日本語能力試験N1~文型作文が苦手なあなたへ

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コラム
日本語学校などで日本語能力試験N1の文法を勉強する際に、
以下のような文型作文の練習が行われることがあります。

(1) 仕事が忙しくて、______はおろか_____もない。
(2) _____はもちろん______に至るまで節約しています。

 でも、このような練習を苦手とする生徒さんがいらっしゃいます。これは、「AはおろかB」「AはもちろんBに至るまで」のAとBに入れるべき語がわからないという問題なのですが、文型の意味がわかっていても、AとBに入れる語の種類、範囲、程度性を日本の社会通念に照らして適切に選ぶことが非母語話者である生徒にとってかなり難しい作業であるからです。
 たとえば、「仕事が忙しくて、AはおろかBもない」の場合、時間がない時に優先して削る時間は何かという共通認識が必要になります。食べる時間は早く済ませれば数十分で済むわけですから、まずは寝る時間を削って徹夜で仕事をする。それでも足りなければ食事をする数十分でさえも削る。このようなイメージができて初めて「仕事が忙しいので、寝る時間はおろか、食べる時間もない」という文ができます。
 同様に、「AはもちろんBに至るまで」は、「食費や電気代などは普段から節約しているが、それでもお金が貯められないので、時々スタバでコーヒーを飲むのをやめて水筒を持ち歩くことにしよう」このような含意があって「食費や電気代はもちろんコーヒー代に至るまで節約しています」という文になります。
 日本語教師としては、文型の理解を測るためにこのような文型作文をさせるのですが、実はこの練習には文型の意味理解以外にも語彙の知識、社会常識的な知識などさまざまな知識が要求されます。また、1文で語ろうとすると情報不足で何が言いたい文なのか正確に把握するのは難しい場合があります。そのため、満点をもらえる文がなかなか作れず、生徒は「うまくできない」、先生は「時間がかかるし、適切な文を作らせられない」と悩むことになります。
 もちろん空欄穴埋め練習には意味がないと言うつもりはありません。空欄を穴埋めできる能力は言語能力の習熟度を反映していると言われており、多くの言語テストで採用されている方式です。たくさん例を示したり、入れるべき語のヒントを与えたり、イラストで場面を示したり、さまざまな工夫をされている先生もいらっしゃって、効果的な練習になっている場合もあるでしょう。
 ただ、文型の意味を確認するためだけなら、他のさまざまな知識を要求するような問題をさせる必要が本当にあるのでしょうか。少なくとも文型作文が適切にできない学習者は目標のレベルに達していないとする「文型作文至上主義」にならないように注意する必要があると思います。

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