名詞修飾節の二つのタイプ~日本語教師に必要な知識と分析力~

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 名詞修飾節というのは、「奥さんが作ったお弁当」「雨が激しく降る音」のように「お弁当」や「音」という名詞を前の文が説明している構造のことです。この名詞修飾は、修飾される名詞とそれを修飾する前の文の関係によって、「内の関係」と「外の関係」という二つのタイプに分けられることがよく知られています。
 日本語教育能力検定試験で出題された以下の問題を考えながら、この二つのタイプの違いについて考えていきましょう。(令和3年度日本語教育能力検定試験 試験1-問題3Dより一部抜粋)

問題:「内の関係」の名詞修飾節の例として最も適当なものを、次の1~4の中から一つ選べ。
1. お菓子を買ったおつりを置いてきてしまった。
2. 昨日駅前の宝石店に泥棒が入った事件が起こった。
3. 彼は子どもに算数を教えるアルバイトをしている。
4. 最近大学で広まっている噂はまったくのでたらめだ。

 1~4の下線部はいずれも名詞修飾節だが、「内の関係」のタイプとして適当なものは一つしかないということになります。
ではまず、「内の関係」と「外の関係」の区別の仕方を押さえておきましょう。太字の部分はいずれも名詞修飾節です。
(例1)A.素敵な時計ですね。
    B.これは誕生日に娘にもらった時計なんですよ。
(例2)A.山本さんが離婚した話、聞きましたか。
    B.ええ。そうなんですか。知りませんでした。
 例1の修飾する文「誕生日に娘にもらった」と修飾される名詞の「時計」の関係を考えると、「誕生日に娘に時計をもらった」の「時計を」の部分が文の外に出てきて名詞修飾節になっていることがわかります。つまり、修飾する文の中の述語「もらった」と修飾される名詞は「~を」という格助詞で表される関係になっています。
 一方、例2の修飾する文「山本さんが離婚した」と修飾される名詞「話」の関係を考えると、「山本さんが話を離婚した」のように「話」を文の中に入れることができません。「話が」「話に」など他の格助詞を考えてみてもやはり同じです。つまり、修飾する文の中の述語「離婚した」と修飾される名詞は格助詞で表される関係ではないということです。
 以上のことを、もう少し文法的に説明すると、修飾される名詞が修飾する文の述語と格関係にある場合は「内の関係」、格関係にない場合は「外の関係」と説明することができます。
文法解説(名詞修飾).JPG

 では、先ほどの問題に戻って考えてみましょう。
1. お菓子を買ったおつりを置いてきてしまった。
2. 昨日駅前の宝石店に泥棒が入った事件が起こった。
3. 彼は子どもに算数を教えるアルバイトをしている。
4. 最近大学で広まっている噂はまったくのでたらめだ。
 1は「お菓子をおつり{が/に/を・・・・}買った」のようにどの格助詞をつけても前の文の中に「おつり」を入れることができません。同様に2の「事件」、3の「アルバイト」も前の文と格関係にありません。4の「噂」だけ「噂が最近大学で広まっている」のように「~が」という格助詞をつけると前の文の中に入れることができます。
 ここで1つ注意が必要です。3の「アルバイト」は「アルバイトで子どもに算数を教える」のように、「~で」という格助詞なら入れられるがだめなのかと疑問に思われた方がいらっしゃるかもしれません。「格関係」というのは、述語にとってその名詞が必須の格成分になっているという意味です。つまり、「大学で広まったよ」と唐突に言われれば、「何が?」と聞き返したくなるように、「~が」は必須の格成分ですが、「子どもに算数を教えているよ」と唐突に言われて、「何で?アルバイトで?ボランティアで?」と必ず聞き返したくなるような情報とは言えません。つまり、「アルバイトで教える」と言えたとしても必須の格成分とは言えないため、3は「内の関係」ではないわけです。
 したがって、「『内の関係』の名詞修飾節の例として最も適当なものを、次の1~4の中から一つ選べ」という質問に対する答えは、格関係が成立する4となります。

問題の解説.JPG

 「噂」という名詞は、「○○さんが不倫している噂」など「外の関係」でも使われることが多いので、格関係を分析しないで印象で選ぶと間違ってしまいます。
 今回扱った日本語教育能力検定試験の問題は、知識として知っているだけでなく、その知識を使って例文を分析できるかどうかを測っていると言えます。その分析能力は日本語教師となってから非常に重要になるからです。



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