人を変えてしまうもの

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前回の続きです

そう、その日まで知らなかったのですが、私には伯父がいたんです。

実は祖父、私の祖母とは再婚だったみたいで、前妻さんとの間に男の子が一人、いたんです。年齢は母より六歳上。

「なんで、あの先生分かったんだろう・・・」
師匠が口走ったあの「お母様のお兄様」は実在していたのです。

すごい、不思議、と思ったものの、戸籍を読み進めていくうちに、その感動は吹き飛んでいきました。

祖父は祖母と入籍した日の前日に前妻さんと離婚していたのです。
その事実だけで、このとき、相当な事が起きていたことは、若かった私にも容易に想像できました。

思えば祖母も強烈な人でした。

私はこの事実を目の当たりにして、さらなる修羅場を予感しました。

私は郵送されてきたその戸籍を見て、兄に電話し、泣きつきました。
もちろん兄も伯父の存在はそのときまで知らなかったようで、電話先で唸っています。

私は不安を兄にぶつけました。兄は電話先でうんうん、と聞いていてくれますが、兄も戸惑っているのが分かります。

一時間程愚痴っているうちに、少し冷静になり、すると途端に兄に対して申し訳なくなり、私は電話を切りました。切り際、兄が「弁護士探そう」と言ってくれたのを覚えています。

電話を切って、ため息をつくと唐突に

「真珠」

と名前を呼ばれました。

後ろを振り向くと、一緒に住んでいる彼が、ドアを音もなく開け、私の部屋の前に立っていました。

彼は私が兄に愚痴っていた時に帰ってきていたようなのですが、いつもより早い帰宅だったのと、頭に血が上っていたせいか帰宅の物音に全然気が付かなかったのと、なにより、この時私を呼ぶ彼の声が、私が知っている彼とはまるで「別人」だったのとで、私は驚き、身体が硬直してしまいました。

「話は聞いたよ。何で相談してくれなかったの」

彼はとても優しく私に語り掛けてくれました。元々彼は優しい人です。
なのになぜか、ぞわぞわとした恐怖がこのとき私の背中を走ったのです。

「安心して相続しなよ。僕が守るし、管理してあげるから」

彼はしゃがみ込み、私の手を握りしめ、小さい子をあやすように語り掛けてきました。

相続の話を、聞かれてしまっていたようです。

「絶対にやめろ」
「大金は人を変える」

兄の言葉が耳の奥でリフレインします。

人が豹変する様の恐怖を、私はこのとき目の当たりにしたのです。

次回に続く


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