管理職からの法務相談で、「これをやっても大丈夫か?」という質問をよく受けます。
そこで、法的リスクについて説明しますが、こちらの話を真剣に聞いていないような気がするので、いろいろ質問して「大丈夫」の意味を探ってみたりします。すると。。。
「リスクの解説はどうでもいい。大丈夫かどうかだけ言ってくれ。」
という本音が見えてきたります。
「大丈夫」にはいろいろな意味がありえます。
私どもは会社と契約しているので、「会社の法令違反リスク」を真っ先に考えます。しかし、管理職の心理では
<会社はどうでもいい、自分が責任を問われるかどうかだけが気になる。>
という状況になっていて、そのストレスから解放されたくて質問してくるケースが少なくないのです。
自分の判断があとで問題視されたときの保険として、「専門家が大丈夫と言っていた」という言葉が欲しい。だから、私が「大丈夫」と言うまで必死に食い下がります。
なぜそうなるかと言えば、多くの場合は<会社に対する不信感>があるからです。私がカウンセラーとしてパワハラ管理職の不満を聞き取ると、次のような本音が見えてくるのです。
管理職が会社のために法的リスクをふまえて判断しても、会社はそれを理解しようとしてくれない。
売り上げや集客数や、見えやすい結果を出したかどうかだけで評価されるのだから、法的リスクについて判断しても、見栄えの良い結果を出せなければ評価されないどころかドヤされる。
でも、法的トラブルが発生して責任を取らされても困る。だから専門家に「大丈夫」と言ってほしい。
要するに、会社が法的リスクによってどうなろうが知ったことではない、という心理状況になっているのです。法的トラブルが発生しても、自分さえ逃げられればよいのです。だから、
「大丈夫と言ってくれ」
という気分で私に相談をしてくるわけです。
経営者との間でこういう話になると、<不届きな社員だ>という方向に意識が向かってしまう傾向がありますが、こういう現象は多くの場合にコミュニケーションのあり方に問題があります。
会社はわかりやすい成果にしか関心がない。だから誠実に仕事をする気になれない。
と社員が思い込んでいる。これがよくある現象です。
経営者としては、
「いやそんなふうには考えていないよ。誤解されているんだ。」
という思いであったりします。
ならば、誤解されたプロセスを分析する必要がありますが、多くの場合、ここの分析をしないで日々を過ごしておられます。
おおよそこのタイプの会社では、常に悪者を探し求めています。
誰かに責任を取らせようと思考を張り巡らせる経営者や上司。
自分が責任を追及されるのではないかと常に怯える社員たち。
これでは<良い仕事をしよう>と思いたくてもできません。
こんな状況に陥っている会社では、社員が法令知識を身に着けても、役に立たないどころか有害です。
その人が会社に復讐心をもって会社を売ろうとするときには法律知識は武器になるのですから。
ハラスメントトラブルが多い会社では、社員は保身ばかり気にしています。
そういう会社では、ハラスメントトラブルが発生すると、加害社員に対し一方的に不利益処分をだします。
不利益処分が出ると、加害者は被害者と会社を恨み、被害者はいたたまれなくなって退職します。
そうなると加害者も退職。そして恨みを持った退職者は会社の法的弱点を探し出して行政機関やSNSで会社の不祥事を告発する可能性があります。
こうして評判が落ち、採用が難しくなって人手不足が解消されず、会社に残った社員は仕事量が増え、ストレスに耐え切れず退職します。
私がその悪循環を中堅幹部に説明し納得されても、社長の耳に伝わりにくいことがよくあります。
そういう会社の経営者は、会社で起きている現実を知らず、組織としての問題があるという認識もなく、「なにかヘンだな。誰が悪いのだろう。」と感じながら過ごしていますが、アンケートさえ取ろうとしません。
私が悩んだのは、この状況にどう対応してゆけばよいのかということです。
少なくとも、会社の体質を分析して特徴をつかまないことには、適切なアドバイスはできません。
どうせ仕事をするなら、意味のある、ちゃんとお役に立てる仕事をしたいです。
だから、私は法務と心理面の考察を融合して、法務カウンセラーとして経営者や管理職の心情に積極的に関わるサポートを続けてゆきます。
本当のコンプライアンスはそこから目指さなければならないと思うのです。