コントラバス買っちったよね

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音声・音楽
あぁ買ってしまった。
これほどまでに「買ってしまった」という表現が似合う楽器も他にはなかなか少ないと思う。
コントラバスというのはそれほどに、「所有する」ことのメリットに対してデメリットが大きすぎる楽器なのだ。

購入の経緯としてはこうだ。
ヤフオクで前々から、「コントラバスが安ければ入札する」を繰り返していた。
そもそもコントラバスなんてそうそう安く手に入るものでもない。
安い値段で入札したところで結局は他の入札者が現れてそこそこの値段になって終わる。
もちろん私もそれを承知の上で、一種のスリルを味わう様な感覚で「どうせ落札できるわけないし…」と思いながら日々入札を繰り返していた。

その日も私はなんとなくヤフオクを眺め、いつもの様にまだ20,000円にも満たない額のコントラバスに対して20,000円の入札を入れた。
当然、今までの経験則から結局はこのコントラバスも100,000円前後まで伸びていくのだ。

そう信じて疑わなかった。

ちょうどライブ前に控室で待機していたころだ。
ポケットに入れたスマホがブルルと短く震えた。

『おめでとうございます!』

今度は私が震えた。

「コントラバスを…落札してしまった…?」

20,000円で落札できたのであれば、楽器の状態にもよるがそこそこ安い値段であろう。
しかし、コントラバスにはそれ以外にも考えなければならないことが山積みだ。
言うなれば突然明日から家に大型犬を飼うような、それなりの準備も必要になってくる様な話だ。

まずは妻への言い訳である。
いきなりこんなバカでかいものを家に持って帰っていいわけがない。
仮に妻がいきなり大型犬を飼って来ようものなら家族会議を開催しなければならない。
さらには、20,000円とは言え基本的に家計は配偶者との共有財産である。
そのお金を勝手に使い込んでデカいものを持ち替えるなんて、完全に負け試合である。

次に運搬である。
運搬は公共交通機関ではほぼ不可能である。
何故ならそもそも我が家が駅から遠からずともかなりの坂道をひたすら上ったところにある。
いくらなんでもコントラバスを担いで登り切るのはそれなりの訓練を積んだレンジャーでなければ無理であろう。
運搬は全て、妻の実家の父の車を借りなければならない。しかし義父はとても良い人ていつも快く貸してくれるし、ガソリン代やETC代もこちらが出そうとしても「いいのいいの」と請求しない。
これに関しては感謝しかないのだが、その良心に漬け込む形になるのがまた心苦しい。

そして次に置き場所。
これは我が家としては私専用に部屋を与えてもらっているので、実はそこまで問題にはならない。
ただ私の作業スペースが狭くなるくらいである。

ライブの本番直前。
私の脳はフル回転した。

上記の問題点のうち、やはり一番の壁は妻だ。
これはもう平謝りしかない。

ライブを終え妻に「謝りたいことがあるんだけど…」と切り出した。
するとまさかの妻からも「実は私も…」と切り出された。
想定外の展開に狼狽しつつも、ひとまず妻の話から聞くことにした。

そもそも聞く前から何やらリビングの様子がおかしい。
部屋の片隅に見慣れない「檻」のようなものが鎮座している。

「前から飼いたいって言ってたデグーマウス買ってきちゃった!」

あ~デグーマウスかわいいよねー!
よかった大型犬じゃなくてー!
あはははー!

コントラバスはいとも容易く受け入れられた。
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