ラプソディー・イン・ロンドン ~表と横~

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イギリスでは、何が無くてもこれだけは欠かせないというものがある。
パブだ。
どんなに小さな町にも必ず1軒は存在する。

夜の帳が下りると町の人々が三々五々パブに集まってくる。パブに入るとき、日本ではまずお目に掛かれない光景を目にする。通りに面したところに入り口がある。が、ぐるりと建物の角を曲がった脇に、もう一つ入り口がある。外で眺めていると正面から入る人がいれば脇から入る人もいる。不思議だ。

まず比較的大きな扉の正面から入る。中は広々としていて、少しくすんだ赤い大きなソファーが並んでいる。仕切りを隔てた奥の部屋にはスヌーカーがあって、なんともかっこいいおじさんたちが静かにゲームを楽しんでいる。私も地場のラガーをパイントグラスで頂く。ゆったりした時間が流れている。

一杯飲み終えたところで入ってきた扉から出て、今度は脇の扉から入ってみる。こちらの扉は正面よりやや小さい。扉を開けた途端、先ほどとは違って四角いテーブルに丸椅子に座ったお客さんたちがワイワイガヤガヤやっている。正面から入った時には全く感じなかったお客さんたちの強い視線を感じる。一直線にカウンターに向かって、もう一度ラガーをワンパインと注文する。あれ?さっき向こうで継いでくれた兄ちゃんだ。「向こうにいたよね?」「そうだよ。同じ店だから。」へ~。「あれ?同じもの頼んだけど、さっきより安い。間違ってない?」「間違ってないよ。こっちだから。」へぇ~~。

この兄ちゃんが教えてくれた。「パブはどこもこうなっているよ。あっちがサロンでこっちがパブ。」階級社会イギリスがパブにもある。だからと言ってこっちは入っても良いけどあっちはダメという事はない。だから私はどちらも経験できた。でも皆それぞれどちらに行くかは決まっている。ゆったりしたサロンも良いけど、私はパブの賑わいが好きだった。

パブで知り合ったお客さんに助けられたこともある。公衆電話にバインダーを忘れてしまい慌てて取りに行ったが見つからなかった。翌日、昨日も来ていた清掃員のおじさんが「バインダーは取られちゃったかな。でも中身のインデックスが捨ててあった。これお前が無くしたやつじゃない?」バインダーはまた買えばいい。中身の情報が大事なんだ。ありがと~おっちゃん。

12時、イギリスでは酒類販売のタイムリミット。サロンにいたお兄ちゃんも全員(と言っても二人だが)パブ側に来て、いきなり丸椅子をテーブルの上に片付け始める。同時に残っているお客が蛍の光のメロディーに合わせて歌いだす。「More Beer More Beer、モービーモビ、モービーモビ、モービー!」もっとよこせと。
でも皆、手に持ったパイントグラスを飲み干すだけ(中にはタイミングを間違えて一杯だけっ!とお願いするおっちゃんもいるけど・・・)。
ルールは守るのだ。
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