中小企業経営のための情報発信ブログ98:ジョブ理論

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今日もブログをご覧いただきありがとうございます。
今日は「ジョブ理論」についてです。
ジョブ理論」というのはクレイトン・クリステンセン教授が、その著「ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム」(ハーバーコリンズ・ジャパン)で提唱した考え方です。
クリステンセン教授は、「イノベーションのジレンマ」「イノベーションの解」「イノベーションのDNA」などの著書で知られたイノベーション理論の第一人者です。
イノベーションについては、これまでも色々書いてきていますが、「言うは易しく行い難し」です。イノベーターだという人の中には常識外れの無茶な挑戦をする人がいますが、無茶をするだけでは成功率は極めて低いものです。クリステンセン教授は、イノベーションには成功パターンがあると言います。この成功パターンが分かれば、イノベーションを運任せにする必要はなく、成功確率は断然アップします。それがクリステンセン教授が提唱する「ジョブ理論」です。
1.ジョブ理論」とは?
 「ジョブ理論」というのは、「顧客が商品・サービスを購入する理由を明らかにして、それにまつわる解決策を提供する一連の考え方」で、ここでいう「ジョブ」とは「特定の状況で顧客が成し遂げたい進歩」のことです。簡単に言えば、「顧客が片付けなければならないこと」です。
 ジョブ理論では、「ジョブ」「解雇」「雇用」という独特の言葉で、商品やサービスを買う理由を考えていきます。
 例えば、我が家の庭の植木の枝が伸び放題で、隣の敷地にはみ出し苦情が来ています。自分で枝を切ろうと思うのですが、以前自分で枝を切って、見栄えが悪いだけでなく新芽が出ず花が咲かなかったことを思い出しました。そこで、植木屋に連絡を入れて庭師に枝を伐採してもらいました。見栄えは良くなり、これで安心して春に花を楽しくことができます。
 私は「枝を切らなければならない」という「ジョブ」から「解雇(解放)」され、庭師が新しく「雇用」されたというわけです。
 アメリカの企業では、新しい仕事が発生するたびに、そのスキルを持つ人が雇用され、その仕事が終わると解雇されます。いわゆる「ジョブ型雇用」でいうところの「ジョブ」です。「ジョブ理論」は、このアメリカ流の仕事の仕方に例えたものです。
 マーケティングの有名な言葉に「ドリルを買う人が欲しいのは『穴』である」というのがあります。これは、セオドア・レビットがその著「マーケティング発想法」(ダイヤモンド社)の中で語ったことです。顧客がドリルを購入する理由は、「商品としてのドリルそのものではなく、ドリルを使って得られる解決策である穴」であるというのです。ドリルを売る人は製品志向で製品の性能ばかりを説明しますが、顧客が真に求めているのは、商品そのものではなく、商品を使用することで得られる効能、つまり問題解決にあるのです。顧客視点に立って、顧客がなぜ穴を開けたいかを聞き出してみると、案外穴を開ける必要はなく、問題解決に必要な商品はドリルではなく、別の商品かも知れないのです。
 ドラッカーも「顧客が欲しいのはプロダクトではなく、彼らが抱える問題の解決策だ」と言っています。
 ジョブ理論は、レビットやドラッカーが指摘したドリルの穴と問題の解決策が重要だという主張と基本的には同じであると言えます。レビットやドラッカーの問題の解決策(ドリルを買って得られる解決策)が、ジョブ理論のジョブ(特定の状況で顧客が成し遂げたい進歩)なのです。
2.ミルクシェイクのジレンマ
 「ジョブ理論」の根底にあるのが「顧客は解決したいジョブを片付けるために、商品やサービスを購入する」ということです。
 ジョブ理論では、顧客が抱えるジョブを理解するためのエピソードとして「ミルクシェイクのジレンマ」が紹介されています。
 あるファーストチェーンでは「どうすればミルクシェイクがもっと売れるのか」という悩みをもっており、その答えを探すために、数ヶ月かけて詳細な調査をしました。ミルクシェイクを買う顧客に「どんな点を改良すればミルクシェイクを買いますか?」「値段を安く?」「量をもっと多く?」などの質問をし、顧客を満足させるためにさまざまな「カイゼン」を行ないました。しかし、売上には全く変化はありません。
 そこで、調査チームは別のアプローチでミルクシェイクの問題に取り組みます。なぜ「ミルクシェイクを購入したのか?」という視点です。顧客がミルクシェイクを購入する理由は「商品であるミルクシェイクそのものではなく、ミルクシェイクを購入することで得られる何か」というアプローチです。これはドリルの穴に相当します。
 調査の結果、早朝に来店している顧客が頻繁にミルクシェイクを購入していることが分かります。インタビューをすると、ドリルの穴が見えてきたのです。早朝にミルクシェイクを購入する顧客は、通勤時間帯に気を紛らわせる何かが欲しいという理由でミルクシェイクを買っているということが分かったのです。顧客は「バナナではダメなんだ。すぐに食べ終わるからね。ドーナツだと手がベタついて運転できない。ベーグルだとパサついて喉が詰まる。ミルクシェイクがちょうどいいんだ」と回答するのです。粘度の高いミルクシェイクは飲み干すには時間がかかり、昼までにやってくる空腹感を補うにもちょうど良く、運転中でも片手で飲むことができます。それで多くのライバルを蹴落としていたのです。
 ここで調査チームは興味深い重大なことを発見します。それは、ミルクシェイクを買う人に人口統計学的な共通項がないということです。共通点はただ1つ、午前中に解決したいジョブがあるということのみです。
 一方で、調査チームは早朝だけでなく、午後や夜、決まった曜日などに大量に買われることを見いだします。それらはまた違う理由で買われていたのです。特に休日に父親が子供に買い与えているケースが多いのです。彼らのジョブは「優しい父親の気分に浸る」というものです。
 ミルクシェイクを結果的に購入する行為は同じでも、顧客が購入するまでの状況や基準が全く異なっているのです。ファーストフード店がもっとミルクシェイクを売りたいと考える場合、解は1つではなく、複数の解決策を同時に考えなければならないということです。
3.ジョブを見つける5つのポイント
 ジョブ理論では、ジョブを見つけるための5つのポイントを示しています。
Ⅰ:身近な生活の中でジョブを探す・・・ジョブを探すはじめの一歩は自分自身の生活から見いだすことです。「身近な生活の中」はジョブの宝庫で、日々の生活の中で起こった「ひらめき」や人とのやりとりの中からまだまだ学ぶことは多いといえます。
Ⅱ:「無消費」に注目・・・特定のジョブそのものに未だ解決策が提供されていない顧客は、何も消費することをしないため、無消費の状態にあるという考え方です。例えば、高齢化社会になり、アクティブシニアが増えたことで高齢者向けのおむつの売上にも火がつきました。従来のおむつは障害・病気・老人といったマイナスイメージでしたがジョブを「楽しい生活を取り戻すこと」と捉えたメーカーが、見た目や販売形態を通常の下着と同じようにした結果、多くのシニアが飛ぶつくようになったのです。
Ⅲ:「その場しのぎの対応」に注目・・・ジョブそのものは認識され、解決策も存在していますが、その解決策に満足しておらず、その場しのぎで購入している消費者に目を向ける考え方です。顧客の「その場しのぎの対応」を観察することで新たなジョブを発見できるというものです。
Ⅳ:「できれば避けたいこと」に注目・・・例えば、病院の待合室で他の人から病気を移される可能性があり(できれば避けたいこと)、予約システムで診察時間の直前にメッセージが届けば、待たされることがなくスムーズに診察ができ感染が防止できます。
Ⅴ:「意外な使われ方」に注目・・・例えば重曹ですが、元々は調理用の商品だったが、掃除や歯磨き、脱臭など企業が想定していなかった用途で使われるようになりました。企業もさまざまな用途での商品開発を行ない、関連商品の売上が調理用途の10倍以上にまでなっています。
4.ジョブ理論の実践方法
 ジョブ理論の実践手順は次の通りです。
Ⅰ:ジョブ・ハンティング(ジョブを見いだす)
 Ⅱ:顧客がジョブを解決するために用いている現在の方法を手放し、自社の製品・サービスを雇用するまでのストーリーを作る
 Ⅲ:顧客が自社の製品・サービスを雇用するのを妨げる要因を取り除く、あるいは緩和する体験を用意する
 Ⅳ:ジョブを中心に製品・サービズ、プロセス、組織を構築し、ジョブの達成を図る基準を設ける
 まず、ジョブを見いだすのが大前提で、これが第1ステップですが、それについては前述の通りです。顧客の状態が把握できれば、次は、無消費も含めた現在の選択肢を解雇し、自社の製品・サービスを採用してもらうためのストーリーを作ります。顧客にはジョブを達成するまでのストーリーが存在し、それを見いだすことがイノベーションに繋がるのです。顧客のストーリーにマッチする自社のストーリーを築き上げることが重要になります。顧客が自社のストーリーに共感することが大切なのです。次に、顧客が自社の製品・サービスを雇用しない要因を排除・緩和することです。顧客が何を目的として製品・サービスを採用したいのか、顧客の問題を的確に把握することで自社の製品・サービスが雇用されない要因は分かるはずです。その要因が分かれば、どのようにすれば、その要因を排除・緩和できるかを真剣に考えることです。ストーリーが完成すれば、ジョブを中心に製品やサービス、プロセス、組織を構築することです。製品やサービスからではなくジョブを中心に構築することで、製品やサービスとジョブの結びつきが強くなります。顧客にとって、ジョブが発生した時にすぐに思い浮かぶブランド(製品やサービス)になるようにすることです。
先ほどのミルクシェイクの事例で見たように、同じ顧客であっても、状況によってジョブは異なります。ジョブが変われば、競争相手も全く変わります。
「誰が」「何を」ではなく「どんな場面で」「なぜ」にフォーカスするのが、ジョブ理論です。イノベーションを生むために不可欠な要素は、顧客の特性でもプロダクトの属性でもなく、顧客が置かれた状況とその状況において追求したい進歩、つまり「ジョブ」だということです。
ジョブとニーズとは異なります。顧客のニーズというのはある意味漠然としています。ニーズがあるからと言って必ずしもニーズに合った商品やサービスを採用するとは限りません。ニーズに合った商品やサービスを作ったつもりでも、顧客の真のニーズから乖離しているということもあります。それに対して、ジョブというのは、顧客の具体的で切実な状況から生まれるものです。
今の顧客は、多くの選択肢があるので、単にニーズに合っているというだけでは買ってくれません。本当に解決しなければならない具体的で切実なジョブを解決できる商品・サービスでなければならないのです。
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