中小企業経営のための情報発信ブログ366:組織開発

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ビジネス・マーケティング
今日もブログをご覧いただきありがとうございます。
組織内のコミュニケーションを活性化させ、従業員同士の関係性に働きかけることで、一人一人の能力を引き出し組織を変化させていくという「組織開発」が注目を集めています。コロナ禍で、「組織開発」の重要性はさらに高まっているように思います。
独自の企業文化をベースにエンゲージメントを醸成し、組織開発に活かしたスターバックスの事例を引き合いに「組織開発」を実践する手法を見てみます。
1.チームの業務が「自分ごと化」され、協働の文化が生まれる組織の特徴とは
 まず南山大学中村和彦教授による「組織開発」の定義からです。ここでいう「開発」というのは、工場でのモノづくりの開発ではなく、植物を栽培するように「発達・成長を育む」ことを意味します。
 中村教授は「人や職場の関係性の発達・成長は、生産物を作る過程とは異なっています。必要になるのは、チームの中での信頼関係や協働関係を耕していく視点」と言ってます。さらに、中村教授は、「組織構造や制度というハード面の変革だけでは組織開発とは言えない」とし「重要なのは、発達や成長を促進しサポートすることで、従業員自身が当事者意識をもって自分たちで変えていくこと」と言っています。
 こうした組織開発の取り組みにおいて重要な役割を果たすのが「企業文化」です。「企業文化」というのは、組織内で共有されている「暗黙の基本的仮定」、つまり企業と社員との間で共有・形成される独自の価値観や文化、規範、ルールといったものです。創業時から積み重ねられた実績や経営方針によって形成され、新しく組織(企業)に入った人は企業文化から学習していくというサイクルを繰り返します。
 「私がすること=個業」が多い組織に比べ、「私たちがすること=私とあなたの重なり合い」つまり「自分ごと化」が進んだ組織では、価値観の共有や協働によって企業文化が醸成されていくのです。
 また、企業文化の形成には、組織の構成員がどのようなマインドセットを持っているかも大きく影響します。「業績マインドセット」が主流の企業では、結果や業績を優先し個性が重視されます。これは前述の「私がすること=個業」の組織です。一方で、「発達・成長マインドセット」が主流の企業では組織内での対話が重視され、協働関係が育まれることで業績が上がるというサイクルを生み出す「自分ごと化」が進んだ組織と言えます。
 中村教授は、「スターバックスでは、自分に与えられた業務(個業)をこなすだけになりやすいアルバイトスタッフにも、チームの業務が自分ごと化され、協働の文化が生まれている」と言っています。
2.自分自身の目標とスターバックスでの仕事を重ね合わせて「自分ごと化」していく
 スターバックスは「人々の心を豊かで活力あるものにするため— ひとりのお客様、いっぱいのコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」というミッションを掲げていますが、その背景にあるのは「企業理念に共感したパートナーとのエンゲージメントを通じて提供価値を高め、競争優位性を圧倒的なものにしたい」という独自の考え方です。会社が大切にしているものと個人が大切にしているものとを重ね合わせて生まれる「共感」がエンゲージメントのベースになっているということです。
 エンゲージメントという言葉には様々な意味がありますが、ここでは「従業員一人一人が組織に愛着を持ち、従業員と組織が一体となってお互いに成長し合い絆を深めること」と理解しておきます。
 スターバックスでは、この「共感」をエンゲージメントにつなげていく方法として、アルバイトスタッフなり新しく入社したパートナーに、個別に店長が対話をしながら、そのパートナーの課題を見出し、その課題克服のための方法や目標を一緒になって設定します。こうしてパートナーは自分自身の目標とスターバックスでの仕事を重ね合わせ、「自分ごと化」を進めていくのです。そして、上司や同僚からのフィードバックを受け、スターバックスが掲げる理念により深く共鳴して自発的に行動するようになるのです。
 そのための仕組みとして考えられているのが、パートナーの誰もがスターバックスを自分の居場所として感じられる文化を作ることです。店舗においても「レーティングのない対話型評価」を導入し、コミュニケーションを活性化させ自発的成長を促します。パートナーは、入社時から「ここにいる理由」を問い続けられます。仕事を通じてどうありたいのか、どのように成長したいのかを自分自身の言葉で明確にすることで、内発的動機付けにつながるのです。
3.一人ひとりがスターバックスに共感し、自発的に行動する
 スターバックスの「レーティングのない対話型評価」というのは、上司が部下との対話を通じて評価していくということです。レーティングという言葉も多義的で、使われる分野が異なれば意味も異なります。一般に投資の判断材料を格付けする言葉として利用されますが、「対象となる事柄に対して、ある基準に基づいて、等級分け・数値化を行って評価すること」です。
 スターバックスでは、レーティングによる評価では人に枠をはめることになり、人の成長を阻害しかねないと考えています。スターバックスは人を大切にして成長してきた企業なので、人にレッテルを貼ること自体、本来あるべき姿ではないと考えるのです。パートナー自身のありたい姿と会社の目標をすり合わせしながら、対話を続けて評価につなげるのです。
 また、スターバックスでは、「行動強化」と「行動是正」の両面でフィードバックを行っています。是正する場合も「できていなかった」というだけのフィードバックではなく、「なぜうまくいかなかったのか」について、本人に考えてもらいながら気づきへとつなげていくのです。まさに「耕す」「育てる」という文化を作っているのです。
4.スターバックスの3段階の成長プラン
 スターバックスの人材育成のプロセスは、次の3段階です。
Ⅰ:自己存在の証明・・・自分は何者なのか、自分はどんなふうに役立てるのかという自己許容のためのステップ
Ⅱ:自分自身に対する期待感・・・ロールモデルとなる上司や先輩から認められることで承認欲求が満たされ、自己解決能力が高まり、人からも信頼されるようになる。
Ⅲ:他者への影響・・・自分自身だけでなく、店舗の仲間や地域コミュニティ、更に大きな視点では社会全体へ貢献したいという思いにつながっていく。
 2020年、スターバックスは、「つながりを通して、多様性あふれる心豊かな地域・社会を日本中に創造する、唯一無二のブランドになる」という新たなビジョンを打ち立てました。そして、2021年から、この新たなビジョンをパートナー自身が自分ごと化できるような新たなセッションを開始しています。パートナーにこのビジョンを落とし込むだけではなく、対話を通じて自分ごとにしてもらうのです。自分たちの強みを自覚し、日々の目の前のことにしっかりと取り組む一方で、自分ごととしてビジョンをとらえ、行動の変化につなげていくということです。
中村教授は、スターバックスの取り組みについて「機会を作り、対話することを大事にしながら、一人ひとりが行動することで文化が形成されていると感じた」と述べています。
スターバックスを真似るということは企業文化が違う以上、難しいことではありますが、自社の企業文化を明確にとらえたうえで組織開発を行うことは重要です。そして、最も重要なのは、組織内のコミュニケーションを図り、組織としてチームとして、共有・協働しながら「自分ごと化」していくことです。スターバックスの取り組みは大いに参考になると思います。
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