バヌアツのブラックマジック

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幸せを呼ぶ占い師 鈴音すずね と申します

「バヌアツ共和国」をご存じでしょうか。南太平洋に位置する、オセアニアの島国です。

私は今から30年前、医療ボランティアのお手伝いで、この国を訪れました。
当時日本はバブル崩壊前夜で、JNPが世界第1位でした。対してバヌアツはフランスとイギリスから独立して間もなく、JNPは世界最下位で、経済、医療、教育など様々なことを支援に頼っている状態でした。

私は就職して四年目で、仕事は覚えてきたものの、都会の華やかな生活や拝金主義的な当時の風潮に疑問を感じていました。
そこへボランティアの話しを耳にして「絶対いきたい!」と手を挙げました。
私は医療従事者ではありませんが、医療従事者の手伝いをするボランティアとして、医療チームに参加できることになったのです。期間は2週間で、会社の出張という扱いの願ってもない条件でした。

マラリアに罹患する恐れがあるので、予防注射を打っていくこと、トイレは外の掘っ立て小屋でしてお尻は葉っぱで拭くこと、15センチくらいのゴキブリが出ることなど注意事項を聞いても、田舎育ちの私は怯みませんでした。
現地の人が「マジック」と呼ぶ、祟りのようなものがある、とも聞きましたが、まったく気になりませんでした。

その時、バヌアツに派遣されたのは、2名のお医者さん、4名の看護師さんと3名のボランティアスタッフでした。私は最年少で何の役に立てるのか、微妙な立ち位置でした。

バヌアツの言葉は、ひどく訛った英語、フランス語、ビスラマ語が使われていますが、他にも余所者には理解できない、部族だけの言語があるそうです。お人柄は総じてシャイで、のんびりしていました。私たちは笑顔で当たりよく迎えていただきました。

ところが現地の生活が一週間経った頃から、洗濯物がなくなっていることに気が付きました。
はじめはタオルが何枚か減っていました。次はTシャツが、洗って乾かしていたビーチサンダルが、キッチンに置いてあった懐中電灯が、なくなります。私も含めチームのみんなは、ゲストハウスと呼ばれる家の中のものまでなくなるので、気持ちが悪いねと言い合いました。

活動期間は残すところ数日ですし、警察に言うほどの事でもありません。事を荒立てず解決したいと考えました。
私は紙に油性ペンで般若のような鬼のような顔を描きました。5枚描いて、玄関、裏口と窓にセロハンテープで張り付けました。木の棒に御幣を模した房をつけて、家の前に人が通りかかるたびにその御幣を左右に振り、日本語で怪しげな呪文を唱えました。
人に聞かれると「この家にあるものは日本の神が守っている。勝手に持って行った者には罰が当たる」というようなことを片言の英語で何人かに伝えました。しかし子供が遠くから指差して笑うので、あまり効果は無かったかなと思っていました。

驚いたことに、その日の夕方から続々と物が戻ってきました。タオルや服、短パン、なくなっていたことに気づかなかったボールペンや手鏡、お菓子もありました。白いタオルには、子供のものらしい、小さな手形が付いていました。
ゲストハウスを立つ日の朝、家の前で5枚の絵を焚き、「これでもう罰は当たりません」と言って、置いていけるものは現地の方に差し上げることにしました。

私は上手く問題を解決したと、得意になっていました。

時は流れて、このように占いのお仕事をするようになった現在、あの頃の私は驕っていたと反省しています。バヌアツの人たちが超自然的なことを信じておられることを利用して、日本の神まで捏造して、それこそ罰当たりなことをしたものだと、𠮟りつけたいくらいです。
先進国から未開の国に、ボランティアに行ってやったというような見下した気持ちはなかったでしょうか。その先進国に疲れ果てて、是非にと頼んで参加したボランティアで、救われたのは私の方だったのです。



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