HCD専門家が解説します!ユーザーインタビューにおけるインサイト発掘のコツ

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ビジネス・マーケティング
自動車部品製造企業の新規事業部門でUI・UXのデザインリードと、マーケティングリードをしているTAKEBONです。つい先日ユーザーインタビューを実施して色々と新たな発見がありましたので、備忘録としてまとめておきたいと思います

今回インタビューをやってみて感じた事は、開発側やマーケ側がこう売りたいと思っている事と、ユーザーの受け取り方やニーズには大きなギャップがあることを理解することが大切だということです。背景にある経験や価値観を聞きながら、その人を形作っているコアを発見すること。そこから得られたインサイトを確かめる。この繰り返しだと思いました。

技術を売るわけではなく、我々が良かれと思っていることは押し付けに聞こえるんだと認識をすることも重要でした。対話を通じて、その人その人の輪郭をはっきりさせて、この人だったらこの言葉に共感してくれる、安心してくれる、信頼してくれる、という言葉を紡ぎだす時間が必要です。ここには時間がかかりますが、徐々にはっきりしてきていて、ようやく生活者の心に少し近づけた気がしました。繋がり、紡いで、分かち合う。そんな気付きを得られたインタビュー体験をしました。


バイアスを外してインサイト発掘の旅に出よう

一つのコンセプトに対して、ユーザーの利用状況を把握しながら、どのような体験を組み込むとユーザーはそのサービスを使ってくれるのでしょうか?その答えはすぐには見つからないかもしれませんが、少なくとも調査を通して、プロトタイプを使って頂くことで開発側が信じていた仮説や価値は脆くも崩れるということを何度か経験してきました。その逆も然りで、この機能はネガティブになるからダメだろうと思い込んでいたものでも、少し表現を変えたり、他の要素=メリットと組み合わせることによって、ユーザー価値がマイナスからプラスに転換されることも立証できたりします

開発バイアスを外して、ユーザーに興味関心を持って、一つ一つの言動やリアクションに聞き耳を持って観察を繰り返していると気づきが得られたり、アイデアが生まれたりします。そして傾聴していくことで、ユーザーの心の奥底でどんな意識変化や行動変容がありそうか深層心理に迫るようなインサイトを探っていくことが出来ます。

UIデザインの望ましさと好ましさ

デザイナー観点では、サービスのプロトタイプアプリなどを体験してもらった上で、デザインの印象についてヒアリングすることで、デザインに対する望ましさや好ましさを定性的に確認していくことが出来ます。具体的には、UIに対して、どのような感覚を持ったのか、どういった感情になったのか、ヒアリングを繰り返すことが重要です。細かく丁寧に聞いていくことによって、クリエイティブチェンジをするべき箇所を発見していくことが出来ます。もちろん使い勝手や操作方法に関しても評価をしてもらうことで、より使いやすく、望ましいデザインが可能にもなります。

定性的な調査の難しい点は、インタビュー後にチームメンバーにその内容を共有することです。その場に一緒にいないと、ユーザーの声を感じられない為、サマリーなどを共有したとしてもそのサマリー自体に個人的主観や、役割によるバイアスがかかっている可能性があります。そのため、開発を担当しているメンバーはなるべくインタビューに参加して、ユーザーの反応やコメントを直接確認・観察すると良いでしょう。特に立場や役割が違う人が集まり、インタビューリサーチに参加することで、異なる視点でインサイトを得られるメリットもあります。

 Sun Asteriskのビジネスデザイナーである井上さんの著書では、BTC(※)による異能の掛け算で議論することが推奨されています。異なる視点で建設的な意見を戦わせやすく、新規事業のイノベーションを生む条件の一つにもなっていたりします。

※BTCとはビジネス、テクノロジー、クリエイティブの頭文字を取った専門的な役割を示しており、ビジネス的な観点、技術的な物作りの観点、ユーザー視点によるお互いの領域から、3つの異なる視座を持って事業をブラッシュアップ構築していくことで、イノベーションを起こせると言われています。

 関連情報としては、Takramのデザインエンジニアである田川欣也さんも著書である「イノベーションスキルセット」の中でBTC人材モデルを提唱しています。越境型の人材開発にはBTCのスキル役割をオーバーラップさせて、ハイブリッドなスキルを持ったデザインエンジニアや、ビジネスもわかるデザイナーなどを新規事業メンバーに揃えることで、イノベーションを生み出していける=現代で求められていると主張されています。

インタビューで仮説が崩壊することも

 インタビュー中には、ユーザーのネガティブな意見が頻出すると、一喜一憂することも多いのではないでしょうか。どうしてもマイナスの印象が多くなるとネガティブになるかと思いますし、自分たちが立てた仮説があっけなく崩れていく経験も何度もすると思います。それでもなお、粘り強くユーザーの意見をヒアリングしていると、ポジティブな意見の共通点が見出されたり、思いも掛けないインサイトや気づいていなかったベネフィットが発見されたりします。予想と違っていることがわかることが最も大切なこと(インサイト)で、予想外だったことをプロジェクトメンバー全員で話し合い、その場でコンセプトの改善を行うことで、ユーザーニーズとのマッチングに繋がり、PMF達成の一番の近道になります。N1に徹底的に拘り、あの人に熱狂してもらうサービスにするにはどうしたら良いだろう?とユーザーの顔を想像しながら、コンセプト改善や議論ができるようになってくると、仮想のペルソナではなく、実在するロイヤル顧客になってもらえる人を想定したリアルなターゲットユーザーを設定できるようになってきます。

ブランドメッセージをインタビューから引き出す

また、得られたインサイトから、ブランドメッセージを作っておくことで、共感を生むサービスデザインに一歩ずつ近づいていくことも可能です。なるべくブランドイメージやメッセージを複数案用意して、その言葉一つ一つがユーザーにどのように受け止められるのかをインタビューでヒアリングすると、良いでしょう。言葉から受ける印象がどのような感覚なのかも把握していくことが出来ます。
得られたインサイトから、ベネフィットを打ち立てて、その根拠を示していきます。ユーザーインタビューを繰り返していくと、ブランドメッセージから感じられる印象は人によって千差万別だということがわかります。共通して刺さるポイントや、ネガティブに感じる箇所をヒアリングしていくことによって、新たなインサイトが得られることもあります。インタビュー後、都度改善を繰り返すことによって、ブランドメッセージは磨かれていきます。

デザイナーがインタビューに参加する意味と価値

UXデザイナーは勿論、それ以外のグラフィックデザイナーやプロダクトデザイナーも可能であればインタビューに参加することをお勧め致します。何故なら直接ユーザーの意見を聞ける機会はローンチまでないに等しいので、自分たちが作り出し成果物に対して、ユーザーの反応を観察するまたとない機会となるからです。

 デザイナーであればクリエイティブに自信を持っている場合が多いと思いますが、開発バイアスがかかっていたり、ユーザーの事を知らないと、ユーザーに受け入れられていない部分があることを見落としてしまいがちです。デザイナーが直接ユーザーインタビューに参加することによって、好ましいと思われるイメージ、望ましいと思われる機能を確かめて、クイックにコンセプトを改善修正していくことが可能になります。コンセプトがある程度進んだ段階でユーザー調査を実施すると使用意向がなかったり、ネガティブな意見が大半で、ビジネスとして成り立たないことになってしまうのは、なるべく避けたいのではないでしょうか。

 私の経験上では、インタビューコメントを聴きながら、新たなアイデアが浮かんでくることもしばしばあります。何より当事者意識が芽生え、ユーザーはこんなことに困っている、こんな生活を送っている、だからこのコンセプトはこういうイメージやブランド感がフィットする、ということが具体的にイメージが出来るようになります。これらのユーザーから得た生の情報をデザインのヒントにすることで、共感されやすいコンセプトを作り出すことが出来ます。
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