【会社を休む時もらえるお金】について、体系的に解説いたします。
公的保険である健康保険から支給される「傷病手当金」を説明していきます。
『?質問?』夫が、精神的に落ち込みやすく会社に行けなくなりました。休む間、収入がなくなってしまいます。医者からも「少し会社を休ませたらどうか。」と言われました。どうしたらよいのでしょうか?
こういった質問は大変多く、実際に適応障害等の精神疾患で会社をお休みになり「傷病手当金」の給付を受けられる方は増えています。
病気やけがで、誰でも働けなくなるリスクというのは、誰にでもありますよね。
こんな時に、会社員が受け取れる給付金のひとつが「傷病手当金」です。
では、どんな時に受け取れるのか?
6つのポイントで解説していきます。
1、業務外の病気やけがであること
仕事に関係する病気やけがの場合は、労災保険からの給付がありますので、健康保険の「傷病手当金」を受けることはできません。
先に「傷病手当金」を受けていて、後から労災の認定がされたときは、労災からの休業補償を受けられますので、支給を受けていた「傷病手当金」は返還する必要があります。
労災保険からの休業補償のほうが、支給日額は高く設定されるケースがほとんどですので、「傷病手当金」を返還することになっても心配はいらないと思います。
2、仕事につくことができずに、給与が出ない
「仕事につくことができない」かどうかを、どうやって証明するのかは、受診している医師からの証明をとってもらう必要があります。
ちなみに、「傷病手当金」の医師の証明をとるときの費用は、健康保険が適用されるので、3割負担で300円となります。
他に、診断書をもらったり、「出産手当金」の出産の医師の証明など、健康保険が効かないものもあるので、数千円かかる場合もあります。
「仕事につくことができない」というのは、必ずしも入院していなければいけないということはありません。
病気やけがで休む場合に給付を受けられますが、美容整形など、そもそも健康保険が効かないもので、会社を休む場合は、支給の対象にはならないので、注意が必要です。
3、いつから支給されるのか?
ちょっとしたお休みでは支給されません。連続して3日間お休みして4日目以降で休んだ日が対象になります。
この連続した3日間のことを『待期』といいます。
審査をする際は、3日間の待期期間完成、というのを確認して、4日目以降の申請日数を計算していきます。
この待期期間は、給与が出たかどうかは関係ないので、土日や有給なども待期に含めることができます。
金曜日に体調が悪く会社をお休みして、次の週の金曜日まで休んだ場合は、金土日を待期として、月曜から金曜までの5日間を支給日数として計算することになります。
4、金額は給与の2/3(3分の2)
支給される金額は一番気になるところかと思います。
支給される日の前の1年の平均の標準報酬月額を、30で割って1日の金額を出します。それに、2/3を掛けて一日あたりの支給日額をだします。
標準報酬月額というのは、毎年4月、5月、6月の交通費などを含めた給与の平均から決められる給与の等級です。
自分の標準報酬月額は、「ねんきん定期便」があれば確認できます。
「ねんきん定期便」の『最近月別状況』というところに、標準報酬月額が千円単位で書いてあります。
例えば「300千円」と書いてあったら、標準報酬月額は30万円ということになります。
「ねんきん定期便」というのは、毎年誕生月に送られてくるので、必ずしもお休みする直前の金額まではわからないかもしれませんが、おおよその参考にはなると思います。
会社によっては、毎月の給与明細に標準報酬月額が記載されていることもあります。
いざ、お休みするとなってから確認するのは気が回らないことも多いかと思いますので、元気なときから、確認しておくのがいいですよね。
例えば、標準報酬月額の平均が240千円だった場合、
240,000円 ÷ 30 = 8,000円 (30で割って1日の額)
8,000円 × 2/3 = 5,333円(1日の額の3分の2)
5,333円が1日あたりの支給日額となります。
これで、23日間くらい休んで申請した場合は、3日間を待期として、
5,333円 × 20日間 = 106,660円(支給される金額)
となります。
この傷病手当金は、非課税なので課税の対象にはなりません。
税金の対象にはならないからといって、この傷病手当金がまるまる受け取れるかというとそうではないんですね。
似たような手当に「出産手当金」があり、産休・育休期間は社会保険料が免除されています。
ただし、傷病手当金というのは、休職期間は社会保険料が免除されないんですね。
もともとの給与の等級で社会保険料が決まっていますので、原則お休み前と同じ社会保険料を払う必要があります。
傷病手当金と勝手に相殺されたりはしないので、ご自身が負担する社会保険料をどうやって払うかを会社と相談することになります。
先程の標準報酬月額が240,000円だった場合の例でみてみると、
もともと社会保険料が約36,000円、所得税が約5,000円、住民税が約10,000円、引かれていたとします。
1ヶ月間お休みして、給与はなくなりました。その代わり傷病手当金が160,000円支給される場合、
所得税はかからなくなります。
社会保険料がそのまま、住民税は前の年の収入に対して払うものなので、こちらもそのまま払う必要があります。
そうなると手元に残るのは、だいたい、114,000円くらいとなります。
もちろん、ないよりはありがたいのですが、収入としては大幅減にはなります。
5、申請から入金まで
この傷病手当金がどのくらいの期間で入金されてくるのか?
傷病手当金を受給するのは、まず給与が出ていない証明が必要です。証明は未来の証明にならないように注意が必要です。
例えば、5月1日から5月31日まで休んで、申請したい場合、
6月1日になってから、会社の事務担当者は、『5月1日から5月31日まで給与の支給はありませんでした。』と証明できるわけですね。
そのタイミングで、申請の準備がスタートしていきます。
医師の証明についても同様です。
『この患者様は、5月1日から5月31日まで労務不能でした。』と証明できるのは、現実に6月1日を迎えてから証明できるわけです。
これらの証明を添えて、保険者へ申請書を郵送で送付するという流れになります。
事業主証明と医師の証明は、傷病手当金の申請書の3ページ目と4ページ目になっていますので、そちらに証明を書いていただきます。
申請書の1ページ目は、ご本人様の振込先口座、2ページ目は、その他確認事項のご記入をしていただきます。
1ページから4ページ目までそろったら、郵送していただきます。
協会けんぽの場合、申請書を受付した日を1日目として、平日の10営業日までにお客様の口座に振込を行います。
6、受給できる期間
ポイントの6つ目としては、長期間お休みされる場合、どのくらいの期間を申請することができて、受給できるのか?ですね。
傷病手当金が受給できる期間は、同じ病気やけがで通算して1年6ヶ月です。
実はこの部分、2022年1月に大きく改正されました。
2021年12月31日までは、支給が決定すると支給開始日が設定されます。
その支給開始日から暦のうえで1年6ヶ月までの範囲のなかで、受給できる内容でした。
通算して1年6ヶ月分もらえるわけではなかったので、
例えば、1年間うつ病でお休みし、傷病手当金をもらっている方が、調子をとりもどし、復職したとします。
休んだあとの6ヶ月間働いて、その後、以前のうつ病が悪化してまたお休みすることになった場合、最初の支給開始日より、暦のうえで、1年6ヶ月過ぎているので傷病手当金は受給できません、となっていました。
これが大きく改正されたわけですね。
暦のうえでの1年6ヶ月の間で支給されるのではなく、通算して1年6ヶ月分受給できる内容に変更されました。
先程の例で言えば、
『うつ病』で傷病手当金を1年分もらっているだけですので、6ヶ月間復職して、その後、うつ病が悪化してお休みすることになった場合、また申請して受給できるということになります。
限りはあるとはいえ、また休んだらもらえるのか?という不安な方もおられますので、「通算して1年6ヶ月分もらえる」というのは覚えておいていただきたいですね。
傷病手当金を受給して休職してたけれど、やっぱりどうも治る見込みもないのでそのまま退職したい、でもそうなると、傷病手当金って止まってしまうのでは?と心配される方もいらっしゃいます。
1年以上勤続している方で、会社に所属しているときに、支給の対象になっていれば、退職しても残りの期間は引き続き受給することができます。
以上で、傷病手当金を全体的に解説いたしました。
この手当金は、扶養内で働いていたり、国民健康保険に加入していると受け取ることができない手当であり、社会保険だからこその補償になります。
金額や、支給期間にかぎりがあることには変わらないので、いざという時のために、元気なうちに知っておくのは大事ですよね。