興味深い点は、教員が授業内で動画の内容を確認する時間を設けると、学習者の動画視聴率が、授業回数が進むにつれて大きく下落したという報告である。つまり、授業内で教員が動画の内容に言及するのであれば、なぜ動画を見て来るのかという目的が学習者にとって明確でなくなり、事前に視聴する動機が低下するわけである。そこで、授業内で教員が一切説明せず、練習問題による理解の確認から始める形態に変えたところ、動画視聴率の大幅な下落は見られなかったという。動画を見ていなければ授業の活動に主体的に参加できないという授業設計にすることが反転授業の有効性に大きくかかわるということがこの報告からわかる。そして、その授業設計を可能にするためには、指導内容の理解を動画視聴に完全にゆだねられるかどうかがカギとなる。文法説明の動画を見ても学習者の理解が完全でなければ、授業内で説明に戻ることになり、結局は従来の授業形態と変わらない形になる。
 そこで本稿では、日本語文法研究者の立場から文法クラスで反転授業を取り入れる際に説明動画に含めるべき内容について考えてみたい。特に、初級レベルの文型を例に学習者に視聴させる動画の工夫と授業内でさせる効果的な活動を考えてみたい。
 例として、初級日本語の教科書『みんなの日本語』第16課の文型4「形容詞て形、~(スーパーが遠くて、不便です)」を取り上げ、説明動画に収録すべき内容を考える。
 『みんなの日本語』第16課
 文型4. この部屋は広くて、明るいです。
 例文5. 太郎ちゃんの自転車はどれですか。
     …あの、青くて、新しい自転車です。
 例文6. 奈良はどんな町ですか。
     …静かで、きれいな町です。
 例文7. あの人はだれですか。
     …カリナさんです。インドネシア人で、富士大学の留学生です。

みんなの日本語第16課④導入(1).JPG

みんなの日本語第16課④導入(2).JPG
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