当方への依頼をお考えになる際、どのような文章を書く人間かわからなければ困るかと思い、参考になるよう作品を少し公開しておこうと思います。
『世界一の爆弾』
私はとうとう完成させたぞ!
これは世に種々雑多あるどんな兵器より、どんな爆弾より素晴らしい。これ一つさえあれば、国民を苦しめる忌まわしき戦争も終結するだろう。いやはや、素晴らしい。
天才の私にさえ何年もの開発を要したのだ。きっとこれは、世界一の爆弾に違いない。
こいつを空中で炸裂させることを考えると、心が躍る。空を見上げる兵士たちの顔が目に浮かぶ。敵も味方も関係ない。銃持つ彼らはみな、一様に驚愕するだろう。
私は早速、完成した爆弾を軍に持っていった。これを世界で初めて使う栄光を、ぜひ我が国に捧げたかったのだ。
だが、彼らは、あろうことかそれを拒否した。そして口をそろえて言う。
「こんなものは、狂っている」
私には理解できない。なぜ彼らはこの爆弾の素晴らしさが分からないのか。これ一発で戦争は終わる。これは世界一美しい爆弾だというのに。
不本意だったが、私は敵国にこれを持っていくことにした。
亡命して、この身一つで軍門を叩く。
だが、せっかく研究者の地位を投げうってきたというのに、彼らの反応もまた、我が国の軍と同じだった。
「博士、あなたは狂っているよ」
遺憾だが、他の誰もが理解しないというのなら、私一人でやるしかあるまい。
私はこれまで名うての開発者として幾多の兵器を生み出してきた。その謝礼や報酬などは腐るほどにある。飛行機ひとつ買っても懐は痛まない。
私は早速準備を始めた。
最初はパイロットを雇おうとしたが、彼らまでもが「狂っている」と運転を拒否したので私ひとりでやる。私は天才なので一日あれば覚えられた。
飛行機も改造する。高高度の飛行にも耐えられるようにする。爆弾の投下装置も取り付けた。
作業中、垂れ流しのテレビからニュースの声が聞こえた。
「──今回の戦争による被害者は百万人を超え──」
もはや時間はない。一刻も早く計画を実行しなければ。
私は最後の作業として、この爆弾を飛行機に装填する。
私は飛んだ。文字通り、高度一万メートルの大空だ。
まわりの馬鹿な開発者どもは、高度八千メートルを飛ばすのがやっとらしいが、天才の私には造作もないことだ。
『所属不明機に告ぐ! 高度を下げ軍の指示に従え』
そろそろ戦場というところ。操縦席に取り付けた無線から、雑音交じりの声が聞こえた。
だが、私を理解しなかった愚か者に、いまさら計画を止められる道理もない。私は無線を切ってさらに飛行する。
そして目的地に着いたとき、私は投下のボタンを押した。
爆弾は勢いよく放たれ、兵士たちが殺しあうど真ん中に落下した。
空を切り裂く音とともに、雲を突き抜けて飛来する。
刹那、炸裂。
両軍の兵士は、大空に広がる爆発を見て、驚愕する。
みな、撃ち合いをやめて、ただ茫然とそれを眺めた。
誰かが言った。
「きれいだ……」
そこには、青い天を染め上げる巨大な一輪の花があった。