死亡。2

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コラム
AEDは「電流を流して復活する可能性アリ」と判断しないと電気が流れない。
一回目、反応無。
二回目、反応無。
「反応ありません。」
隊員の無情な宣告が胸に刺さる。
「じゃ、死亡ってことで、後はこっちがやります。」と、制服姿の警官がまた恐ろしいセリフを放つ。
彼らの世界はこういう日常で溢れているんだな。人ひとりくらい何とも思わないんだな、と、現実をまざまざと突き付けられる。

「お嬢さん、ちょっと。」警官が呼ぶので誘導に従って家から出る。
「これからいくらか質問するけど、大丈夫かな?」「はあ…。」「お母さんは既往症とかはあるかな?」「はい。」「じゃあ、分かる範囲で良いから教えてくれる?「そうですね…睡眠時無呼吸症候群とか、喘息とか、うつ病とか、排尿障害とか運動障害とかパーキンソン症候群とか、アレルギー性鼻炎とか、あと、今年に入ってから胆嚢に石が詰まって胆嚢ごと摘出しました。」「まだある?」「さあ…今のところは無いですけど、また何か違う病気にかかるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしてるんですけど。」「そうなんだ~。」「はい。」「じゃあ、え~っと、まず、お母様のお名前教えてくれるかな?「田中テルミです。」「漢字は田んぼの中の?」「えっと、ファーストネームが照らすの『照』に美しいの『美』です。」「ご協力ありがとう。」「いえ。」「じゃあ、次にあなたはテルミさんの娘さんで良いのかな?」「はい。」「他にご兄弟は?」「三歳年上の姉がふたりいます。」「???」「あ、姉たちは双子なので。」「ああ、そういうことね。で、くうきさんは三女さん?」「はい。」「お姉様たちは何処にいらっしゃるの?」「長女は茨城、次女は一宮です。」「最近様子が変だったとかは?」「手足が麻痺して動かしにくいというので治してくれるお医者様を探していました。」「ほう」「それでT病院で今度検査をしてもらうはずでした。」「車のトランクに積んであるのはお母様の?」「はい、これでみんなに会えるって喜んでいたんですけどね…。」「みんなというのは?」「あ、うち、宗教で聖書の研究をしてて、週二回、勉強会みたいなのがあるんです。」「へ~。それって楽しいの?」「はい、楽しいです。車椅子も殆どその為にレンタルしたんですけど、無駄になっちゃいましたね。」

…と、「栗きんとん生食パン」をあげると約束していた会衆の姉妹がやってくる。「くうきちゃん、どうしたの?この騒ぎは…。」「テルミさんが亡くなっったみたいで…。」「ええ?くうきちゃん長時間立ってられないんじゃなかったっけ?」「だから其処を我慢して立ってるんですけどね?」「ええ~、そうなの~。ちょっと待ってね、調整者に連絡してくるから!」そこまでは…と、思ったが人ひとり死んでるんだから騒ぎになってもしかたないか。と、思い直し、誰が来るかは判らないが姉妹が呼んだ仲間がゾロゾロやって来て、調整者の義理のお父さんもいらして、私の司会者もいらして、やっぱり「栗きんとん生食パン」をもらいに来たら( ゚д゚)アラヤダ!!!というわけで、結構な騒ぎになり、「なかなか死因が特定できない」とかで、待たされる。
「くうきさんもあんまり無理しちゃ駄目ですよ。」と調整者の兄弟がホテルを予約してくれ、「しばらく大変だろうからこれ使って。」と、調整者のお父様が金銭的な援助をくださり、後は、解剖して事件性が有るか無いかの診断の結論待ち、長期戦になるので「今日は本当に結果が出ないかもしれませんので、「ここでこれだけ待って事件性無しってなったら損害賠償モノだよな。」と、誰かが言う。

で、此処でやっと双子の片割れ(次女)登場。「お母さんが死んだって本当なの?」って、いくら趣味の悪い私でもそれくらいの分別はつきますわ。というワケであとは解剖医が「事件性無し」という一言を放ってくれれば、この痛む足からも解放される…と、希望を持って結果待ちで着の身着のまま家から追い出されてかなり馬鹿っぽい格好をしていたので次女が吹く。「そんなに強引に出されたの?なんかアンタのその格好見て初めて現実なんだ~って分かるよね(笑)」と、いい気なモノ。


続く。

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