専門学校に進学した私。
名前は伏せますが、それなりに名の知れた学校でした。
「受験」としてペーパーテストも受けましたし、ある程度の音楽知識がないと
入れないって事も知っていました。
一年間近く、スタジオのオーナーに指導料を払い「音楽理論」を叩き込まれ
ましたし、そこそこには読譜も出来ていましたので結果は「合格」。
前回の話に出てきた「生涯の友」T君と上京し、それぞれ違う新聞販売店で
勤務をしながらの学校生活が始まりました。
T君は「五反田」、私は隣町の「中延」と言う街に配属になりました。
初日、地図を片手に知らない街を歩き回りようやく販売所に到着した頃は夜。
店長:「おぉ!遅かったな?迷ったろ?いやぁ〜ご苦労、ご苦労!」
私:「あ、これからお世話になります、〇〇と申します!
夜露死苦お願いシャス!」
店長:「今日は疲れたろ?早速なんだが、部屋に案内させるから。」
私:「あ、はい!アザース!」
店長:「仕事は明日から教えていくから今日は休みなさい。」
私:「はい。」
店長:「おい!〇〇いるか〜?」
?:「は〜い。」
販売所の台所から出てきたのは、一人の巨漢男。
髪の毛はボサボサの脂ギッシュ!
今思うと俳優の「六角精児」さんをもっと太らせた感じの人。
商店街の中にある販売所からしばらく歩いて「六角」さんが立ち止まります。
「ここ、今日から君の部屋のあるアパート。」
指差した先には、当時でも築60年以上の古びた木造二階建てのアパート。
玄関を開けると、蔵の階段のような急な角度の階段。
二階には四つの「引き戸」の部屋に共同の便所と洗い場。
部屋は四畳半の畳部屋。
六角さん:「ま、こんな感じだから。布団はそれ使って。んじゃ。」
私:「あ、ありがとうございます。」
明日からの仕事の説明を簡単に説明した後に帰る「六角」さん。
・・・・・・・・・・・。
私:「ま、最初だし。こんなもんだろ?」
ひとしきり荷物を下ろし、一息ついた所で視界に何か見えます。
私:「ん?なんだこれ?」
部屋の入り口脇に30センチほどの空間があるのですが、
壁と柱の間から何か飛び出しています。
私:「ん?ンンン!これ、ワラじゃね〜か?なんでこんな都会に?」
壁と柱の間から飛び出していたのは稲の「ワラ」。
どうしても気になるので試しに引っ張ってみます。
グイっ、グイっ、グイ〜っ!
スポっ、、、、、ボロ、ボロボロボロ!
あわわわわ〜!
後から知ったのですが、その「壁」は「土壁」と言う建設技法で作られて
おり、土壁には竹で編んだ「小舞」と呼ばれる格子状のレイヤーに、
「土」と「ワラ」を練り込んだ昔の「コンクリート」的な材料を塗りこんで
いました。
なので、私が引っ張ったのはその材料に当たる「ワラ」を引き抜いて
しまったんです。
どんどん崩れる「土壁」
オロオロする私。
何事かと様子を見にきたお隣のお爺さん。
お爺さん:「はぇ〜、君?ここは古い家だから壁が脆いんだぁ。
お、そうだ。これで塞ぎなさい。」
渡されたのはガムテープ。
私はそこにガムテープで崩れかけた「土壁」を補修。
お爺さんにお礼を言い、何とかその場を凌ぎました。
下の階に住んでいる大家さんにも事情を説明すると、
大家さん:「あぁ、いいのいいの。古い家だから!
でも、今後は気をつけて!」
と、あっさりのご理解。
白い(ほとんど茶色)土壁にビタビタに貼られたガムテープ。
後日、商店街の工具店で白のぶっとい油性のマーカーを購入し塗る。
そんな上京初日の夜のお話でした。
音屋のkatsu