【もう少し待てれば…】

記事
コラム
 私の性癖?には、物語等の架空の世界に
 入り込む、というのがあり、登場人物を
 「たられば」で歯痒く思うことすらある。
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 「フランダースの犬」のネロなどはその
 代表格であると言える。いつぞや買った
 読み聞かせ絵本にも出ており、文庫本も
 持っているが、私は、どうしてもネロの
 生き様には納得ができない。時代背景が
 違うことも一因だとは思うが、あれでは
 あまりにも生きることを諦め過ぎでは?
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 有名な物語なので余計な説明はしないが、
 仕事も住む家も失った時点であまりにも
 早く自分に見切りをつけ過ぎだと思えて
 ならない。特に、①絵の展覧会で一等に
 なれなかったことで、これで終わりだと
 絶望してしまったこと、②コゼツの財布
 を拾って届けた後で、奥さんとアロアの
 制止を振り切って、パトラッシュだけを
 残し雪の中へ出て行ったこと、③憧れの
 絵を見られたことに満足し、追ってきた
 パトラッシュと一緒に死んでいったこと、
 これらのことが、返す返すも悔やまれて
 腹立たしいのは果して私だけだろうか?
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 十五の少年にとって、仕事も住む場所も
 失うというのは確かにつらくて耐え難い
 ことだろう。自分が同じ立場ならもっと
 混乱していたであろうことは間違いない。
 思いもよらぬコロナ禍にあって、私自身、
 現在、実質的には仕事がなく、住む家も
 管理費が払えなくなれば(そうなるまで
 には多少の年月を要するが)追い出しを
 くう可能性もある。パラダイムシフトを
 余儀なくされる今後の世の中にあっては、
 誰もが、いつネロと同じ状況になるかも
 知れない。ネロと我々とでは時代背景が
 異なるが、その時に何人が死を考える?
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 どうやら、マズローの欲求階層説で言う
 ところの「生理的欲求」と「安心と安全
 の欲求」が仕事も住む家も失った時点で
 満たされなくなったので「所属と愛情の
 欲求」「自尊と承認の欲求」「自己実現
 欲求」が起きなくなったのだと言えよう。
 ①絵の展覧会に全てをかけていたネロと
 しては、一等になれなかったことでもう
 終わりだと絶望してしまったのだろうが、
 ここで一等になることだけを最善として
 考えるからそうなるので、仕事も住む家
 も失って「自己実現欲求」が起きないと
 いう状態でなければ、再起を期すという
 選択肢、次こそ一等を取るという意欲に
 生きる気持ちを書き立てられたのでは?
 ②コゼツの財布を拾って届けた後、制止
 を振り切り、パトラッシュだけを残して
 雪の中へ出て行く必要が果たしてあった
 だろうか?家の人達は、仕事も住む家も
 失ったことを知っており、財布を届けて
 もらった恩義もある。何より、コゼツの
 手前大っぴらにはできずともこの二人は
 親切心も持っている。さしものコゼツも
 窮地を救ってくれた相手に惨い仕打ちは
 すまい。財布を拾った経緯の説明がてら
 家にいさせてもらったところで何の遠慮
 があろう。人の親切に甘えてはいけない、
 自分一人の力で生きていかねばならない、
 それができないなら死ぬしかない、もし、
 そういうモノサシが彼の心の奥にあった
 のならば、それは彼の思い上がりである。
 人はどこかで誰かと繋がっていて一人で
 生きて行くことはできないし、自分では
 どうにもならない時、人の親切を素直に
 受ける気持ちも必要だ。十五のネロには
 そこまでを理解できなかったか、分って
 いてもできなかったのかは分からないが。
 ③憧れの絵を見たことで満足し、後から
 追ってきたパトラッシュと一緒に死んで
 いった場面は、アニメ等では涙を誘うが、
 結果を知っている立場としては、叱って
 止めたかった。せめてもう一晩待てれば、
 財布を拾ってもらったコゼツも良くして
 くれるし、何より彼の絵の才能を認めた
 著名な画家が自分の手で彼に絵の勉強を
 させて画家にしたいと迎えに来るのだよ。
 もう一晩生きてさえいれば、何もかもが
 目出度く、幸せに収まる筈だったのに…
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 ネロに、せめてもう一晩生きてくれたら、
 という歯痒い気持ちから始まった話だが、
 マズローの欲求階層説で或る程度納得は
 できた。また一つ自己成長できた。次は、
 また別の架空の世界からテーマを選んで
 学びたいと思う、今日この頃の私である。
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 御閲覧、心より感謝申し上げます。
欲求階層説.jpg

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