夏と社長とカメラとわたし

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コラム
私が勤務していた編集社では、毎年夏になると心霊スポットに取材に行くのが恒例となっていた。


ある年の夏。

同期の2人が超有名心霊スポットに泊まりで取材に行くのに、私は編集作業が忙しく、なぜか社長と2人で市内にある廃墟に取材に行くことになった。

私は超有名心霊スポットに取材に行きたいのに、なぜ廃墟よりも怖い社長と2人で取材に行かねばならんのか。全くひどい災難である。


ある晴れた日の午後、私は仕方なく社長を助手席に乗せ廃墟に向かった。



外はスッキリ晴れて青空が広がっているが、その建物は、いかにも廃墟らしい重い空気を身に纏い、愚かな人間どもを待ち構えているように見えた。


中に入り、しばらくは特に変わった様子はなかったが、廊下の途中から急に天井が焼け焦げたように真っ黒になっているエリアがあった。


なんだかその先は薄暗く、空気が重いように感じた。


その時


『先行って写真撮ってきてくれる?』


と、社長に言われた。


廃墟よりも社長が怖い私は、
「はい!」
と、元気よく返事をし、天井が黒く焼け焦げているエリアに侵入し、一眼レフを構える。




「・・・・・・・・・・・・」





シャッターが切れない。


「・・・・・・・・・・・・」


何度試しても… 切れない。


「あの、社長、、シャッターが切れません、、」


『え?どれ見せて?』


社長のところへ行く。


『カシャ』

『切れるじゃない』


「 …すみません」


再び天井が黒く焼け焦げているエリアに戻り、カメラを構える。




「・・・・・・・・・・・・」




「社長、、やっぱり、、切れません、、」




廃墟より怖い社長の前で、何度もシャッターが切れないなどと言いたくはないのである。
しかし、何度試してもそのエリアでだけシャッターが切れないのであった……。



重く、冷たい空気が喉の奥を通り抜けた。




その後のことは、あまりよく憶えてはいない。


ただ、この世には

私の知らない何かが

確実に存在しているのだ。



そう思った、暑い夏の日だった。



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