連載「霊能者かんなぎの人生」vol.3 霊能家系に生まれても、異端である

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連載「霊能者かんなぎの人生」vol.3 霊能家系に生まれても、異端である


なんとなく、人生を書き綴ろうと思った事に対した理由はない。
ただ、同じような思いをしている人がいるならば、そういう人に届けば良い、そう思った。



「私にはあなたが悪い事をすればすぐに分かるのよ」
「嘘をついてもすぐ分かるのよ」

母の口癖だった。

うちは隔世遺伝の霊能者家系なので、母たちに目立った霊感は無かったが、
それでも、たまに出てくる直感力はあったと思う。
これは誰しも持ち得るレベルのものだと思うので、ある意味「親の勘」レベルであるとも言える。

そうして、他の出来事についてはほほう、と思う事もあったが、
私に対しての母のその直感力は、往々にして外れている事が多かった。

「あなたは嘘をついているわね」
本当の事を言ってもそれが母の意に沿わないものだと、母は頑として認めなかった。
嘘でも意に沿ったものだと母はとても満足そうな顔をした後に、長時間の小言と折檻の後に「出ていきなさい」と外にほおりだし、ある程度の時間が経つと、「謝罪しなさい」と言って家に入れるのが恒例だった。

恒例というぐらいには頻繁だったものだから、私はすっかりそのルーティンに慣れてしまった。

家に入れて欲しくて泣きわめきながらドアを叩く弟を後目に、「どうせ時間が過ぎればいつも通りの手順で家に入れるのに」と思い、泣くことも焦る事もなくただ外に立っているだけだった。

泣きわめきもしない私の事を「可愛げのない子」と言い、弟だけが先に家に入れてもらえるのも恒例だった。

それでも、私は演技でもあんなみっともない真似はしたくなかった。
何より、自分は嘘をついていないのだから、本当なら謝罪だってしたくなかった。


このルーティンに慣れきった頃に、またいつもの「出ていきなさい」が始まった。

理由なんて大した事はなかったと思う。

確か、デパートで母と叔母を見失って、何を思ったか「たまには子供らしく泣いてみるか」と思い立ち、「お母さんがいない」と号泣してみただけだった。

多分、その時に求めていたのは、母からの「一人にしてごめんね」とかそういう言葉だったのだと思う。

しかし母は、「何やってるの、みっともない」と無表情で言い放ち、帰りのバスの中で、「帰宅したらまた怒られるの?」と聞いたら「当然じゃない」と顔を見ずに答え、帰宅するなりいつも通りのルーティンが始まったんだったと記憶している。

「あんなみっともない真似を」「恥をかかせて」と怒り狂っていたわけなのだが、子供が母親を見失って泣くことがそんなにみっともない事なのだろうか、と幼稚園児の私が思うのだから、私も本当に冷めた子供だったのだと思う。

本当は、はぐれてもどこかで会えると分かっていたけれども、母親からの何かを一瞬求めただけの話だった。

そうしてまた、「出ていきなさい」と言われたので外に出ようとすると、うちにいる見えない誰かがこう言った。

「いっそ、本当に出ていけばいいんじゃないの」

ああ、そうだね、他人から見れば一人でも、私は一人じゃないし、寂しくもないし、なんだったらいっそ誘拐されてみても良いかもしれないね。

「誘拐されれば、その家がもしかしたらもっと大事に育ててくれるかもしれない」

何かそんなドラマでも見たのだろうか、そんな妄想が頭に浮かんだ。

そうして、私は幼稚園バッグにおもちゃと服を詰めて家を出た。
母はとっとと別の部屋に行き、こちらを見ないままだったので、そんな荷物を持って出た事にも気づかず、それはそれは簡単に家出に成功してしまった。

家から通りに出て、ぶらぶらと歩いた。
誘拐を希望している時程、そういう目に遭わないものだ。

「誰も声を掛けてもくれないね」
「僕たちみたいに見えない存在になっちゃってるんじゃないの?」

そんな茶々を入れられながら、彼らとあちこちぶらぶらと歩いた。

公園で遊ぶか、とも思ったが、そんなところを誰かに見られて母に知られたらとても面倒だ。

「そうだ、ちょっと離れたところにある、小学校のそばの神社に行こう。」

子供の足ではちょっと離れたところ、という印象だったが、
もしかしたらそんなに遠くでもなかったのかもしれない。
そこはちょっと古びた神社で、「夏目友人帳」のような、神ではないものたちがまあまあいるところだった。
遊んでもらえる相手がいるのは有り難い。

人は誰もいなかったが、お陰で独り言を言っていても怪しまれる事もなく、存分に楽しんだ。
が、その様子を誰か大人に見られていたようで、母と、母から連絡をうけて仕事を早退してきた父に見つかってしまった。

「何で家出なんかしたの」とまるで私が勝手に家出したかのように振る舞う母に対して言える事は何もなかった。

「誘拐作戦は失敗だったね」と茶々を入れてくる彼らの言葉も、聞こえないフリをした。

事情を知らない父は、「本当に度胸があるというか何というか」と言い笑っていた。

母は、「本当にあなたは何を考えているか分からないわ」と呟いた。

しかし、さすがに家出をされては自分の評判に関わると思ったのだろう、その日はルーティンはなく終える事ができた。

「誘拐されていれば、その家がもしかしたらもっと大事に育ててくれたかもしれない」

なんていうドラマみたいな夢は叶わなかった。

「また明日は教会へ行こう」

そう思いながらその日は眠りについた。



そんな私の人生を語る事に意味があるのかはわからない。
ただ、自分がもし、異端だと思っている人がいれば、
また、これから先の話を通して、苦しい人生を歩んでいる人に「ひとりじゃない」と思って貰えれば、と思い、
不定期ながら人生を語らせていただこうと思う。
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