「近代の論理~社会科学のエッセンス~⑩」 (4)近代ヨーロッパが世界の「覇者」となった秘密

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①「市民革命」と「産業革命」が「近代社会」を形成した

「民主主義」は「過程」(プロセス)であって、「完成された状態」ではない~「民主化運動」「民主化革命」といった言葉に代表されるように、民主主義はそこに到達すれば理想的な社会が実現するといった到達目標のように思われがちですが、これは誤解です。民主主義は不断の努力によって維持される「永遠のプロセス」なのです。

「民主主義をめざしての日々の努力の中に、はじめて民主主義は見いだされる。」(丸山眞男)

「イギリスの長い民主主義史の中で、最も立派な首相は誰かというアンケートをイギリス人に行なえば、おそらく第1位に当選するのはディズレーリでしょう。その次に来るのが、サッチャーかチャーチルかは意見が分かれるでしょうが、およそまともな教養人ならディズレーリをトップにすることは、まず間違いない。
 では、いったいディズレーリのどこが偉かったのか。…
 それは彼こそが、イギリス議会政治の基本ルールを確立した人物だからです。…
 ディズレーリの(穀物法をめぐる)大演説は、議会政治に新たなルールを追加しました。
 まず第1は「選挙公約はかならず守るべし」ということです。
 もし、選挙公約を変えるのであれば、まず代議士全員が辞職し、ふたたび選挙に討って出て、新しい公約を選挙民に問わなければならない。それをやるだけの度胸がなければ、いさぎよく下野すべきである。君主の信任があっても、選挙民を裏切ったのでは首相になれないというわけです。
 第2に「他人の公約を盗むな」ということ。これはあらためて説明するまでもありません。
 ディズレーリが作った第3のルールは「議会における論争によって、すべてを決する」というものです。
 ディズレーリは、あくまでも議会での論戦でピール(首相)を圧倒したから勝った。ただただ言論の力のみで、首相を論破した。その結果、ピールを支持する声はなくなり、多数派のピール内閣も倒れた。ディズレーリは多数派工作をして勝ったのではないのです。
 それまでのイギリスの議会政治では「しょせん政治は数だ。数はカネで集められる」という考えがまかり通っていました。イギリス最初の首相と言われるウォルポールはその代表格で、あり余る資金力にものを言わせて、多数派工作をしたことで有名です。
 しかし、ディズレーリの時代となると「数は弁論の力で獲得するものだ」という思想に変わっていった。それを象徴するのが、このディズレーリ―ピール論争なのです。
 英国憲法史においては「ヴィクトリア時代、英国憲法が完成した」と言われます。
 その理由は他でもありません。
 ディズレーリによって、この3つのルールが確立したからです。だからこそ、ディズレーリは最高の政治家と今でも尊敬されているわけです。」(小室直樹『日本人のための憲法原論』)

「イギリス革命」「アメリカ独立革命」「フランス革命」に見られる「自由原理」と「平等原理」~王権神授説によって理論的に支えられた絶対王政を打ち倒すべく、社会契約説による市民革命により「近代民主主義」が確立・推進され、「近代市民社会」が実現しました。
 ちなみにピューリタン革命・名誉革命からなるイギリス革命とアメリカ独立革命は「信仰の自由」を原点に持つ「自由原理」に基づく市民革命であり、「自由民主主義」を生み出しました。
 これに対して、フランス革命は「平等原理」に基づく市民革命で、その直系とも言うべきロシア革命では、「平等原理」をさらに徹底させて共産主義を生み出しました。共産主義も「民主主義」を主張し、共産党一党独裁を「民主集中制」という民主主義であると位置づけますが、これは「プロレタリアート民主主義」と呼ばれるものです。そこでは資本家や地主などの資本主義者達の「人権」は保障されません。
 キリスト教の本来の思想からすれば、これらは「兄弟主義的民主主義」「家庭的民主主義」として統合されるべきものでしょう。自由意志を持つ人間は親なる神の前では平等ですが、兄弟姉妹の中にも秩序と格位はあるわけです。個人の自由も尊重されると同時に、無制限に絶対視されるわけでもないのです。同様に性別、人種、民族、宗教、文化の違いなども個性として尊重されると同時に、無制限に絶対視されるわけでもないのです。これを実現させるのが、フランス革命の3つのスローガン「自由・平等・博愛」のうち、取り残された感のある3つ目の「博愛原理」に基づく市民革命であると言えるかもしれません。

「英語のレボリューションは漢字に直すと「革命」ですが、中国史における「易姓革命」(えきせいかくめい)では王朝交替が起きても変わるのは、文字どおり、皇帝の姓だけです。社会の体制そのものは、本質的には変わらない。それは異民族が皇帝になった元や清のケースにおいても、例外ではありません。皇帝を殺した人が、次の皇帝になる。その繰り返しが中国史です。
 近代ヨーロッパにおけるレボリューションは違います。フランス革命でも、ロシア革命でも、レボリューションとは旧体制の否定を意味します。同じ「革命」でも、中国とヨーロッパではまったく中身が異なるというわけです。
 では、中世の伝統主義的社会をひっくり返したヨーロッパの人たちは革命の後に、どんんな社会を次に作ろうとしたのか。彼らは、どんなビジョンをもって革命に臨んだのか。
 そこで、大きな影響を与えたのが、ジョン・ロックの社会契約説でした。中世を終わらせたのが予定説だとすれば、ロックの思想はヨーロッパ近代の基礎を作ったものと言えるでしょう。この2つの思想が揃って初めて、近代民主主義は生まれたのです。」(小室直樹『日本人のための憲法原論』)

「産業革命」~科学技術の発達により、工業生産力が飛躍的に増大し、「近代資本主義」を推進させていきます。ここで注意しなければならないことは、「産業革命」が資本主義を生んだのではなく、資本主義が産業革命を生んだということです。
 問屋制家内工業→工場制手工業→工場制機械工業(マニュファクチュア)という変遷の中で、目的合理性に立って利潤追求を進めていく資本主義は「分業と協働」による生産様式を生み出し、さらに機械化によって生産効率を上げていきます。こうした工業化の進展が従来の農業中心主義(重農主義)や商業中心主義(重商主義)に見られないもので、「産業革命」の核心となるものです。
 かくして産業革命によって生産力が格段に向上すると、人類がそれ以前に産み出した以上の富を産み出すこととなり、より多くの人口も養えるようになって、若干のタイムラグをもって人口が急増していきます。かくして原料供給地の確保に加えて、国内市場で消化しきれないため、海外市場の拡大を求めて「帝国主義」が成立し、アジア・アフリカ地域などイスラーム圏や東洋を広く侵食していくことになるのです。

第1次産業革命~18世紀末、人間の労働力に変わり、水蒸気を動力源とした機械を使った製造が導入(機械化)されました。工場制という新しいシステムにより、社会が急速に工業化したのです。

第2次産業革命~20世紀初頭、工場内に電気という動力源が導入され、作業の分業とベルトコンベアの流れ作業のシステムによって、大量生産が可能になりました。

第3次産業革命~1970年代、工場内に産業用ロボットや工作機械が人間に代わって導入され、ICT(Information and Communication Technology、情報通信技術)を通じて急激な情報処理の発展が行われ、精巧な自動化が可能になりました。

第4次産業革命~IoT(Internet of Things、モノのインターネット)・AI(人工知能)・ビックデータなどを活用することにより、あらゆる産業分野で「デジタル化」「コンピューター化」「ネットワーク化」「オートメーション化」が進行し、Society 5.0の実現に直結します。

Society 1.0~狩猟社会。人が狩りをして生活する社会。

Society 2.0~農耕社会。田畑を耕すなど、食糧を育てて収穫することで安定した生活をする社会。

Society 3.0~工業社会。機械によって規格品を大量生産するなど、工業化が進んだ社会。

Society 4.0~情報社会。インターネットの普及により、情報の伝達や処理が経済の中心となった社会。

Society 5.0~超スマート社会。2016年に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」の中で、日本が目指すべき未来社会として提唱されました。IoT、ロボット、AI、ビッグデータなどの技術を駆使して、仮想空間と現実社会を高度に融合したシステムで発展する社会。

スマートシティ~街中に設置したセンサーやカメラなどからデータを収集し、AIによる分析を経て、社会インフラや施設のマネジメントの最適化を図ることで、都市が抱える諸問題を解決。さらに新たな価値を生みだしていく「持続可能な都市」のことです。

「近代資本主義の発展は、資本主義に徹底的に反対する経済思想が公然と支配してきたような、そういう地域でなければありえなかった。・・・
 通常の考え方では、まず商業が発達し、そして、その商業やその担い手である商人たちを内面から動かしている営利精神、営利原理といったものが社会の到るところへしだいに浸透していくと、その結果として近代の資本主義が生まれてくることになるのだ、とされている。しかし、歴史上の事実はけっしてそうはなっていない。」(大塚久雄)

参考文献:
『日本人のための憲法原論』(小室直樹、集英社インターナショナル)
『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(マックス・ヴェーバー、岩波文庫)
『社会科学における人間』(大塚久雄、岩波新書)
『社会科学の方法』(大塚久雄、岩波新書)
『恋愛と贅沢と資本主義』(ヴェルナー・ゾンバルト、講談社学術文庫)
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