教養としての心理学②:欲求と適応

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一次的欲求:生命を維持するために必要な呼吸・睡眠・食欲などの欲求。

二次的欲求:人格的な成長を促す精神面の欲求。

欲求不満(フラストレーション、frustration):欲求充足の行動が阻止されて、緊張が解消されない状態。

葛藤(コンフリクト、conflict):両立不可能な欲求が衝突し、緊張が高まること。

愛憎併存(アンビヴァレンス、ambivalence):同じ対象に対して、同時に相反する感情を抱くこと。

合理的解決:欲求不満に対し、努力によって原因となっている問題を解決すること。

近道(攻撃)反応(short circuit reaction):欲求不満に対し、八つ当たりや暴力など衝動的な行動を取ること。

防衛機制(defense mechanism):葛藤や不安などから、欲求不満に対して無意識のうちに自我の安定を図ろうとする心の働き。オーストリアの精神分析学の創始者フロイトが初めて明らかにしました。

失敗反応:欲求を環境に合わせて満たすことができず、欲求不満の解消に失敗すること(神経症、自殺など)。

フロイト:オーストリアのユダヤ人精神科医。神経病理学者を経て精神科医となり、神経症研究、自由連想法、夢の分析、無意識研究を行いました。精神分析学の創始者として知られています。人間の心をエス(イド)、自我、超自我の三層に分けて考え、個人における幼児体験が強力な複合体(コンプレックス)として無意識の底に潜み、人間行動を規定すると考えました。フロイトはこの個人的無意識を民族単位の精神分析にも応用し、歴史法則を決定する無意識はきわめて根深くて、ほとんど不変であり、表面に生起する諸事件とは関わりなく、容易に変化しないものであるとする社会理論を展開しており(『人間モーセとユダヤ教』)、アメリカの代表的社会学者であるタルコット・パーソンズは特定の行動様式とそれを背後で支える心的態度である「エートス」論を中心に宗教社会学を展開したドイツの社会学者ヴェーバー、慣習など個人の外に存在し、個人に対して強制力を持つ制度を「社会的事実」(フェ・ソシアール)として捉え、そこから「社会的連帯」(ソリダリテ)の喪失による社会的無規範・無秩序状態である「アノミー」論を展開したフランスの社会学者デュルケーム、ベンサムの「最大多数の最大幸福」を科学的に捉え直した「パレート最適」で知られるイタリアの社会学者パレートと共にフロイトを四大社会学者の1人に挙げるほどでした。実際、現代思想においてフロイト思想の影響を免れているものは無いと言われるほど、多大な影響を及ぼしています。

精神分析:フロイトが創始。自由連想法や夢の分析により、無意識のうちに抑圧された葛藤や欲望など、人間の行動を深層心理から解明し、神経症の治療に活かそうとするものです。

エス:無意識の部分で、性欲動(リビドー)を中心とする本能的な欲求の源泉で、常に欲求を満たし、快感を得ようとします。

超自我:親や社会の教育による良心・社会的規範で、道徳が内面化したものです。エスの欲望を抑制・禁止する機能を持ちます

自我:相反するエスと超自我のバランスを取りながら、現実の環境に適応しようとします。この3つの調和が取れず、人格の統合性が危機に近づくと、無意識のうちにこの状態から逃れようと防衛機制を働かせます。

アドラー:オーストリア出身のユダヤ人精神科医、心理学者、社会理論家。「劣等感」に注目し、ジークムント・フロイトおよびカール・グスタフ・ユングと並んで現代のパーソナリティ理論や心理療法を確立し、個人とは分割できない存在であるとする個人心理学を創始しました。アドラーは劣等感と劣等コンプレックスを区別し、劣等感は優越性の追求につながるエネルギー源であるのに対し、劣等コンプレックスは劣等感を行動で解消することを諦め、歪んだ心になることと指摘したのです。

ソンディ:ハンガリー出身のユダヤ人精神科医。フロイトの個人的無意識、ユングの集合的無意識の間を埋めるものとして家族的無意識に注目し、衝動心理学・運命心理学・運命分析学を創始しました。無意識の欲求や衝動を明らかにするためのソンディ・テストでも知られています。ソンディは人間がどのような振る舞いをしても回避することの出来ない決定論的な運命を強制運命と呼び、人間が決定論に抗う自由意志によって克服することが可能な可変的な運命を自由運命と呼んでいます。ソンディは自らの体験を元に、ドストエフスキーなどの遺伝的家系研究をふまえ、個人の無意識の中に抑圧されている祖先の欲求が、恋愛、友情、職業、疾病、および死亡における無意識的選択行動によって運命を決定していることを示していますが、これはまさに「親の因果が子に報い」的な仏教的因果応報論を裏付けるような心理学だと言えるでしょう。

マズロー:アメリカの心理学者。欲求階層説を唱え、人間性心理学を創始しました。

欲求階層説:人間は5段階の欲求を持ち、より高次の欲求を満たそうとします。

欲求の階層構造:生理的欲求→身体の安全の欲求→所属と愛情の欲求→他者による承認と自尊の欲求→自己実現の欲求(→自己超越欲求)。例えば、マルクスの人間観は19世紀の唯物論的心理学に基づき、「生理的欲求」と「安全の欲求」を中心としているため、人間の幸福の実現には食物と安全が重要だとし、より高次の欲求には否定的でした。フロイトは無意識の研究を行い、性の問題を通じてより上位の欲求である「所属と愛の欲求」の研究をしたと言えますが、性の観点から全てを理解しようとしたために、人間理解を狭くしてしまいました。これに比べ、フロイトの弟子の1人であるアドラーは、性格を対人関係からとらえ、性格は劣等感を軸とし、その補償としての優越欲と社会的共同感情の相互関係から社会生活の中で形成されると見たので、人からの尊敬・評価を求める「承認の欲求」を中心に研究したと言えます。そして、「自己実現」という用語を初めて使用したのは、人間の精神を部分や要素の集合ではなく全体性や構造(ゲシュタルト。幾何学図形、文字、顔など全体性を持ったまとまりのある構造から全体性が失われてしまい、個々の構成部分にバラバラに切り離して認識し直されてしまう現象をゲシュタルト崩壊と言います)に重点を置いて捉えるゲシュタルト心理学者のゴルトシュタインで、「全ての人間の行動を取り仕切る決定的要因」は自己実現だとしたのです。この概念に注目し、具体的に研究を進めたのがマズローだったのです。ちなみにユングは自我と無意識の全体を統合して「心の全体性」を実現する個性化(individuation)を自己実現(self-realization)であるとしました。

人間性心理学:第一の心理学精神分析学(フロイト)、第二の心理学行動主義心理学(ワトソン)に続く第三の心理学(マズロー)とされます。マズローは、リンカーン、アインシュタイン、シュヴァイツァーなどの偉人の研究をすると共に、健康で豊かな精神生活を送っている多数の人々に会って研究を続けた結果、精神的に健康な人は例外なく自分の職業や義務に打ち込んでおり、その中で創造の喜びや他人に奉仕する喜びを感じていることや、自由で客観的なものの見方をし、他人に対しては寛容でユーモアがある、という共通点発見しました。マズローはこうした画期的な研究を元に健康と成長のための理論を目指したので、精神分析学が異常を正常に戻す(マイナスをゼロにする)心理学であるとしたら、人間性心理学はゼロから限りなく100を目指す心理学であると言えます。マズローはさらに自己実現欲求が満たされた後に生じる自己超越欲求に基づく第四の心理学トランスパーソナル心理学の端緒ともなりました。
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