朝礼の活用

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コラム
病院や診療所で朝礼をやっているところはどれぐらいあるだろうかと思います。私の経験上はそんなに多く無いように思います。かつては朝礼の重要性がどこでも認識がされ、朝礼のあり方とか、進め方、朝礼ネタの集め方などの本が書店にはかなり多く並べられていました。朝礼スピーチの講習会なども結構あり、どこでもやっていそうなイメージがありました。最近は書店に行ってもその手の本の数も減り、朝礼についての話題を聞く機会も余り無くなったような気がしています。しかしながら、やるところではしっかりとやっているはずだと思っています。

病院も病院毎にその取り組み方は、全く違っています。ある急性期病院では、毎日始業前に所属長を全員集めて昨日の実績(患者数)の報告を行い、昨日の報告、本日の予定などの報告をしていました。そして理念の唱和で終わりです。またある急性期病院では、救急センターに院長、事務長、看護部長、救急とICUの責任者が集まり、昨日の報告、BED調整などを行い、救急患者の受け入れがスムーズに行われるように工夫をしていました。また、全く朝礼を実施していない病院もありました。

私は病院では朝礼が必須だと思っています。始業に際しみんなで顔を合わせてあいさつするだけでも意味があると思うからです。医療はチームで行うものですから。でももっと積極的な意味で朝礼を行った方がいい理由は大きく分けて二つあると思っています。

1)病院の対象となる顧客は患者さまとなります。その患者さまは、年齢や受けた教育、経済力、それらか来る価値観、しかも心身ともに弱った状態で病院に来られます。病院のサービスは、生活のある部分を切り取ったようなサービスでは無く、専門的で全人格的なサービスが求められます。

例えば、レストランであれば「食事」という事に対するサービス、衣料品の店舗では「衣料品の販売」というサービス、ホテルであれば「宿泊」ということに対するサービスになるかと思いますが、「病気」の治療というサービスは商品自体が漠然とし、接遇もただいい笑顔であれば満足されるのかというと、全くそうではありません。患者さまはオーダーメイドの商品とオーダーメイドの接遇を求めて来ると言ってもいいと思います。

これらにどう応えて行くかが病院のサービスの課題と言えます。そのためには、日々の失敗や苦情、感謝の言葉を共有し、出来るだけ職員全体のものにする工夫が必要です。それは、月1回の研修会や報告会では追いつきません。あった事も1週間もすればその記憶は薄れます。一ヶ月もすれば多くの事は些細な事として忘れ去られます。しかし、その事に直面した患者さまにはずっと残っている事も多いはずです。あんなしんどい時に、あんな大変な時にこんな事があったという事ですから。その事をご意見箱に意見を書いて入れていただければ取り組み易いですが、そこまでされる方は決して多くはありません。

日々の朝礼で、昨日はこんな事があった。こういうケースは、このように対応をするようにしてください。この点は手順をこう変える事で、再発を防ぐようにします。こういった対応が出来ないと、職員の育成は進みません。業務改善も遅々としたものになります。また、ミスとかエラーの要素は誰にでもあり、ミスとかエラーがあった事を報告し、手順を再確認するだけで大きな教育効果にもなります。

朝礼は実践的な教育の場であるという事です。それを活かさないのはもったいないとしか言えません。

2)職員のモチベーションをどう維持・向上して行くのは難しい事です。個人差もずいぶんあります。しかしながら、病院が目指すべきもの(目標)をしっかり示し、それらに前向きに取り組むことで多くの職員はそちらを向くようになります。

病院や部署の目標は年初にはしっかり議論し、職員に周知を行いますが途中経過となるとなかなか出来ていないところも多いと思います。出来ていたとしても、月次の報告会でどの程度達成しているかが所属長クラスには報告があってもスタッフのところまではなかなか届いていないのが実情では無いでしょうか。病院の規模にもよりますが、部署は15、職種は少なくても30ぐらいはあり、交代勤務の部署もあります。病院が目標を達成しようと思うと、これら多くの部署や職種が協力し合わないと達成は出来ません。そのためには、今月の目標の達成率について今日どうなっているかを、朝礼で共有する事で大きな効果が得られます。

病院職員で患者さまの事はどうでもいいなんて考えている人はいないでしょう。患者さまに感謝される取り組みをしている、治療ではこんな結果を出している、と聞けばその病院で働く事にプライドも持てるでしょうし、自分にももっと何か出来るかも知れないと思う人も出て来ると思います。

日本看護協会では、「心に残る看護エピソード」を毎年募集し公開しています。それを見た多くの看護師は更に遣り甲斐を感じているのでは無いか思います。介護甲子園という年一回の介護の業務改善の取り組みが報告され、やはりそれを見た介護関係の職員の方は自分達ももっと頑張らないとと、思っているのでは無いかと思います。
実は病院にはそんな事が日々発生しています。ただ、なかなか見えて来ないの実情です。それを日々見える化することでモチベーションもかなり違ったものになるはずです。

ここまでお読みになった方は毎日たくさんの事を報告し合う必要があり大変だと思われたでしょう。確かに大変な部分もありますが、これで病院の目標達成に拍車が掛かり、職員の育成が出来るのであれば遣り甲斐がある事では無いでしょうか。いい病院が出来て患者さまに喜ばれるのです。

かと言って長い朝礼は必要ありません。むしろダメです。基本5分で足ります。朝礼は、職員の教育の場であり、情報共有の場であると位置付ける事。この2つの視点で報告する内容を予め決めておく事。意見交換はしない。これでずいぶん違う結果が生れるはずです。
(画像はCanvaの画像を加工、転載)
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