死亡。ゼロ

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コラム
「くうきちゃんは器用やねぇ。」
「何が?」
「其の其れが(笑)」
「服についたヌスビトハギがうまく取れるか取れんかっていう話?」
「まあ、それもそうやけど。」
「根気と我慢強さなら負けないよ。」
「最近やっと老眼が来たけど、元が良いもんね。」
「精子の話はしないでね。」
「はいはい。でもね、確かにお母さんもお父さんは許せないけど、遺伝子だけはあの人で良かったって思ってる。」
「それ、許してるでしょ。」
「だってT大学もK大学もセンター試験でB判定やったやろ?」
「ま~た、その話。」
「お金さえあれば京都でも東京でも本試験を受けるように言ったのに。」
「だから、大学は進む気は無かったんだって。」
「受かっただけでも箔がつくわよ。」
「ん。」テルミにパーカーを放り投げる。
ヌスビトハギはすべてゴミ箱の中で、無印良品のパーカーに白が戻っている。
「ま~、キレイに取れるもんねえ。お洗濯するわね。」「うん。」

何気無い、寒くも暑くも無い日のやり取り。
明日、母が死ぬのを知っていたら何をしただろう。
嘆き悲しむ以外に何ができただろう。
結局のところ、悲しい結末が、「死」を包含した怪物の口の中のように沼色の事態が起きるのを泣きながら見ているしかできなかったのだ。
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