房舎施(ぼうしゃせ)とは、訪ねて来る人あらば一宿一飯の施しを与えることをいいます。
こういう話があります。
ある所に、一人の旅の乞食がいました。
ひどく餓えたその乞食は「ポツンと一軒家」を見つけて一杯の飯を乞いました。
すると、そこに住む夫婦の妻が出てきて、こう言いました。
「家には私たち夫婦が食べる分の飯しかないのじゃ、お前さんのような汚い乞食に食わせる飯などないわい!」
冷たく言い放ちました。
乞食は、
「そうですか、わかりました。では、一杯の水を恵んではくれないでしょうか」
と、水を乞うと
「乞食の分際で水を乞うとはずうずしい奴だ。水なら目の前の川にくさるほどあるから自分で飲め!」
これまた冷たく言い放ちました。
すると、目の前の乞食はこつ然とお釈迦様の姿に変わられ、こう諭しました。
「飯を一杯恵んでくださったなら、この金を一杯お礼するつもりでした。
水を一杯恵んでくださったなら、銀を一杯お礼するつもりでした。
川から水を汲んでくださる親切があれば、錫(すず)を一杯お礼するつもりでしたが、残念なことです。それでは幸福は報うては来ませんよ」
びっくりした妻は、
「ああ、あなたはお釈迦様でしたか。差し上げます、差し上げます」
妻は言ったが、お釈迦様は、
「いやいや、利益を目当てにする施しには、毒が混じっているから頂かない」
とおっしゃって帰られた。
しばらくして仕事から戻った夫が、妻から一部始終を聴くと、飯を抱えて一目散、お釈迦様の後を追った。
その途中、道の岐路に立った。どちらの道だろうと迷っていると、ふと道端に乞食がいる。
夫 「おい、乞食!ここをお釈迦様が通られなかったか」
乞食 「いいえ、ちっとも知りませんが、ところで、私は空腹で動けません。何か食べ物を恵んでくださいませんか」
夫 「オレはおまえに恵みに来たのではない。金を得るために来たのだ!」
冷たく言い放ったとき、再びお釈迦様が現れ、静かに仰せられた。
「妻も妻なら夫も夫、哀れむ心のない者は恵まれないのです」
どうしても金が欲しい夫は、臆面もなく飯を差し出した。
「いいえ、名誉や利益のための施しには、毒が混じっているから頂くまい」
厳然とおっしゃって、お釈迦様は、立ち去られたのでした。
~無財の七施~ おわり