【小説】オーバーアクセプト

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小説
小説といいますか、即興演劇での用語なのですが、ハリウッド映画や海外ドラマでもおなじみの手法です。

以下、わたしの小説の一部です。わたしのものなので引用はしません笑。



 梁が炎とともに音を立ててかしいだ。火の粉が大きく舞い、ローガーとフェロールは同時にあとじさった。互いの滑稽な仕草を笑い合う。
 盗賊ローガーは燃えさかる屋敷に手をかざした。五つの指輪が色とりどりにきらめく。
「また伯の屋敷を燃やした。伯を潰すためならてめえの都がどうなっても構わねえ、ってか。おまえらの陛下は悪魔だな」
「いや、女だよ」フェロールは答えた。



これをオーバーアクセプトなしの会話にするとこうなります。



「おまえらの陛下は悪魔だな」
「そうだな」フェロールは答えた。



どちらが興味深い会話でしょうか。後者は会話に対し、ただ答えているだけです。比べて前者は、陛下が悪魔的であることに賛同しつつ「女は悪魔より恐ろしい」といったしゃれっけをも含ませています。

実際悪魔より恐ろしいかはともかく笑、「○○姫でございますね?」「え、ええ……」は冗長ですよね。そもそもこの会話自体がいらない、という話です。会話をするからには丁々発止、どっちがマウントを取るかの戦いでなければなりません。わたしはそう学びました。

即興演劇の世界でも、こんな会話はNGです。なぜならば、つまらないというだけでなく、相手の提案(質問)に対し、回答者がアクセプト(受け入れ)していないからです。ある意味相手を無視していますよね。「え、ええ……」なら楽だし頭を使わなくても答えられる。ゆえに「まちがっている」のです。そして人間は、常に楽をしたがるものです。

劇としておもしろくしようとするならば、例えば



「○○姫でございますね?」
「そういうあなたは○○ね。○○伯の落とし胤、参事会大学で2年学んだのちイヤになって逃げ出し、徴税官として○○卿に拾われるもクビは間近」



まあイヤな姫ですが笑、いかにも海外ドラマっぽいでしょう。こうすることで賢い姫を表現しつつ、相手の対応を生き生きと引き出すことができます。相手が怒り狂えば忍耐のない性格なのだとわかる、どこまでも穏やかならのちのち姫が態度を改める、といった具合に。

そして否定、ネガティブな回答もNGです。「お、おまえ、宇宙人だな?」「いやそんなわけないし!」のあと、どういう展開に持っていけばいいのでしょうか。宇宙人という設定に乗っかってあげないといけない。

相手を受け入れつつ、ともに物語を構築していく。台本なし、一寸先は闇、そして目の前にはリアルなお客さんが見ています。企業の研修などでも役に立つでしょう。もちろん小説でもです。

が、



「○○姫でございますね?」
「え、ええ……」



日本の小説はこれが主流です。そしてオーバーアクセプトの手法を使うと、「意味がわかりません」と言われます。ちょっと欧米すぎるのかもしれませんね。
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