「ねえ、月光に当たると、気が狂うって、言うじゃない?」
まるで友人相手に世間話をするかのように、気軽な口調で、その娘は投げかける。
言葉を放られた相手は、しかし、どう考えても、人間と「友人」になぞなりそうにないシロモノである。
青黒い肌の、奇怪な魔神である。
月白の冷たく燃える炎のような紋様が、その全身を彩っている。
巨躯だ。
2m以上あるであろう。
精悍なその体躯の周囲に、百の頭を持つ蛇のようにうねるのは、背中から伸びている、いわば「骨でできた触手」だ。
威嚇するようにその触手の束が開くと、まさに奇怪な月下美人の花のような幻妖さである。
碧くぞくりとする鬼火が、「花弁」にあたる触手にまといつく。