今回はなにかと分からないことが多い「見積り」についてです。
ランファさんは「見積り」と聞くとなにを重要視しますか?
うーーん、見積りというくらいだからやっぱり価格でしょうか。
では、その重要視している価格について適正価格の判断は可能ですか?
無理です(笑)
ですよね。「見積り」は何を見積もっているのかで価格の適正さは変わってきます。
例えば、原材料費が明確な調理などは、まず食材の仕入れ価格の合算で原価が分かります。
高い食材を入れると価格も高くなるんですよね。
はい。さらにレシピ通りに作るのであれば調理に掛かる時間は一定ですから時給が計算できます。
そこに店舗を構えているのであれば、家賃や光熱費といった諸費用が掛かるので、営業日で日割り計算すると平均したコストが分かります。
商品の単価に利益を上乗せしたものが販売価格となるわけです。
ふむふむ。それは理解できます。
早い! 安い! 美味い! は最高ってことですよね(笑)
それが飲食店成功の秘訣です(笑)
例えばラーメンを1杯作って販売するには、それなりの適正価格があります。
いくら安く出したいからと言っても、原価があるので100円とか200円では販売できません。
できないというか、やろうとする赤字になりますよね。
そうですね、ラーメンは大体みんな似たような価格ですもんね。
日本は自由市場なので、1杯10,000円のラーメンを販売してもいいのですが、10,000円を出すくらいなら他店でラーメンを10杯頼んだ方がマシなので売れにくいでしょう。
これを市場原理といいます。
ライバル店がいると相場が決まってくるんですね。
そうです。
なにもない無人島で販売すれば売れるかもしれませんが、ライバルが存在する市場では競争が働いて(適正)価格と質量は平均化していきます。
うんうん。理解できます。
ところがウェブの制作とか開発は理解しにくい謎価格、謎見積りが多いんですよね。
確かにー。
素人から見ると同じ作業でもやる人によって価格に随分違いがあったりしますね。
何が違うんだろうって思うことがあります……。
謎ですよね。
その謎を理解するには「パッケージ製品」と「オーダーメイド製品」について知ることです。
「オーダーメイド」はなんとなく分かりますが、「パッケージ」ってなんですか?
世の中には大きく分けて「パッケージ製品」と「オーダーメイド製品」という二種類の商品があります。
例えば、スーツで言えば、自分の体型に合わせて作るオーダースーツというものがあります。
「パッケージ製品」と「オーダーメイド製品」の違いは簡単です。
・パッケージ製品は安いが一般的あるいは平均的
・オーダーメイド製品は高いが個人的
という特徴があります。
なるほどー。一発で理解できました!
ラーメンとカップ麺の違いですね。
うん、まぁそうです(笑)
ソフトウェア開発の世界でも「パッケージ製品」と「オーダーメイド製品」があります。
例えば、マイクロソフトのエクセルやワードは「パッケージ製品」です。
開発コストは莫大ですが、購入するためのコストは安くなっています。
なぜ「パッケージ製品」は安くできるんですか?
なぜ安いかというと、ソフトウェアの機能が一般的あるいは平均的だからです。
より多くのユーザーが汎用的に使えて購入する見込みがあるからこそ安くできるわけですね。
開発費に数億円かかっても、数億人のユーザーが使うのであれば割り算をすれば安くなるというわけです。
なるほどー。工場で自動機械生産化したカップ麺みたいですね。
ただし、売れているソフトウェアが素晴らしいかというとそうとも限りません。
例えば日清のカップヌードルは世界で一番売れていますが、世界一美味いとは限りません。
ある人にとっては使いづらいかもしれません。不要な機能が多すぎて混乱するかもしれません。
90%は満足できるけれど、残りの10%が不満ということもあるでしょう。
なぜなんでしょうか?
なぜかというと、そのソフトウェアが多くの人のために設計されているからです。
個人的なニーズではなく最大公約数的な機能と使いやすさを提供しているからです。
それが「パッケージ製品」です。
文字通りパッケージとなっているため、中身は全て一緒で勝手にパッケージを開けてあれこれ入れ替えすることはできません。
分かりやすい説明です! 安いけどパッケージ製品はそれなりってことですね。
右利き用の商品は左利きの人には使えないことに似てますね。
はい。一方で「オーダーメイド製品」はどうかというと、ある目的のために作られます。
誰のために作るのかがハッキリしています。よって、購入するユーザーは少数となります。
ということは、あれこれ要望を訊いて開発しても、買う人が1人であればその1人が開発費を全て賄うことになります。
受注生産とも言います。
受注生産? まぁ贅沢なこと。
開発費に100万円が掛かったとして購入する人が1人であれば、販売価格は100万円というわけです。
もし2人であれば、50万円に下がりますし、10人であればもっと下がって1/10になります。
100人になればたった1万円になります。
買う人が多ければ多いほど安くなるんですね。
分かってきましたね!
ただし、購入者が増えるということは要求も多岐に渡るということですので、「誰かのために作る」という特別感が薄れることになります。
そうすると「オーダーメイド製品」は「パッケージ製品」に近くなっていきます。
ポイントは、この世に存在しないものを作りたい=オーダーメイド製品=開発費を自分が負担をする必要がある、ということです。
この世に存在しないものを作ると高いってことですね。
エンジニアに見積りをお願いするにあたり、「この世に存在しない」というユニーク度が工数に掛かってきます。
例えばWordPressであれば、無料の公式プラグインの組合せでなんとかなるかもしれません。
因みに無料の公式プラグインや公式テーマは「パッケージ製品」の一種です。
普通は安く、変わったものは高い、みたいな?
そうです。
で、エンジニアあるあるなのですが、見積りをお願いされる方の多くは「オーダーメイド製品」と「パッケージ製品」の違いを分かってなかったりします。
つまり、WordPressであれば無料の公式プラグインや公式テーマがたくさんあるのだから、当然安くやってくれるだろう、という予測です。
それは大間違いです。
私もそう思ってました……。
もちろん公式プラグインのみで対応できる案件であれば安くできるのでしょうけれど、その手の作業はユーザー側でもできてしまいます。
よって仕事にすらなりません。
「細かいことができない」ということは、「パッケージ製品」の運命ですので、それを解消するには「オーダーメイド」するしかないのです。
説明を聞いてなんとなく分かってきました。
そしてオーダーメイドがなぜ高くなってしまうのかは、前述した通り「あなたのためだけに作業をする」からです。
「あなたのためだけに作業をする」と言われるとドキッとしちゃいますね。
……(笑)
で、「作業をする」ということは時間を掛ける=残りの人生を消費する、ということですので、対価が掛かります。
もっとも分かりやすい対価は時給です。
私の本当の時給、いくらぐらいなんだろう……。
サラリーマンの方は月給でしょうからあまり時給を意識することはないかもしれません。
例えば月給30万円であれば年収は単純に30万円×12ヶ月=360万円です。
年収360万円だと都会での生活はちょっと厳しいでしょう。婚活市場では敬遠される可能性もあります。
月給20万円だと年収は240万円ですから結婚をして子育ては厳しいかもしれません。
確かに結婚や育児を考えると厳しいんですよねぇ。
月給30万円はざっくり時給に換算すると、
30万円÷約22日÷8h = 時給 約1700円
となります。
月給20万円は時給に換算すると、
20万円÷約22日÷8h = 時給 約1100円
となります。
ですので、仮に予算が10万円であれば、エンジニアが稼働できる日数は
約7.3日 = (10万円÷約1700円) ÷ 8h
となります。
えーー1週間ちょっとなんですか?!
10万円もあればめちゃくちゃ嬉しいし、ずっと暮らしていけそうな気がしますが……。
1週間程度なんですね。
ただし、残念なお知らせがあります。
特別な技能を持った専門職は時給がもっと高いのです。
月給30万円というのはごく普通のサラリーマンの場合です。
!!??
ウェブエンジニアのような特別なスキルを持った人間の場合は時給がもっと高くなります。
住んでいる場所(都会)とか年齢などによっても変わりますが、年収600万円以上というのはざらです。
私の場合は地方に住んでいることもあり、時給はお手頃な2500円と設定しています。
2500円!?
時給2500円だと、予算10万円で稼働できる日数は
5日 = (10万円÷約2500円) ÷ 8h
となります。
つまり、予算10万円で雇える日数はたった5日ということです。
内容にもよりますが、5日程度だと打合せだけで終わってしまいます。
たった5日?
プロを雇うのって思ったよりお金が掛かるんですね。
もっと特殊スキルを持った人ですと時給1万円とかはザラにいますよ。
えぇぇぇっ高っ! こわっ!
でも10万円って大金ですよね?
どうしてこんなにも人件費が掛かるのかというと、単純に日本の経済成長が停滞しているからです。
経済成長が停滞している割に、税金やら生活費は変わらないので人件費が掛かるというわけです。
※年々スマホの価格を高く感じるのは日本の給与水準が低いままだからです
日本の経済さん……。
経済成長が停滞しているということは、自分の給与を開発費に投資しようとした時に「高っ!」と思ってしまうことです。
例えば給与が30万円だったとして、開発費に30万円を掛けるのはもったいないと思ってしまうことです。
あーーーなるほどー。
自分が月給30万円もらってて、他人に30万円を払うことが高いと感じてしまうのは経済成長が停滞しているからなんですね。
目からウロコでした。
経済成長していれば、自分の代わりに1ヶ月働いて成果を出してくれるなら分業できるし「安っ!」と思えます。
なぜなら、同じ作業を自分がやるとしたら数倍は掛かるからです。それが短縮できるなら安いわけです。
あーだから儲かっている会社は人を雇えるんですね。
そういうことです。
ラーメンを作るのに毎回一からダシをとって何時間もかけて作るより、近所のラーメン屋に行った方が早いわけですね。
とはいえ、経済成長が停滞しているのは我々にはどうにもできないことなので開発予算と工期を抑えたいなら、なるべく「パッケージ製品」を使い「オーダーメイド」しないに限ります。