【情報化の功罪】国際・外国語学部小論文の解法/第5回

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(1)入試小論文で「情報化の功罪」は定番


グローバリゼーションには国境を越えて、ヒト・モノ・カネや情報が行き来するボーダレス化が背景にあります。

携帯、スマホ、パソコンなどのデバイス※によるインターネットの普及が情報化を加速しました。

※デバイス:電子部品やパソコンの周辺機器、スマートフォンのような電子機器や端末を総称してデバイスと呼ぶ。

情報化の進展には功罪(よい部分と悪い部分)があります。

大学入試小論文では、国際・外国語学部だけでなく、多くの学部で情報化社会の可能性や課題を受験生に考えさせる問題が出題されています。

今やスマホを持っていない高校生は極めて少ないのではないでしょうか。朝起きたら、スマホのメールを確認し、就寝しても寝床でスマホを操作するという人が多いのではないでしょうか。

このような光景を目にするにつけ、情報化はみなさんにとっても身近な話題であるかと思います。

「情報化の功罪」が出題された場合、まずは自分の体験から考えるのがよいでしょう。

大学・学部の難易度や競争倍率にもよりますが、難関校や倍率の高い入試の場合、自分の体験に加えて社会的な事象も加えて考察し、さらにはこうした具体例を抽象化してまとめることが合格答案を書く上で必須となります。

今回は、その技法を入試問題に即して解説してゆきたいと思います。

(2)問題・「情報化がもたらす可能性と問題点」宇都宮大学国際学部国際文化前期2015年


以下の文章を読んで、情報化がもたらす可能性と問題点を、あなた自身の経験を踏まえて1000字以上1200字以内(改行による空白、句読点を含む)で述べなさい。

① サヴァンナに屹立(きつりつ)し、携帯電話で通話する牧畜民(遊牧民)マーサイ(注1)の美しい戦士が描かれた巨人な看板。ケニアの首都ナイロビの路上で、それを目にするようになったのはここ数年のことである。おそらくは、「我が社の通信網ではこんな僻地でも圏内ですよ」ということを強調するための携帯電話会社の広告なのだが、たしかに印象的ではある。

② 近年、国内外で、アフリカ牧畜民の携帯電話利用を扱った報道をよく目にするようになった。しかし、まさか、BBCや朝日新聞でもとりあげられるようになるとは、筆者も夢にも思っていなかった。携帯電話を利用するアフリカの牧畜民、とくにマーサイの姿は、相当印象的に見えるらしく、いまや世界中の注目を集めている。筆者も、グローバリゼーションの典型例としてそうした写真を高校の教科書に使用したいという問い合わせを受けたことがある。

③ アフリカの牧畜民と携帯電話。たしかに、これほど、今日の世界のグローバリゼーションをわかりやすく示している例はないかもしれない。こんな僻地にまでグローバルな通信網は及んでおり、文字通りアフリカの「村」が、かつてマクルーハン(注2)が予見した「グローバル・ビレッジ」の一部になったというわけだ。(中略)

④ アフリカの携帯電話利用というと、貧困層でも利用できるメディアとして、その利点はかりが強調されるが、問題点もある。2010年8月末から9月初旬にかけて、東アフリカのある国では、流言が広まったことがあった。この流言は、特定の電話番号に発信すると、電波の影響で脳から出血し、死に至るので、発信しないように警告する内容のものであった。その電話番号に電話をかけると、その番号が、赤色でディスプレイに表示されるという。

(中略)

⑤ こうして流言が急速に拡大したことは、国民の多くが流言の内容に対する批判的検討力を欠いていたことを示している。いずれにせよ、かつてない速度で流言が拡がったことは、アフリカ遊牧社会では、携帯電話の伝達能力が望ましくない方法で活用された場合、大きな危険性をもたらすことを示していると思われる。

⑥ 残念ながら、その危険性はすでに現実化している。東アフリカの牧畜社会では、自動小銃などの武器が拡がっており、紛争が頻発している。携帯電話は、この地の紛争を一変させてしまったのである。ある牧畜民の紛争は、携帯電話普及期の2004年に始まり、2009年に終結したが、この紛争では、携帯電話が紛争の激化に大きな役割を果たした。携帯電話を利用することによって、短期間に多くの戦闘員を動員することが可能になった。以前は歩いて動員するより他なかったが、この紛争では、多くの戦闘で、攻撃をする場合も、防衛をする場合も、携帯電話で援軍要請の連絡が行われ、その結果、それ以前では考えられなかった数百人規模の戦聞員が集結したため、紛争は急速に拡大した。

⑦ しかし、その一方で、携帯電話は平和構築にも役割を呆たしている。紛争が終結すると、アフリカ牧畜民は、地域住民同士で自主的に話し合って、携帯電話を利用した民族間連絡網を創り出した。敵対する集団間で、携帯電話の番号を交換することで、小さな事件の情報を共有し、それが集団全体に対する紛争であるとの誤解を解き、紛争の拡大に繋がらないように努めているのである。

⑨ たとえば、家畜が盗まれると、お互いに情報を共有することで、大きな紛争の意思がないことを確認し、協力して家畜を捜索したりするようになった。実際に、この携帯電話を利用した民族間連絡網が導入されてからは、民族間の紛争件数は激減した。彼らの地域では、はっきりいって、警察はあてにはならない。先進国の開発援助団体も、平和構築支援を実施してきたが、この携帯電話による民族関連絡網は、いかなる外部からの支援にも増して成功を収めていると断言できる。

⑩ グローバリゼーションには光と影がある。冒頭に述べたように、アフリカの牧畜社会への携帯電話の普及は、グローバリゼーションのもっともわかりやすい例だが、そこにもやはり光と影がある。たしかに、国民国家から見放され、電気もガスも水道も固定電話もない地域に生きる貧困層の牧畜民が、携帯電話によって安価にコミュニケーション手段を手に入れることができたことの意義は計り知れない。

⑪ しかし、同時に、携帯電話が間違った情報を増幅して伝えたり、携帯電話によって紛争が急速に拡大したりしたことを見落とすべきではない。やはり、そこには光と影がある。この意味で、当初、紛争拡大の手段として用いられた携帯電話が、その後、平和構築の手段として用いられたことは、多くのことを考えさせてくれる。

⑫ アフリカの牧畜民は、いわば、影のなかから希望の光をつかみ取ったのだ。(中略)

⑬ アフリカ牧畜民が携帯電話を利用していること自体は、何ら驚くべきことではない。これに対して、携帯電話で、敵方と情報を交換することで紛争を防ぎ、平和を構築していることは、驚くべき試みに思える。(中略)アフリカの牧畜民は、国民国家から周縁化された世界のなかで、新しいテクノロジーと出会い、それと格闘し試行錯誤しながらも、メディアと人間の新しい可能性を切り拓きつつある。この意味で、テクノロジーの最先端は、シリコン・バレーだけでなく、アフリカのサヴァンナでも追求されている。ただ、われわれがそれを知らなかっただけなのである。

(湖中真哉「携帯電話を手にしたアフリカ牧畜民、その光と影」による)

(注1) マサイともいう。
(注2)カナダの英文学者、文明批評家。

(3)考え方


今回の問題の一番の難点は指定字数が1000字以上1200字以内と長いことにあります。

大半の受験生の答案を見ると、書いている途中で息切れして、指定字数に足りずにショートしたり、なんとか字数を埋めようとして同じことを繰り返し書いたりするといったものが目につきます。

字数を増やすコツは、今回のように要約問題が付いていない場合には、答案の中に参考文の内容を要約して埋め込むという方法があります。

第一段落をまるまる要約に充てるやり方もありますが、解答例では、第二段落、第三段落の途中途中で要約をはさみました。

それでも、自分の経験を書くことだけで精一杯で、最後は尻切れトンボで終わってしまう人も多いでしょう。

今回は、このような指定字数より短い「悪い解答例」と、これを添削した「よい解答例」の2つを並べて、字数を増やす工夫について解説していきます。

スクリーンショット (1624).png

(4)【解答例①】悪い解答例=短すぎる例


1⃣インターネットの普及によって登場したSNSはメディアのあり方を大きく変えた。新聞やテレビといった従来のマスメディアは情報操作の問題が指摘されているものの、大半の情報はプロのジャーナリストの綿密な取材の下に構成され、ファクトチェックを経た事実が報道されている。一方、ブログや掲示板などのソーシャルメディアの多くは報道機関に加えて、専門家でない素人が毎分毎秒、世界中で情報を発信している。これにともなってさまざまな問題が噴出している。

2⃣参考文でも指摘されているように、流言飛語が拡大し人々の生活に混乱をもたらし、支障をきたす場合がある。2020年の新型コロナウイルス感染拡大に伴い、マスクが店頭から品切れになった際、トイレットペーパーも入手困難な状態が続いた。これはネット上で噂が広がったことによるものと言われている。2016年4月に発生した熊本地震の直後、「動物園からライオン逃げた」というデマが写真とともに投稿されて、被災者の不安を増大させたことがあった。これは刑事事件となり、投稿した男が逮捕される事態に至った。

3⃣こうした問題が発生する一方で、情報化は私たちの生活の大きな可能性をもたらすこともある。参考文では、携帯電話を利用した民族間連絡網が整備され、情報の共有化が促進された結果、紛争の解決につながり、地域の平和構築に寄与したとある。このような情報の共有化による恩恵は私の高校でも進んでいる。課題の提出や学校からの連絡が電子化されて、紙資源の節約に加え、教師への質問などもしやすくなり、私たちにとって学校や教師がより身近な存在になった。

4⃣このように、情報化の進展はよい部分と悪い部分を合わせ持つが、私たちはそれぞれを意識しながら、情報をうまく使いこなすようにしたい。

(745字)

(5)短い答案を長くするコツ


 【解答例①】では、ここまで一通り考えたことを書ききってしまったため、書くことがなくなり、最後の第四段落では急いで結論に到達させるために、取って付けたような文章で締めくくっています。


 それでも結論は短いなりに無難に処理していて、指定字数が800字以内であれば条件を満たしている(745字)ので、それほど悪い評価点ではないかと思われます。

 しかし、今回は指定字数が1000字以上1200字以内であり、大幅に字数が短くなってしまっています。これでは大量減点は免れず、とうてい合格点をもらうことはできません。

 そこで、添削をするにあたっては、第四段落をそっくり差し替える方法を採りました。

 要は、最後のまとめをどう書くか、という話になるのですが、その方法としては、本講座(OK小論文)で繰り返し説いている「具体表現⇔抽象表現」の転換を使うのです。

 【解答例①】では、自分の経験や具体例が多く書かれているだけで、抽象表現があまり用いられていません。したがって、読者に対して、まとまりの悪い幼稚な印象を与えてしまうのです。

 そこで、以下に具体表現の抽象化の例を挙げます。

(6)2字熟語を使って抽象化する


【具体表現】これはネット上で噂が広がったことによるものと言われている。



↓ 抽象表現に変換して、さらに評価も加える。

【抽象表現】いったんネット空間に拡散した情報はたとえ誤った内容であってもこれを回収することはできない。



上記の文では、「拡散」が「噂が広がった」の抽象表現になります。さらに、「これを回収することはできない」が、「拡散した情報」に対する評価にあたります。

(7)カタカナ語を使って抽象化する


 さらに結論は、「課題(情報化の問題点)」に対する解決策として、カタカナ語の専門用語を用いるという方法を採ります。

参考文では、「国民の多くが流言の内容に対する批判的検討力を欠いていたこと」から起こる危険性、答案では、ネットの噂によるトイレットペーパーの入手困難や熊本地震直後のデマによる被災者の不安の増大などが「課題」にあたります。


こうしたメディアの情報に対する主体的な対応能力のことを専門用語で「メディアリテラシー」と言います。

結論部分では、情報とうまく付き合うためには、「メディアリテラシーを身に着ける」という抽象表現を使った一文を挿入します。

その具体的な方策として、学校教育のICT化の促進を挙げれば、第三段落の私の学校での「課題の提出や学校からの連絡が電子化」という件(くだり)ともマッチします。

このように、結論の最終段落(第四段落)では、第一段落から第三段落まで書いたことがすべて結びつくようなまとめ方をすることが、合格答案に一歩でも近づくことになります。

すべての支流はひとつの本流に注ぐ。

これが小論文を書くうえでの要諦(ようてい)です。


(8)【解答例②】よい解答例


1⃣インターネットの普及によって登場したSNSはメディアのあり方を大きく変えた。新聞やテレビといった従来のマスメディアは情報操作の問題が指摘されているものの、大半の情報はプロのジャーナリストの綿密な取材の下に構成され、ファクトチェックを経た事実が報道されている。一方、ブログや掲示板などのソーシャルメディアの多くは報道機関に加えて、専門家でない素人が毎分毎秒、世界中で情報を発信している。これにともなってさまざまな問題が噴出している。

2⃣参考文でも指摘されているように、流言飛語が拡大し人々の生活に混乱をもたらし、支障をきたす場合がある。2020年の新型コロナウイルス感染拡大に伴い、マスクが店頭から品切れになった際、トイレットペーパーも入手困難な状態が続いた。これはネット上で噂が広がったことによるものと言われている。2016年4月に発生した熊本地震の直後、「動物園からライオン逃げた」というデマが写真とともに投稿されて、被災者の不安を増大させたことがあった。これは刑事事件となり、投稿した男が逮捕される事態に至った。

3⃣こうした問題が発生する一方で、情報化は私たちの生活の大きな可能性をもたらすこともある。参考文では、携帯電話を利用した民族間連絡網が整備され、情報の共有化が促進された結果、紛争の解決につながり、地域の平和構築に寄与したとある。このような情報の共有化による恩恵は私の高校でも進んでいる。課題の提出や学校からの連絡が電子化されて、紙資源の節約に加え、教師への質問などもしやすくなり、私たちにとって学校や教師がより身近な存在になった。

4⃣いったんネット空間に拡散した情報はたとえ誤った内容であってもこれを回収することはできない。したがって、情報の受け取り手ある私たちは、情報の真偽や価値を主体的に判断するメディアリテラシーを身に着ける必要がある。そのためには、学校での情報教育が重要となる。すでに一般企業では、I C Tが進んでいるが、教育の現場での導入は著しく遅れている。私の学校のような例はまだ一般的ではない。これからの時代は、小・中・高で児童や生徒ひとりがタブレットを1つ持ち、授業や連絡でこれを用いるようになるだろう。そうすることで、情報機器の扱い方や正しい情報の入手方法や、その価値判断や分析を早いうちから児童・生徒に身に着けさせせることができる。このような学校のICT化は、子どもがネット犯罪に巻き込まれることを未然に防ぎ、情報を私たちの生活にとって有意義なものとして利活用できる機会を与える。私たちが情報とうまく付き合うためには、まずは学校教育の現場からメディアと人間の新しい可能性を開拓する必要に迫られている。(1117字)



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