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◉連続小説ドラマ
欲に満ちた世界
作者 北条むつき
朗読 いかおぼろ
◉第23話問い詰めと土下座
「由雄さん、そして和姉……。聞いてほしいことがあります」
先日姉マンションを飛び出し、その後神崎さんとの食事をした際、神崎さんのある提案で、今、神崎さんと姉マンションに由雄さんの事件の追求に来ていた。
ちょうど由雄さんも姉もおり、私と突然訪れた神崎さんとで、姉はちょっと不穏な空気感を漂わせながら、ヨソヨソしくお茶をテーブルに置いた。
私の一言で始まった対話形式の問い詰め。いわゆる先日由雄さんに襲われそうになった経緯を姉のいる状態で、私は話している。
最初は躊躇したが、先日神崎さんとの食事をした後、私は神崎さんから告白を受けた。
「君を守りたい。サエと被ってしまい、迷惑かもしれない。でも俺はサエにできなかったことを今度は伊月美玲さん、君にしてあげたい。そんな思いでいっぱいなんだ。迷惑じゃなかったら、俺が君の支えになる。付き合ってくれないか?」
「えっ……」
「そして、今抱えている、お姉さんの旦那さんとのイザコザを収束させよう。俺ももちろん力になるから安心してほしい。それが終わったら、俺は君との付き合いが楽しみだ!」
神崎さんに言われた言葉が私を勇気づけた。
そして今日、この今、私は由雄さんを目の前にしても、躊躇することなく対話できると確信していた。横にはもちろん神崎さんもいる。
「由雄さん、先日、姉という存在がありながら、私を襲おうとしましたよね?」
「……」由雄さんは黙ったままだ。
「どうなんですか? 私は先日のやりとりを恐怖に感じ、もうこの姉マンションで住めません。実際、あなたを男性としては見れません。答えてください」
そう言うと、姉が間に口を挟む。
「本当なの? 美玲……。由雄さん……。あなたどういうこと?」
「……」
由雄さんは黙ったままだ。
「あなた! 答えて! 美玲の言うことは本当なの?」
和姉が今度は由雄さんを問い詰める。しかし由雄さんは黙ったまま無言を貫いていた。私は間髪入れずに突っ込んだ話をする。
「黙ると言うことは、認めると言うことですね? 由雄さん」
そういうと由雄さんはやっと口を開いた。
「……君がいけないんだよ? 美玲ちゃん……」そう言うと今度は姉が口火を切った。
「穢《けが》らわしい! 私の妹のせいにしようって言う気? 由雄! あなた、ちゃんと真っ当なこといいな! あんたの女好きは今に始まっちゃいないからね!?」
和姉が由雄さんにキレた。
「……言いがかりはやめてくれ! 俺は無実だ!」
「無実なら、何故美玲がこんな訴えを、わたしたちの前でするの!? ちゃんと答えな由雄!」
更に和姉は由雄さんにキレて問いかける。由雄さんはダンマリを決め込んでいるようだったが、和姉は躊躇することなく、私の性格を知ってか、由雄さんに言葉のパンチを浴びせた。
「あんたねぇ! 他の女に手を出すんならまだしも。私の妹に手を出そうとしたあんたは不潔でゲスいよ! この事件、どうする気!? 美玲が警察に言わないのは、あなたを思ってのことよ!?」
流石は元ヤンの和姉は由雄さんに食ってかかった。すると由雄さんは、観念したかのように首を項垂れ、ベソを描くように啜り泣きながら質問に答え始める。
「ごめん……。美玲ちゃん……。俺が悪かった……。許してほしい! どうすれば許してもらえるだろうか……。俺は、俺は、とんでもないことをしてしまったな……」
「本気で思っているなら、私にも、お姉ちゃんにも頭をついて謝ってください! 後の判断は和姉に委ねます。そして二度と私の前に現れないでください!」
そういうと由雄さんは、和姉に向き直し、頭を擦り付けるように土下座をして謝った。
その行動をみた神崎さんはある用紙を取り出し、由雄さんに見せた。
「念書です。金輪際《こんりんざい》、伊月美玲さんの前に現れないでください。そしてこの念書にサインをいただけますか? もし破った場合は、警察に通告します」
「……くっ……」
由雄さんは、悔しいのか唇を噛み締めながら、わたしたちの要望に応える他ないようだった。その横で姉の和美は、ため息をつき頭を抱え込んで泣きそうな顔つきになっていた。それを見るとどうしても数姉に謝りたくなった。
「ごめん……和姉……。こんなことしたくなった……。けど、これしか方法が思いつかなかった……。ごめん……」
そういうと和姉は何度か頷いた後、私に向き直し「アンタは悪くない、この由雄が悪いんだ……。美玲、アンタは気にしなくていいよ。こちらこそ迷惑かけたね……美玲……」と半べそになりながらも必死に怒りを由雄さんに向けている姿があった。
念書を描き終えると、由雄さんは再度、私と和姉に頭を擦り付けながら土下座をしていた。
「ずっといいよと言うまで、アンタは頭を擦り付けときな! もう頭を上げるんじゃないよ!?」
和姉の言葉通り、私と神崎さんが立ち上がり、帰り際もずっとその姿勢を続ける由雄さんがいた。
つづく
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