中小企業経営のための情報発信ブログ196:心理的資本

記事
ビジネス・マーケティング
今日もブログをご覧いただきありがとうございます。
最近、「心理的資本」という言葉が注目を集めていますが、立教大学中原淳教授によれば、「『心理的資本』とは、端的に言えば、『人がいかに希望や目標を持ちつつ、物事に挑戦し、出来事を意味づけ、逆境をはねのけてでも、前に進むことができるか』という『人の心の状態』のこと」です。「資本」と言われているように、これが原資となって、その上に、さまざまな成功や幸福が築かれていくのです。
この「心理的資本」には、①ホープ(Hope:希望)②エフィカシー(Efficacy:自信・効力感)③レジリエンス(Resilience:回復力)④オプティミズム(Optimism:楽観)の4つの因子があるとされています。これらの4つの因子が相互に影響し合って生まれてくるものです。
1.今、なぜ「心理的資本」が注目されるのか
 組織で成果を出すためには、メンバーが言いたいことを言えて、恐れることなく新しい挑戦ができることが必要不可欠です。心理的安定性のある職場が求められています。そのためには心理的資本が重要になってくるのです。
 しかし、元来、日本の雇用制度や処遇システムは、そこで働く人たちの心理的資本を毀損しないようにできていました。日本では終身雇用が前提で、欧米のようにダメなら契約満了で打ちきりか解雇になるという仕組みではありません。余程のことがない限り、クビになることはなく安心して働けるのが日本の雇用システムです。社内で激しい競争があるわけでもなく、重い責任を負わされるわけでもなく、給与も評価もそれなりで、大きな失敗さえしなければ、順調に階段を上っていくことができます。欧米のように「他人を蹴落としてでも」ということはなく、精神的にも疲弊することは少ないはずです。
 それにもかかわらず、今、「心理的資本」が注目を集めるのは、これまでの終身雇用を前提とした日本型の働き方から、ジョブ型雇用へと働き方改革が行なわれているということだけではありません。これまでは、日本企業で配慮されていた「心理的資本」が低下してきているのです。
   厚生労働省「令和元年度版 労働経済白書」においても、働きがい(ワーク・エンゲージメント)を促す要因として、就業条件、対人関係、仕事の進め方などの仕事に関する環境整備とともに、個人の木心理的資本の強化が重要であると指摘されています。
2.心理的資本が低下する原因
 心理的資本は、①成功するための目標に向かって粘り強く取組み、必要に応じて計画を修正する姿勢(希望) ②チャレンジングな仕事に成功するのに必要な自身(効力感) ③問題や逆境に悩まされたときでも、成功するために平常心を維持し、困難を跳ね返す力(回復力) ④成功を自分のポジティブな要素に結びつけて認知する力(楽観性)といった特徴を持ちます。
 心理的資本はこの4つの因子の頭文字を取り、「the HERO within(自分の中にいる英雄)」とも言われます。目標や成功に向かって自らを鼓舞し、困難を乗り越える力です。
 日本企業において、この心理的資本が低下してきているのです。
 心理的資本の4つの因子、①希望 ②自信 ③回復力 ④楽観が失われていく新しい原因があるのです。
 一つは「勉強不足」です。インターネットやITの普及により高度化・専門化したスキルや知識が必要になっています。こうした新しいスキルや知識について行けない人は、自信が持てず、楽観もできません。現状維持を志向し、何か新しいことをやってみようとしませんから、自分のキャリヤに希望も持てません。いわゆる「働かないおじさん」です。このような人が増えると組織に心理的資本が蓄積されません。
 「働かないおじさん」問題は、本人や企業の問題と短絡的に割り切るのではなく、本人・企業・社会(国も含め)が抱える複雑な問題で、最適解を求めて相互に協力しつつ解決を図らなければなりません。今企業を支え、これから定年を迎えるミドルシニアを含めた日本人全体が、より長く生き生きと活躍できる環境の構築が必要不可欠です。
 また、「自由の不足」というものがあります。コンプライアンスという大義名分によって社内手続きやチェック・報告に関する業務が、働く人の時間と意欲を奪います。
 ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)が増えているのも事実です。誰のために、何のためにやっているのか分からないような仕事では、希望も自信も持てるはずがありません。確かに、どんなに意味のない仕事のように見えても、会社にとっては意味があるのですが、本人に意味づけができていないのです。
   こうした仕事をこなさなければ、企業も社会も回っていきません。会社(上司)も本人の希望と違う地味な目立たない仕事や作業を振り分けなければなりません。ここでは、目の前の仕事と本人のやりたいこととをどう結びつけるのかというマネジメントが重要です。地道で意味がないように見える仕事が、どのように会社の目標や成果に繋がるのか、本人のやりたいこととどのように結びつくのかを丁寧に説明することで、意味づけができ腹落ちすれば、やる気が生まれ、自分の意志で積極的に行動するようになります。そうすれば心理的資本は蓄積されていきます。
3.心理的資本は従業員の心や行動に影響
 心理的資本が従業員の心理的な態度や行動、業績に影響を与えることが、アカデミックな研究によっても明らかになっています。
 心理的資本は、企業にとって望ましい、従業員満足度や組織へのコミットメントといった心理的な態度や行動、個人の業績とプラスの相関があり、離職意向や不安・ストレス、セクハラ・パワハラといった生産性を下げる逸脱行動など望ましくない態度や行動にはマイナスの相関があるとされています。
 つまり、心理的資本が蓄積されて増えれば、従業員の心や行動に肯定的な影響がもたらされるのです。
 また、心理的資本の構成要素に着目した小規模な研修を実施することで、心理的資本を増加させることが可能であるといった研究結果もあります。
 企業が外部から介入して、組織的に強化することが可能であり、マネジメントできるということです。
 こうした従業員の「心」を積極的な方向にマネジメントし、働きがいを促進する企業の取組みは、今後拡大していくと思われます。
日本企業は、これまで雇用慣例として、心理的資本、つまり労働者の心の状態を大切にしてきました。欧米のように労働者が資本家や経営者のツール、使い捨ての存在ではありません。心理的資本は日本企業の強みです。今一度、心理的資本の重要性に目を向けてみるときです。欧米型の雇用システムが絶対的に良いわけではありません。働き改革の名の下に、欧米の雇用システムを導入することだけが改革ではありません。
日本型の良さを残しつつ、欧米型の良さを取り入れること、ハイブリッドな雇用システムの構築が求められているのです。 
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す