心を読める人は「魂が綺麗」と言いました・・・

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 心を読める人に出会った。不思議な女性だった。心を読める女性を奈々さん(仮名)と記述する。奈々さんにはことごとく心の中を読まれた。私は大失恋の直後だったので、誰かに失恋話を聞いて欲しかった。奈々さんは失恋話を隅々まで親身になって聞いてくれた。それが嬉しかった。

 大失恋の相手は朋美さん(仮名)と記述する。女性を外観重視で選ぶ私だが、朋美さんは美人でなければ若くも無かった。理由はわからないが若くもないし美人でもない朋美さんに私は強烈に魅かれた。舞い上がるようにのめり込んだが、朋美さんには同棲中の相手がいた。その同棲中の相手に発覚して朋美さんとの恋はあっけなく終わった。そんな傷心の最中、奈々さんと知り合った。

「怯えている小さな貴方が見えます」最初に奈々さんはそう言った。私は小心者なのだが、それを見抜かれないように虚栄を張って生きていた。交際した多くの女性は虚像の私を好きになってくれた。普段なら一年程度はバレない虚像を奈々さんは初日に見抜いた。

「貴方は前世で朋美さんと愛し合っていました。愛し合っていたけど、添い遂げることなく引き裂かれ悲恋に終わりました。だからお互いに強く惹かれ合ったのです」奈々さんは私が朋美さんに魅かれた訳を言い当てた。一年かけてもわからなかった答えを一瞬で導き出したのだ。前世で愛し合っていた。突拍子もない理由だが言い当てている気がした。非科学的だが、奈々さんが言うとそれが正しいような気がした。若くも美しくもない朋美さんに魅かれた理由は本当にそうだったのだろうか。

 小心者が虚栄を張っているだけの私を朋美さんはどうして愛してくれたのだろうか。私は朋美さんに愛されていたのか確信を持てないでいた。朋美さんは「好きだよ」と言ってくれたが本当なのかわからなかった。奈々さんは言った。「貴方は魂が綺麗だから朋美さんはそんな貴方を愛していたと思います。」魂が綺麗。そんな風に言われたことは無かったが、奈々さんは真実を言い当てているような気がした。

「魂が綺麗だから貴方は神様にも愛されています。」奈々さんはそんな風にも言った。勉強も努力もしないのに私は就職も恋愛も何もかもが幸運続きの人生だった。神様がどうして私にばかり幸運をくれるのか不思議に感じていた。「魂が綺麗だから神様に愛される」そんなことがあるのだろうか。私はそんな善人ではない。食いたい、寝たい、ヤリタイという邪悪な煩悩に突き動かされているだけの凡人だ。そんな私の魂が綺麗なのだろうか。

「また朋美さんと会える日は来ると思う?」何でも的中させる奈々さんにすがるような気持ちでそう聞いた。「貴方がそう望み続けるならきっと会えます。」何の迷いもなくそう言う奈々さんの言葉に私は希望を抱いた。大失恋で悲しみに打ちひしがれていたが、奈々さんの言葉に少しだけ元気が出た。奈々さんが言うと本当にまた朋美さんと会えるような気がしたのだ。

 奈々さんは加藤夏希のような美人だった。少し元気が出ると奈々さんに興味が湧いた。奈々さんはそんなこと勿論見抜いていた。朋美さんと別れて悲しい最中に人肌が恋しかった。本当は朋美さんのことを一時も忘れられない。それもこれも全部見抜いた上で、奈々さんは私を受け入れてくれた。朋美さんが忘れられなくて寂しい心と身体を奈々さんは癒してくれた。「魂が綺麗な貴方を私も好きです」奈々さんはそう言ってくれた。奈々さんは天使のようだった。

 そうして奈々さんは何度か私を癒してくれたが、私は朋美さんが忘れられなかった。奈々さんが優しく包み込んでくれても、私の心と身体は朋美さんを一秒も忘れられなかった。「貴方と朋美さんは前世で愛し合っていたのだから当然です」奈々さんはそんな私の気持ちも当然のように見抜いていた。

 それでも奈々さんは私を癒し続けてくれた。しかし私の心と身体は朋美さんを求めて寂しさから抜け出せないでいた。「もう奈々さんでは無理かもしれない」そう思った直後、また心を読まれた。「もう私では貴方を満足させられないと思います」その通りだった。どうしても朋美さんが忘れられなかった。私の心は朋美さんを求め続け、その寂しさを奈々さんの身体で埋めようとしていたのだ。私は奈々さんに「好き」だとか「愛している」とか言えなかった。奈々さんは心が読める。そんな嘘は瞬時に見抜かれるからだ。

「ありがとう。貴女のおかげで朋美さんを忘れる勇気が少しだけ湧いた。貴女がいなければ私は今も悲しみの縁を彷徨っていたと思う。」そんな意味の言葉を奈々さんに伝えた。「もう会わない」と伝えることもなく奈々さんとは会わなくなった。言葉は不要だ。奈々さんは心が読めるのだから。「綺麗な魂のままでいて下さい。そうすれば神様が貴方たちを再会させてくれます」奈々さんは最後にそう言った。

 どうして奈々さんは心が読めるのだろう。不思議な体験だった。奈々さんは寂しい心と身体を紛らわすためと知っていながら私を包み込んで癒してくれたのだ。奈々さんは傷心の私を癒すために神様が遣わしてくれた天使だったと今では思うようにしている。

 そして奈々さんが予言したとおり、それから1年のちに朋美さんとの再会の機会は訪れた。「望み続ければきっと会えます。」そう言った奈々さんの言葉通りだった。私と朋美さんは存分に愛し合い愛情を確かめあう充分な期間を過ごした。しかし私にも朋美さんにもそれぞれに終生を添い遂げられない事情があった。心行くまで愛し合い、前世において愛し足りなかった心残りを取り返し尽くしたのだろうか。再開から1年、私たちは納得してお別れした。

 私の魂は綺麗だったのだろうか。奈々さんにそう言われた時、私は年甲斐もなく子供のように恋をしていた。その恋を失って本当に悲しみの縁にいた。その意味では子供のように純真だった。だから魂が綺麗だったのだろうか。奈々さんは加藤夏希のような美人で深い仲になれたのだから、都合よく付き合い続ければ良かったかもしれない。しかし私はそんな都合よく振舞えなかった。そうした意味では純真だったのかも知れない。

 前世では悲恋だったかも知れないが、今世では存分に愛し合い、お互いの事情を考え納得して別れた。前世でどんな風に引き裂かれたのか知る由も無いが、前世の私に伝えられるなら伝えたい。「今世では存分に心ゆくまで愛し合い、納得してお別れした。君たちの無念は、今世の私たちが晴らした。君たちが愛し合ったことは無駄ではなかった」そうして私と朋美さんの魂は来世でまた出会い愛し合うのだろうか。

 結局別れてしまったのだから無念なのだろうか。求めあっている時に愛し合う時間を重ねられたのだからそうでは無いと思う。お互いの事情で添い遂げることは無かったが、前世で愛し足りなかった無念を存分に払拭するほど深く愛し合う時間を重ねたのだから、それで良かったと思う。

 本当に不思議な体験だった。朋美さんが前世で愛し合った恋人ならば、奈々さんはそれを知らせてくれた天使のような人だ。奈々さんにもう一度会って朋美さんと再会できたと告げたいが、それは控えている。奈々さんに会う機会があったら私は邪心を抱いてしまうだろう。何度か深い仲になったことのある奈々さんを眼前にして邪心無しでいられる自信が無い。その時の私の魂はきっとくすんでいるだろう。一時でも自分に魂が綺麗な時期があったのなら、そう言ってくれた奈々さんとの思い出は綺麗なままにしておこうと思う。

 遠くにいる私の心はもう読めないだろうか。でも最後にもう一回だけ奈々さんに私の心を読んで欲しい。
「・・・奈々さんへ、貴女は女神様のような人でした・・・癒してくれて本当にありがとう・・・」

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