これは星の夜露です。
これで墨を溶いて短尺に願いを書こうと思い、
手近な器にとりました。
すると器に星空がやどって、きらきらと光を放ちます。
それがあんまりにもきれいなので、
私はその夜露を墨で染めるのが惜しくなってきました。
この美しい水を何に使えばいいだろう。
私は家じゅうを歩きまわりました。
そうしたら見つけました。
それは小さな鏡でした。
昔とある雑貨屋さんで見つけて、一目惚れした手鏡です。
初めこそ気に入って使っていましたが、
いつしか忘れ去られて、部屋の端に放り出されていました。
ああ、私はいつから、
私を見つめることを忘れていたのだろう。
薄汚れた鏡をきれいにするなら、
この夜露こそがふさわしい。
そう思いました。
器に指をいれて、夜露を一滴、すくいとりました。
指の先はきらきらと濡れました。
そっと鏡の表面を拭うと、
鏡は深く透明にかがやきはじめました。
星の夜露は、鏡に染み通って、
鏡の向こうの世界をうすく彩ります。
小さな鏡を覗き込むと、
向こうの世界に、私の瞳が見えました。
それは夜と朝のあいだの色をしていました。
そうして、星のひかりをたたえて、いつまでもちかちか輝くのでした。