”仲直りの魔法” オリジナルショートストーリー1

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ポケットの中に何気なく手を突っ込むと、小さな箱が手に触れた。軽く弄ぶとコロコロと、くぐもった小さな笑い声のような音が鳴った。私はポケットから小さな黄色い箱を取り出して、1つだけ残った銀色の四角い粒をつまみ出し、目の前の少女に差し出した。
少女は、泣きはらした目を少しだけ大きく見開き、無言でそれを受け取った。私は少女が何か言うのを待たずに、踵を返して駆け出していた。
えっちゃん、ごめん。ごめんね、えっちゃん。
わたし、えっちゃんと仲良くして、みんなにいじめられるの、怖いんよ。
駆けながら、私は泣いた。えっちゃんのように真っ赤に泣きはらした目で、玄関で靴も揃えずに母の胸に飛び込んだ。母は「どうしたの」と驚きながらも、私の口が開かないのをさして気にする風もなく「キャラメル食べ」と、小さな黄色い箱を差し出した。手に取ると思いのほか重く、振ってみてもコロコロという笑い声は聞こえなかった。ちょっとつまらないような気分になって、1つ取り出して口に放り込むと、えっちゃんの泣き顔が思い出されて、また泣いた。

小さい頃からよく遊んだ。けんかも沢山した。けんかして、仲直りする時は、必ずキャラメルをくれたあやちゃん。仲直りするのを恥ずかしがるあやちゃんに、お母さんがかけた魔法だった。小さな手に握られた2粒のキャラメル。不器用な私から、一度は手渡した小さな粒を再び「貸して」と少々乱暴にもぎ取り、私の分まで銀紙を剥いてくれたあやちゃん。それで、全てのいざこざが帳消しになった。
小学生の時、いじめられていた私に、無言で差し出された小さなキャラメル。あやちゃんが下唇を色が変わりそうなくらい強く噛んでいたのは、涙をこらえていたからだろうか。
口に含んだキャラメルが周りの景色と一緒にゆっくり溶けていった。不思議な温かさが胸に広がって、さきほどまで流していた涙よりもずっと綺麗な涙が溢れて止まらなかった。
さいわい、私へのいじめはすぐにおさまったが、私とあやちゃんの仲は少しぎこちなくなってしまった。
高校も大学も別々だったのに、教育実習で再会した。自分が受け持つ低学年のクラスでけんかが起きてしまい、戸惑いを隠せずにいる彼女を前に、カバンの中に何気なく手を突っ込むと小さな箱が手に触れた。軽く弄ぶとカラコロと、くぐもった小さな笑い声のような音が鳴った。私はカバンから小さな黄色い箱を取り出し、目の前の彼女に差し出した。

目の前に差し出された小さな箱を無言で受け取り、手の平に向けて軽く振った。
「仲直りの魔法だったよね」
目を上げると、そう言って少しはにかんだように笑う親友の顔があった。私は手のひらに2粒のキャラメルを握り、教室から飛び出した。放課後の校内に、けんかしたまま仲直りできない不器用な男子児童の背中が見えた。

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