嬉しさザクザク③

記事
コラム
丸川恵子26歳は最近売れ行きが良く無い事に気分が落ち込んでいた。
通販が幅を利かせリアルの店舗売りなどの業績が落ち込んでいる指数は世界的なものらしいが、恵子にとってはそんな世界的指数など関係ない。
兎に角、きょうの売り上げを上げたいのだ。
恵子は家庭の奥様相手の化粧品や健康食品を訪問して対面で売る仕事をしている。
化粧品や健康食品のメーカーから問屋を経て仕入れをしている。
いわば自営業者だ。
利益は薄利で、直接メーカーから入れる事が出来ればもう少し利益率は高いが、問屋が中に入って利益を抜くから恵子に入る利益が限られている。
この仕事を始めて3年位経つ。
段々と、お得意様が増えて来て軌道に乗って来たが、最近は単価が僅少になって来た。
恵子のお客も通販で買う事が多くなって来ているのだ。
しかし、前よりは売り上げが落ちて来たとは言え、自分の生活を支えるだけの収入は何とか毎月確保できているが、恵子はこの仕事から足を洗いたいと思っていた。
今日は、いつもと違って売り上げが上がった事に喜んでいた。
高級住宅街に住んで居る80近い歳の大奥様が健康食品と化粧品を合わせて25万円程買ってくれた。
この大奥様は地域の生け花協会の理事をしている。
来月の大祭の為の何かの景品に使うと仰っていた。
恵子の心は嬉しさで満たされていた。
このお金持ちの邸宅を後にして
時計を見ると19時を過ぎていた。
腹も空いていた。いつも利用している居酒屋に行こうと思った。
恵子の心は弾んだ。
今から美味しい居酒屋の料理と多少のアルコールを頂ける事だけが心弾む理由では無かった。
店長の様にして店の中を忙しく切り盛りしている30歳前後の男性が居る。
経営者らしき年配の男性も居るが主にカウンターの中に居て焼き物などを調理している。
恵子はこの若い男性に好感を持っていた。
テキパキと料理を配り他の店員達に適切な指示も出している。
料理も担当しているようで、お刺身の盛り合わせなどはサケのピンク色、ひらめの色,ゆでだこ、イカなどの色を巧に盛り合わせて見た目が鮮やかに盛り付け食欲をそそる技法だ。

私はこの人が好きだと思っていたが、自分からアプローチをする程の図々しさは恵子には無かった。
このような男性が自分を支えてくれる存在だったらどんなに心強いかと思った。
しかし、既婚者か独身か分からないが、女特有の勘の鋭さから独身と当たりを付けていた。
店内はいつも満員だ。
料理が美味しいし、値段も安いし店の中は一日の仕事の疲れを癒しに来る人間たちのエネルギーを感じて一種のパワースポットのようになっている。
自分もこのこの人達と同じなのだと言う一種の同志のような連帯感を持つのも嬉しかった。
この店が気に入って通うようになってから半年位経つ。
最初は女一人で居酒屋に入るのは抵抗感が有った。
何となくキマリ悪い感情を抱いていたが、一人で入って来る女性もチラホラ居てその内に気にならなくなった。
恵子は、お刺身の盛り合わせと生ビールを注文して美味しく頂いた。
一時間程で店を出た。
お気に入りの若い店員さんから背中に、ありがとうございましたー の声を受け恵子は店を後にしたのだった。





サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す