「生命倫理と死生学の現在⑭」 ~人は何のために生まれ、どこに向かっていくのか~

記事
学び
(5)「臨死(ニア・デス)体験」の物語るもの
②「臨死体験」「近似死体験」の「共通性」は「普遍性」を意味する

臨死体験の研究史~欧米では地質学者のアルベルト・ハイムが登山時の事故で自身が臨死体験(Near Death Experience)をしたことをきっかけに研究を行い、1892年に発表したことに始まります。1975年に医師のエリザベス・キューブラー・ロスと、医師で心理学者のレイモンド・ムーディが相次いで著書を出版したことで再び注目されるようになりました。 キューブラー・ロスの『死ぬ瞬間』は約200人の臨死患者に聞き取りし、まとめたもので、事例に関する統計や科学的アプローチが行われるようになりました。1977年にはジョン・オーデットを会長に臨死現象研究会が発足し、これは後に国際臨死体験研究会(IANDS)に発展し、国際会議が開かれています。1982年に行われたギャラップ調査では、当時のアメリカの臨死体験者の総数は数百万人に及んでいたと推測されています。

臨死体験のパターン~臨死体験には個人差がありますが、そこに以下のような共通パターンがあることが指摘されています。特に、比較的に文化圏の影響が少ないと考えられる子どもの臨死体験では、「体外離脱」「トンネル」「光」の3つの要素が見られ、大人よりもシンプルなものであると報告した研究もあります。
1、死の宣告が聞こえる
 心臓の停止を医師が宣告したことが聞こえる。この段階では既に、病室を正確に描写できるなど意識が覚醒していることが多い。
2、心の安らぎと静けさ
 言いようのない心の安堵感がする。
3、耳障りな音
 ブーンというような音がする。
4、暗いトンネル
 トンネルのような筒状の中を通る。
5、物理的肉体を離れる
 体外離脱をする。
6、他者との出会い
 死んだ親族やその他の人物に出会う。
7、光の生命
 光の生命に出会う。神や自然光など。
8、省察
 自分の過去の人生が走馬灯のように見える。人生回顧(ライフレビュー)の体験。
9、境界あるいは限界
 死後の世界との境目を見る。
10、蘇生
 生き返る。

●『航路』(コニー・ウィリス、ソニー・マガジンズ)
 臨死体験(NDE)をした人の多くは、トンネルや光、聖なる存在など共通したビジョンを見たと言います。本書は生と死の間にある不可解な領域を通し、人間存在そのものを考えさせる医学ミステリーです。NDEを科学的に解明しようと、総合病院でNDE体験者の聞き取り調査を行なっている認知心理学者ジョアンナは、神経内科医リチャードから、「神経刺激薬によって擬似NDEを人為的に引き起こし、NDE中の脳の状態を研究しよう」ともちかけられます。しかし、被験者の不足により、共同研究は暗礁に乗り上げ、ついにジョアンナは自ら死の向こう側へ赴くことを決意します。彼女がNDEで到達したのは、来たことがないのに知っている場所であり、ここに科学的アプローチによってNDEがひとつの意味を結ぶこととなるのです。

「死後三日して人間は「霊たちの世界」に入る。ここは天界と地獄との中間領域に位置し、上層ないし内部から来る「善」と、下層ないし外部から来る「悪」との霊的な均衡によって存立する世界である。ここは天界か地獄へ往く、いわば通過点だが、ここに滞在せずに天界か地獄に直行する者もいる。
 眠りからさめるように意識を回復した霊は、案内役の霊たちの手ほどきを受けて新世界へ第一歩を踏み出す。新参の霊は最初、無垢(むく)・敬虔・平安といった赤ん坊のような純粋な意識に留め置かれるが、やがて生前と酷似した環境が自分の周囲に展開する。誰にも強制されることなく霊は自由に活動し、自分の好みに合う他の霊や霊の社会と交流する。
 しかし、「霊たちの世界」はそれなりの秩序によって成り立つ共同体であるから、個人として限度を超えた振舞いができるわけではない。ここに一つ重大な問題が生じる。
 先述したように、霊界は心の内部が直接、外部に流れ出て、霊の周囲に独自の環境を産出する世界である。これは、霊界では心の意図や思いを隠せないことを意味する。この世では心で悪意を抱いても言葉や行動でこれを隠して善意を装うことができるが、霊界では、思考と言葉、また意図と行動は必ず一致することになる。
 「霊たちの世界」とは、このような一致の法則が徐々に自覚されるようになる世界であり、この過程で新参の霊は少しずつ自分の本性を顕(あらわ)にしてゆく。
 スウェーデンボルグは、人間の真の性格を決定づけるのは、各人の「優勢となった愛」(amor regnans)だと考える。愛とは、意欲・意志・情愛・感情・情動などの総称であり、知性的な機能よりも根源的なものである。
 彼によれば、愛は四つに大別される。「神への愛」「隣人愛」「世俗愛」「自己愛」がそれである。神を信じて神の戒めを守り、隣人愛を実践することが、神への愛である。広く社会や国家、さらには人類へ向けられた愛が隣人愛であり、富・名誉・地位などへの執着が世俗愛、いわゆるエゴイズムが自己愛である。」(高橋和夫『スウェーデンボルグの思想』)
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