ストーリー
学校内で起こる連続行方不明事件。人喰いマンティコアと戦う霧間凪と二重人格の宮下藤花とブギーポップ。事件とともに刹那的な恋と進路への不安が入り混じった学生の心情が巧みに描かれていました。
ヒロインが二重人格と言う非常にしびれる設定です。動画で見たくなるような会話が続きました。
何が起こっているのか、説明を上手に省略しています。
序盤の不思議のバラマキも見事で、しっかり伝えようとしない度胸の良さが作品を大人の読み物にしています。
楽しませるエンターテイメントストーリーとしてよくできています。
良いところ
皆が隠している、のではなくみんなが知らないでいる、ところにリアリティーがあります。
京子が霧間凪に襲われるシーンだけでなく、登場人物が断片的な内容の話をすることで、自分の立場や思い込みから状況見ていることが伝わります。また彼らには生活を良くしたい普通の欲望があり、どこまでも他人に深入りして構ってはいられないという態度がみられます。お話を盛り上げるための都合の良いキャラクター作りになっておらず、上手に作られています。
恋とはいっても非常に刹那的で、甘すぎないところがありました。子どもじみた甘えあいや将来の約束などがなく、全体的な冷めた空気の人間関係にフィットしています。
設定や心理学の複雑な説明を含みながら、登場人物のいくつかの謎と、学校から生徒がいなくなる大きな謎が徐々に明らかにされていく様子も、上品に整頓されていて読みやすく構成されています。
序盤から登場人物は多く、話ごとに登場人物ががらりと変わるもの、脅威が同じようにある世界のため、お話への興味が失われることがありません。
人称と視点の移動
3話の序盤、1人称と3人称、主観と客観の入り混じりがありますが、行あけなどで巧みに混乱を避けています。この工夫は4話、HEARTBREAKERでのバトルシーンでより発揮されていきます。●であったり、言葉の工夫、例えば
エコーズは再び凪を抱えたまま屋上から飛び出した。
「逃すか!」
マンティコアはその後をすぐさま追った。
のように登場人物の名前を出すことで視点が変化したことを伝えています。このため視点が頻繁に入れ替わる本作品も、読みやすくうまくいっています。
無駄なく話が進んで行き、お話の全体のバランスが取れています。
テーマと余韻
4話、木村が校舎に忍び込む時
の
「俺はどうして学校なんぞに来たのだろう……」
他に行くべきところはない。どこにもない――
この印象的な心情が、現代の若者の空虚感をうまく反映しているように感じました。
エンディング、エコーズとは最後の審判のため遣わされた報告の天使でした。そして、この世界を救ったのは、優しくしてやった寂しがり屋で惚れっぽいお人好しの紙木城直子でした。そんな彼女にありがとうとも言えないまま登場人物たちは悲しみと虚しさを覚えます。
この作品は青春の思い残しや楽しむこと、やりそびれだけでなく、愛すべき人への感謝をしそびれたことをエンディングに持ってきています。読者は青春に対してもどかしさだけではなく、鎮魂の思いをもって振り返ることができます。ありがとうと言えなかった、その後悔を心に残した締め方にこの作品の高い格調を感じました。
以上、サンプルです。
もう少し厳しく問題点を突くこともできますが、作者は自分の良いポイントをしっかりと認識することが大切です。良いところをできるだけ的確な表現で評価することに心を砕いています。
この後コメント欄にて、もう少し聞きたいところなど受け付けておりますので、お気軽にご利用ください。
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