【文献紹介#4】定量的ウエスタンブロッティングにおける優れた正規化方法

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こんにちはJunonです。
本日公開された研究論文(英語)の中から興味のあったものを一つ紹介します。

出典
タイトル:Biological validation of a novel process and product for quantitating western blots
著者: Diller T, Thompson J, Steer B
雑誌:Journal of Biotechnology
論文公開日:2021年1月20日

どんな内容の論文か?

「染色フリーの総蛋白質検出を内部標準とした場合、ウエスタンブロッティング法においてハウスキーピング蛋白質による正規化よりも優れている。」

背景

ウエスタンブロッティング(免疫ブロッティング)は、細胞または組織から抽出された複雑な多たんぱく質混合物から特定の単一タンパク質を検出するために広く利用されている免疫検出技術です。その中でも定量的ウエスタンブロットは、異なる個体、条件、病状、または他の生物学的変数を表す一群のサンプルにおいて、標的タンパク質の相対量を比較するために使用されます。その際、複数サンプルの総タンパク質レベルを正確に識別して測定するため、内部標準として「ローディングコントロール」が用いられます。

このコントロールは、すべてのサンプル中に存在すると推定され、その相対存在量が生物学的変動または実験条件によって影響されないタンパク質に対する一次抗体の添加を指します。ローディングコントロールの候補タンパク質としては、偏在的に発現される「ハウスキーピング」遺伝子産物が一般的に良いとされています。このように内在性ローディングコントロールは、ウエスタンブロットの結果が妥当であることを示すために必要であり、コントロール量が増加/減少した場合は、実験操作に問題があることを確認できます。また、内在性コントロール(発現量が一定で普遍的に存在するタンパク質)は、通常、標的タンパク質の一次検出を行った後に検出します。このステップにより、結果を標準化し、SDS-PAGE のローディングやウエスタンブロットのトランスファー中に起こるサンプルの損失などのエラーを正常化することができます。

1.ハウスキーピングタンパク質法
比較するサンプル間で安定的に発現しているハウスキーピングタンパク質に対する抗体を用いて、ターゲットタンパク質と同様に検出します。 この場合は、あらかじめその実験条件下で安定して発現していることを確認する必要があります。 また、ターゲットタンパク質とは異なる分子量のタンパク質であるのが望ましいのですが、具体的にどうやってハウスキーピングタンパク質を選択するのが良いか迷うこともあります。恒常的に発現しているタンパク質であり、使用する組織や細胞の種類、また、それをどのように扱うかに関わらず、実験を通して発現量が一定であることが必要です。一般的にはα-チューブリン、β-アクチン、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、または熱ショックタンパク質90(HSP90)のようなハウスキーピングタンパク質に対して相対的に定量化することが出来ます。

しかし、代表的なローディングコントロールである β-アクチンや α-チューブリンであっても、実験の条件によっては影響を受ける可能性があります。この方法の問題点としてはハウスキーピングタンパク質は一般に高い発現量であるため、ターゲットタンパク質よりも非常に強いシグナル(飽和したシグナル)として検出されてしまうことがあります。 飽和したシグナルとして検出されてしまうと、定量的な解析には用いることができないので、あらかじめ抗体希釈倍率の予備実験、アプライタンパク量の予備実験も行うのが望ましいです。
2.総タンパク質検出法
全タンパク質の正規化は、ハウスキーピングタンパク質が実験条件の影響を受けることが多いため、正確で定量的なウエスタンブロッティングデータを得るために有用な方法です。Invitrogen No-Stain Protein Labeling Reagent は、高速で使いやすい共有結合タンパク質標識試薬で、ウエスタンブロッティングにおける総タンパク質の正規化のために用いられる。

Stain-Freeを用いた総タンパク質染色を行うことによって、ウェスタンブロッティングに用いたメンブレンで、バンドパターン(タンパク量)が均一であることを明示できます。総タンパク質染色はハウスキーピングタンパク質の検出に比べると簡便なうえに、均一であるかを安定して検出できるために、強力なローディングコントロールとして注目されています。このようにStain-Freeテクノロジーを用いた総タンパク質検出による補正は、これらの新しいウェスタンブロッティングのガイドラインに合致した手法と言えます。

結果

本研究では、総蛋白量の正規化を可能にする新しい試薬を開発したことを報告し、異なる細胞の標的タンパク質を分析することで、その優れたタンパク質の正規化能力を実証した。これらのデータは、ハウスキーピングタンパク質がシグナル飽和を示し、誤った正規化データを生成し、サンプル間の変動が全体の平均ばらつきは48.2%であったことが示されています。一方で新しい方法を使用して得られたシグナル強度は、タンパク質のサンプル量と直線的な関係を示し、その結果、全体の平均ばらつきは7.7 %と正確なタンパク質の正規化を示すことが明らかになりました。

最後に

近年では定量ウエスタンブロットも増えており、投稿論文の査読者から内部標準の妥当性を求められることも多くなってきました。タンパク質の正規化のための内部標準としてハウスキーピングタンパク質を利用すると、ウエスタンの定量に誤差が生じ、実験研究からの結論が無効になる可能性があります。これは時間と費用の浪費につながります。対照的に、No-Stain試薬を内部標準として使用したこの新規かつ改良された全タンパク質正規化法は、正確な定量ウエスタンブロットを達成するための優れた方法であると言えます。

おしまいです。
次回の記事をお待ちください。

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