中小企業経営のための情報発信ブログ234:絶対悲観主義

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今日もブログをご覧いただきありがとうございます。
さて、今日は、楠木建著「絶対悲観主義」(講談社+α新書)を紹介します。楠木氏については、これまでもブログで何度も紹介していますので改めて紹介の必要はないと思いますが、一橋大学ビジネススクールの教授です。楠木氏の本は、学者の本としては本当に面白く、この本も非常に面白い内容になっています。
皆さん、頑張りすぎていませんか?そんなに心配することはありません。なぜなら、そもそも仕事で自分の思い通りになることは、ほとんどないから」冒頭から、楠木節の炸裂です。「元も子もない」話ですが、これが真実です。「うまくいくはずがない」という真実を直視すれば、我々を縛り付けている呪縛から自由になれるのです。絶対悲観主義で仕事に取り組めば、もっと気楽に、淡々と仕事に取り組めるのです。
1.絶対悲観主義
 「絶対悲観主義」というのは、楠木氏がたどり着いた仕事に対する心構えです。
 楠木氏によれば、自分以外の誰かのためにするのが仕事で、自分のためにするのは趣味です。趣味というのは、自分の世界で自分を喜ばせさえすればいいのですが、仕事ではそうはいきません。仕事というのは、自分以外の誰かに価値を提供し喜んでいただくもので、あらゆる仕事にはお客様がいます。ここでいうお客様は、お金を払ってくれる顧客だけでなく、組織の中で自分の価値を必要としてくれる人すべてを意味します。上司や部下、同僚もここではお客様です。
 相手がある話なので自分の思い通りにはいきません。それが仕事なのです。思い通りにいくかいかないかはやってみないとわかりません。
 ですから事後的な結果は、コントロールできないのです。しかし、事前の構えは自分で固められます。仕事には、このようなある種の哲学が必要になります。それが「絶対悲観主義」です。「絶対に自分の思い通りに行かないぞ」という意識でいることです。
「世の中そんなにうまくいかない」「いい事なんて一つもない」という思いで事前に構えておくことです。絶対悲観主義という言葉も「自分の思い通りにならない」という言葉も言葉だけを捉えれば、ネガティブな印象を受けますが、楠木氏は極めてポジティブです。何事においても、「まあ、うまくいかないだろうな」と思いながらも「でもちょっとやってみるか」と考えて行動を起こすのです。
2.「事前」と「事後」、「うまくいく」と「うまくいかない」の2つの軸
 分析的に2つの軸で考えます。1つの軸は「事前」と「事後」、もう1つの軸は「うまくいく」と「うまくいかない」です。この2つの軸を組み合わせると4つの局面ができます。
 Ⅰ:事前にうまくいくと思っていて、事後やってみたら実際もうまくいったというパターン
 Ⅱ:事前にはうまくいかないだろうと思っていて、実際やってみたらうまくいったパターン
 Ⅲ:事前にうまくいくと思っていて、事後やってみたらうまくいかなかったパターン
 Ⅳ:事前にうまくいかないだろうと思っていて、実際うまくいかなかったパターン
 絶対悲観主義が追求するのは、2番目のパターンです。うまくいかないだろうと事前に悲観的に予測していてうまくいった場合、すごく嬉しいものです。1番目のパターンであるうまくいくと事前に予測し実際にその通りになった場合より、幸福度は高いものです。最悪なのが3番目のパターンです。事前にうまくいくと思ってやってみたらうまくいかなかった場合は、本当に辛いものです。4番目のパターンのように、はじめからうまくいかないと思っていた場合の方が落ち込みは少なく済みます。
 フランスの思想家ベルナール・フォントネルは「幸福の最も大きな障害は、過大な幸福を期待することである」と言っています。過大な期待はNGです。
 仕事というのは、色々な利害を抱えている人が相手です。それぞれが自由意思で動いているので、他人を思い通りにコントロールすることは不可能です。自分をコントロールすることさえ難しいのです。自分の思い通りにならないことの方が当たり前と割り切ることです。思い通りに行くことは例外で、思い通りになったら儲けものという意識でいいのです。
 仕事の現場では、思い通りに行かない・失敗することの方が多い、失敗は負けではありません。失敗については何度も書いていますが、失敗から学んで成功へとつなげていけばいいのです。失敗すれば、「そうは問屋が卸さないか」と呟いて、しみじみと味わい深い幸福感を味わいながら、次に向けて取り組んでいけばいいのです。
 これが楠木氏が言う「絶対悲観主義」です。
3.絶対悲観主義のメリット
 絶対悲観主義の利点の1つは、仕事での実装がものすごくシンプルで簡単ということです。やるべきことは、ただ1つです。マインドセットのつまみを思い切り悲観方向に回しておくことだけです。仕事で結果を出そうと事後のことを考えると大変ですが、単なる事前の「構え」なので、好きなように好きなだけ操作できます。ここぞと言うときに、つまみの可動領域を思い切って悲観に振っておけばいいのです。そのときに万が一うまくいったら、めちゃくちゃ嬉しいものです。ただ、大体失敗します。しかし、失敗しても期待値はそれほど高くないので落ち込む度合いは低いのです。初期設定からうまくいくとは思っていないので、心安らかに失敗を受け止めることができるのです。
 絶対悲観主義の2つ目の利点は、わりと自然体で気楽に取り組むことができるということです。どうしても取りかかれない、つい先送りしてしまうのは、失敗できない、うまくいかなかったらどうしようと躊躇してしまうからです。うまくやろうと構えるから、思いのほか固くなって緊張してしまうのです。
 絶対悲観主義の3つ目の利点は、悲観から楽観が生まれるということです。先ほども書きましたが、絶対悲観主義はポジティブです。絶対悲観主義にはリスク耐性が高く、リスクに対してオープンに構えることができます。
 自分の能力に自信がある人はプライドが高く、失敗したときに大きくへこみます。プライドは仕事の邪魔でしかありません。傷つくのが怖いから身動きがとれなくなります。変に緻密な計画を立て、計画通りに行くことは少ないので、益々疲弊するという悪循環に陥ります。プライドを捨てて、うまくいくはずはないと絶対悲観主義でいければ、リスク耐性も高まります。
 絶対悲観主義の4つ目の利点は、リスク耐性だけでなく、失敗したときの耐性も強くなります。絶対悲観主義は失敗は常に想定内です。失敗しても平常心で受け止めることができ、挫折とも無縁です。うまくいかなくても落ち込むことなく、次に向かって突き進むことができます。
 絶対悲観主義の5つ目の利点は、自然と顧客志向になり、相手の立場で物事を考えることができるようになります。
 絶対主観主義に6つ目の利点は、10年後に自分に固有の能力なり才能のありかがはっきりとしてきます。
4.投資効果の高い絶対悲観主義
 仕事に対して気楽に向き合える、失敗が気にならない、リスク耐性がつく、相手の立場で考えられる、自分の才能のありかがつかめるなど、絶対悲観主義は一石で何鳥にもなります。しかもやることは、心(マインドセット)のつまみを思い切り悲観の方向に回すだけです。極めて投資効果が高いと言えます。
 但し、絶対悲観主義は、仕事の構えをラクにするためのものであって、仕事の成果や成功を約束するものではありません。野球で言えば、投球フォームやバッティングフォームのようなものです。構え(フォーム)が優れていても、試合で成果が上がるかはわかりません。試合で成果を出すには同じフォームで投げ続け、バッティング練習して努力するしかありません。仕事も同じです。仕事で成果を出すには、自分の土俵をここと決め、目の前のお客様に誠実に向き合い、自分の才能と能力に磨きを掛けていくしかないのです。
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